プロフィール

済生会横浜市東部病院
患者支援センター長 兼 栄養部部長
谷口英喜医師
専門は、経口補水療法、臨床栄養、周術期体液・栄養管理、がんと栄養管理、集中治療分野における栄養管理など。
日本麻酔科学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急学会専門医、日本静脈経腸栄養学会認定医・指導医、日本外科代謝栄養学会・教育指導医、東京医療保健大学大学院客員教授。
〈著書〉
『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』
『熱中症・脱水症に役立つ経口補水療法ハンドブック改訂版』
(ともに日本医療企画刊)
脱水症はどんな症状?発症しやすい季節と年齢とは


脱水症は、喉が渇いてめまいや吐き気などが起こるといったイメージがあります。脱水症になっている時は、体内で何が起こっている状況なのでしょうか?

私たちの体は、一定量の水分が必要です。
脱水症とは体内の水分(水とナトリウムなどの塩分)が不足している状態で、それが脱水の基本ですね。
不足する理由は、「出ていく量が多い」あるいは「摂取する水分が少ない」というバランスです。
症状はいろいろありますが、出やすい場所は主に3つ。
1つ目は頭の症状、脳の脱水。
2つ目がおなかの症状、消化器官の脱水。
3つ目が筋肉の脱水です。
これら3つの臓器には多量の水分が常に必要なので、ちょっと水分がなくなっただけで脱水症状が出やすいわけですね。
頭の症状っていうのは、例えば集中力が低下したり、時には頭痛がしたり、物忘れしたり。ひどくなると意識障害があります。
おなかの症状は、食欲が低下していくことから始まって、腹痛・下痢・嘔吐、あるいは便秘というのがありますね。
筋肉は、力が入らない、あるいは筋肉痛やこむら返りが出てきますね。
人によってどういった症状が出るかは異なるので、一定の症状はないんですね。

いろんな症状があって判断が難しそうですね…。脱水症になりやすい時期や環境はあるのでしょうか?

脱水症になりやすい時期は、一般的には蒸し暑い季節で、日本では夏ですね。
冬も脱水症になりやすい時期で、乾燥した環境が原因です。
夏と冬という両極端ですけども、脱水が起きやすい時期です。

夏と冬…まったく違う季節なのですね。冬というのは意外でした。
季節以外に、年齢や性別によって脱水症のなりやすさの違いはあるのでしょうか?

年齢的に一番なりやすいのは高齢者ですね。次に起こりやすいのは子ども、特に乳幼児です。
そして、性別でいくと女性のほうが脱水が起こりやすいです。
女性が起こりやすい要因として、まずは筋肉量が少ないこと。
もう一つは生理周期により水の出入りが大きいという特徴がありますね。
普段からできる脱水症の予防方法


脱水症の予防として、普段からできることはどのようなことでしょうか?

基本的には、3度の食事をきちんととること。水ばかり飲むんじゃなくて、「食事から水分を常にとる」と意識することですね。
それがまず脱水を予防する基本です。
他には何が必要かというと、筋肉をつける、もしくは維持することです。
高齢者が脱水になる大きな理由は、体に水を貯える働きをしている筋肉量がなくなってくるから。
食べて適度に運動するのが一番いい脱水予防になるわけです。
それができない人たちは、きちんと水分補給をしなくてはいけません。
特に高齢者になると、薬のように時間を決めて水分をとることが大事です。
1日8回くらいに分けて水分を取る必要がありますね。

1日に8回というのは、何か理由があるのでしょうか?

水分は、できるだけ頻繁にとったほうがいいんですね。
一度に多く取ってしまうと、体に残らないで尿として出て行ってしまうんです。
体をだましながら、ちょっとずつ取るのが大事です。
500mlのペットボトルや水筒を持ち歩いて、それを1日かけて2〜3本くらい飲むのが適切な飲み方です。
自宅でウォーターサーバーなどで水を飲む場合、小さめの100〜150mlのコップで1〜2時間に1回飲むのがベストです。
そうすると体に無理なく、水分が吸収されて残ります。

意識的に水分補給するのが大事なんですね。
水分補給として、水や麦茶、スポーツドリンクなどで適切な飲み物はあるのでしょうか?

食事がきちんととれていれば、アルコール以外だったら何でも水分補給になるんですね。
要はたくさんとることが大事なので、自分の好きな飲料を選択するということ。
特に注意しなきゃいけないのは、アルコールもそうですが糖分が多いとエネルギー過多になってしまって、違う病気になってしまうからよくないということです。
糖分少なめの自分に合った飲料を、こまめにとるように心がけるのが結論になりますね。
経口補水液は何からできている?脱水症に効果がある理由


脱水症と聞くと、水やスポーツドリンクを飲めばいいのかなと考えてしまいますが、脱水症の対応はそれで正しいのでしょうか?

