「水を扱うメディアとして、飲み水も含めた日本の水環境について知りたい」。
そう思い立ち、今回は思い切って水資源の研究家として著名な教授にインタビューさせていただきました。
水資源を守るために個人ができること。また災害時に直面する水不足や、その備えについてなどをお教えいただきました。
知識が乏しいミズコム編集部一同、大変勉強になったインタビュー。
読者のみなさんにも、できるだけわかりやすくお伝えしたいので、よければぜひ一読してみてくださいね。
プロフィール
東京大学教授、気象予報士。日本の水文学者。 地球規模の水文学および世界の水資源の持続可能性を研究している。
水文学部門で日本人初のアメリカ地球物理学連合(AGU)フェロー(2014年)。
書籍に『SDGsの基礎』(共著)、『水の未来 ─ グローバルリスクと日本 』(岩波新書)、『水危機ほんとうの話』(新潮選書)、『水の世界地図第2版』(監訳)、『東大教授』(新潮新書)など。
日本の飲み水と水資源
飲み水含め、日本は世界のなかでは豊かな水資源があると言われていますよね。
今ある資源を維持していくために、私たちができることはありますか?
自分たちの身の回りの水を守るのは、地域のコミュニティの役目です。
家庭排水で流してしまうと、下水処理場で処理されずにそのまま流れていく成分もあるので、やっぱり捨てる水にも気をつかうということですね。
「自分たちの使ってる水はどこから来て、どこに流れていくのか」ということに、本当は関心を払ったほうがいいんです。
確かにそうですね。あまり意識せずに、ただある水を使ってしまっているというのは問題なのかなと感じます。
東京に引っ越してきたとして、「使う水はどこから来てるか」を意識するのは、「利根川で渇水になりました」などというニュースがあってからかもしれません。
日本が水が豊かな理由は、雨が多いからではなくて、例えば利根川など河川の上流に貯水施設をたくさん作って、環境破壊という犠牲を払いつつも、それによって守られてるんだっていう事実は、本当はわかったほうがいいですね。
日本での水リスク
水リスクとはどんなことでしょう?私たちに関係はあるのでしょうか。
世界的には水が少ない・足りない状態を水リスクと呼ぶことが多いのではないでしょうか。
日本にいると、いろんな施設が整っているので、水が足りなくなるという経験は普段はないですよね。
水リスクがあるとしたら、大規模な自然災害、洪水、大地震、そして異常渇水の時。東日本大震災や熊本地震で断水して困ったという方もいるでしょう。
大規模な自然災害の時に、水供給の設備が機能停止して水が得られなくなる、あるいは、しばらく雨が降らなくて水の利用を差し控えなければいけないような状況はありえます。
地震や水害があると、水に対する意識が変わるものの、また当たり前のように使えるようになると、元に戻ってしまうところもありますね…。
備えとしてできることは、どういったことでしょうか?
洪水に関して言いますと、一軒家やマンションの低い階は気をつけたほうがいいですね。
いざというときは、上の階の人は下の人に避難場所として解放してあげるといいんですよ。これは専門用語で「垂直避難」と言います。 だから、災害への対策には地域コミュニティは大事なんです。 断水に関しての対策としては、水の備蓄ですよね。
例えば家族が3〜4人で3日分だと、本当は30Lぐらいあると安心です。つねに2Lペットボトル6本入りを3箱用意しておいて、古いのから1箱飲んで、また1箱買い足して。そうすると常に2〜3箱分はストックとして蓄えられている状態になるので安心だと思います。
SDGs、日本での浸透度は?
SDGs(エスディージーズ)とは
「SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS」の略。持続可能な開発目標のことで、2015年の国連サミットで採択された。
「安全な水とトイレを世界中に」「海の豊かさを守ろう」など17の目標を掲げている。
詳しくは 外務省のSDGsに関するページなどでチェックしてみてください。
SDGsについて、世界全体で注目度は上がっているのでしょうか?
SDGsは、環境だけではなくて経済的な側面もあれば、社会正義的な側面もある。
人権や格差是正もSDGsの重要な要素ですが、一般の知識で言うと日本は低いほうですよね。
けれども、日本の企業は割と熱心ですね。やっぱり世界の動向と切り離せない日本の大企業が多いからじゃないでしょうか。
なぜ世界的にみて日本は関心が低いのでしょうか…。
途上国に対して、ビジネスでちゃんと投資をして、例えばエネルギーや携帯電話などの通信アクセスを確保してほしいと国際社会は思っている。
途上国の人たちの生活レベルの向上が自社の企業の業績につながるということが、見えてきているんじゃないですかね。
そのためには、価値があるものにしかるべき対価を払うっていうメンタリティが必要で、それが日本では足りないかな。
SDGsの目標のひとつである水問題に関して、今まさに研究室として取り組んでらっしゃることはありますか?
SDGsの「水へのアクセスの向上」という目標に、どのぐらいの投資が必要なのかを調査しています。
水に限らず、どの目標やターゲットにどのくらい投資されると、どのくらい改善するのかを定量的にしようという研究も大事だと思っています。
水へのアクセスの向上というと、具体的にはどういった動きでしょうか?
水道は安全な水へのアクセスがあるという状況になりますが、水道開設は大変です。
例えば井戸を掘って…日本古来のいわゆる井戸ではなく、水道管が地面から立ち上がってるようなもので掘り抜き井戸(tube well)と呼ばれています。それだと動物が寄ってきて井戸の水を汚したりしないので。
そういう井戸を整備していって、しかもその量がきちんとみんなのニーズを満たしていて、自宅から徒歩10分以内の場所にあるといった条件が満たされていれば「水へのアクセス」があるということになります。
日本では、一次避難所になっている公園などで見かけることが多いかもしれません。
ウォーターサーバーとプラスチックゴミ
水資源を保持するためには、プラスチックゴミの削減も大事になってくるかと思います。
ウォーターサーバーがプラスチックゴミ削減に役立てることはあると感じますか?
水道水は嫌だけど、ペットボトルの水を飲むとゴミがたまるので気になるという方は、ウォーターサーバーは選択肢としてあるのかもしれません。
しかし、基本的にはどちらも水を容器に入れて運ぶという点では同じですよね。
再利用といっても、リユースの容器はかなり厚めの素材で作りますし、洗浄するために水やエネルギーも使っている。
精密な推計をしないと、どちらがエネルギー使用量が少ないか、環境にやさしいか、という答えは出ないんじゃないでしょうか。
容器を使わないウォーターサーバーもあって、プラスチックゴミを減らせるとSDGsに参加しているメーカーもありますね。
水道水を使うウォーターサーバーとなると、いわば大型の浄水器と似たものになるので、ちょっと議論は混乱してきます。
SDGsの目標としては、プラスチック自体を減らすのではなく「プラスチックゴミを減らそう」です。
日本は20年ほど前は埋立処分をする不燃ゴミがものすごく多くて、それこそプラスチックも大量に含まれていたんです。今は劇的に減ってリサイクル率が高くなり、社会全体ががんばった成果が出ています。
ペットボトルがプラスチックゴミとなって海に流れたり、山に捨てられたりしていうのは、日本では少ないですね。
先ほども出た備蓄水に関してもペットボトルが便利というのもありますし、完全になくすというのは違うのだろうと話をうかがって感じました。