日常的に起こる脱水なら、スポーツドリンクでも十分です。
一方で、熱中症で下痢や嘔吐などがみられる場合は、経口補水液が適しています。
経口補水液は水分の吸収スピードが違うので、なるべく早く体に水分を吸収させたいのであれば経口補水液を使うのがいいでしょう。少し汗をかいた場合などには、スポーツドリンクでもいいということですね。

経口補水液は吸収が早いのですね。成分は何からできているのでしょう?
普通の水やスポーツドリンクとの違いは何でしょうか。

経口補水液は、主に水とブドウ糖と塩の3つの成分からできていて、それに加えてカリウムやマグネシウムなどのミネラルが少し入っています。
経口補水液は、水と比べると塩分や糖質がバランスよく含まれています。 スポーツドリンクとの違いは、塩分が多くて糖分が少ないというのが特徴なんです。 塩分が多くて糖分が少ないのが何がいいかというと、吸収に優れているということですね。つまり、水など一般的な飲み物と経口補水液の大きな違いは、吸収スピードになるわけです。

経口補水液があると便利ではありますが、いつも家にあるわけではなさそうですよね。いざというときに自分で作れるものなのでしょうか?

経口補水液に8割型似た成分は、自分でも作ることは可能です。
しかし、病気の人に使うのはあまりおすすめしないです。
その理由は、ひとつは衛生面のことがあります。いくら手を洗っても、滅菌できていないので。
もうひとつは、計量器を使わないと濃度が正確ではないということです。
よって、足りない部分が絶対あるから、病気の人に自作の経口補水液で対処するのはやめたほうがいいでしょう。
ただ、「ちょっと脱水気味だからうちで飲んでみよう」というのは全然かまわないと思います。
標準的な作り方としては、1Lの水を沸騰させてから3gの食塩と、ブドウ糖なら10〜20gで砂糖ならその倍の20〜40gを入れれば、だいたい同じような成分になってきます。

濃度が正確な経口補水液を買うとすると、ドラッグストアなどで手に入るのでしょうか?

そうですね。
まず前提として、市販の経口補水液には2種類あります。
ひとつは病者用の特別用途食品(※)といって、消費者庁が科学的根拠に基づいて販売されているのが、個別評価型病者用食品であり、特別用途食品のうちで特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が医学的、栄養学的に明らかにされている食品として消費者庁が許可した食品です。
もうひとつは、一般の食品である経口補水液。
一般食品としての経口補水液は、コンビニなどどこでも買えます。
ただ病者用の場合は医療従事者がいるところでないと買えないです。
病院や薬剤師がいるドラッグストアですね。
※特別用途食品について詳しくは 消費者庁サイトを参照
経口補水液の適切な量やタイミング、飲める年齢について


経口補水液を飲むべきタイミングとして、適切な自覚症状、「こんな時に飲んだほうがいいよ」という基準はありますでしょうか?

経口補水液を飲む目安としては、さきほどお話した脱水症の症状が出たらでいいでしょう。
あと基本的には、 脱水気味なことが原因で日常生活で普段できていることができなくなったときですね。
例えば、まっすぐ立てなくなったり、力が入らなくなったり。意識が遠のいたり一部記憶がなかったりしたときにも、飲んだほうがいいです。

経口補水液は、飲みすぎることってあるんでしょうか?
1回にどのくらいの量を飲むのが適切なのでしょう。

経口補水液を飲む量は、体から出た水分と同じ量を飲むのが正解なんですが、出ていった水分ってなかなか推測できないわけです。
飲み方としては、500mlをできるだけ早いスピードで飲んで、あと500mlを30分くらいかけてゆっくり飲む。
トータル1Lくらいを飲んで、それで体調がどうなるかをみるのがいいですね。
そこで、ゴールとしては尿意を促せばいいわけです。
まだ出ないようだったら、もう500mlずつ追加していく。
30分かけて、それを繰り返していけばいいと思いますね。

具体的でとてもわかりやすいですね。
経口補水液は子ども、とくに乳幼児でも飲んでも大丈夫なのでしょうか?

そもそも経口補水液は、開発途上国で使用され注目されるようになりました。
コレラなどの子どもたちの脱水症に対して、開発されたのが経口補水液ですから、もともとが子ども用なんです。
基本的に乳幼児に飲ませても問題ないとは言われていますが医師に相談してから飲ませるようにするといいでしょう。
ただ、母乳の時期は母乳を優先して脱水を治しなさいといわれているので、母乳期が終わったら経口補水液っていう風に考えて良いと思いますね。