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ルートレック社、農業の生産性向上と持続性の両立を実現する製品を開発

2021.06.08

「水やり」は農作物の成長に欠かせないものです。高品質な作物を実らせるためには、ちょうどよいタイミングで、適量の水を与える必要があります。そのため、長年の「経験と勘」をもとに、水やりに多くの時間をかける生産者は少なくありません

その時間を削減するのが、株式会社ルートレック・ネットワークスが、明治大学と共同研究したAI潅水施肥システム『ゼロアグリ』です。
その『ゼロアグリ』の特長を、株式会社ルートレック・ネットワークスの代表取締役社長 佐々木 伸一(ささき しんいち)さんにおうかがいしました。

トップの画像(出典:ゼロアグリ公式サイト)

水と暮らす編集部

『ゼロアグリ』で解決を目指す課題を教えてください。

佐々木さん

『ゼロアグリ』が解決するのは「地球規模の環境問題」です。世界の人口は、今後ますます増加の一途をたどっていくため、いずれ食糧不足の問題が発生すると予想されます。それを解決するには、農業の生産性向上を実現しなければなりません。ただし、生産性向上のためには「大量の水と肥料」が必要です。

私たちの使う生活用水は、約70%が農業に使われています。また、世界の砂漠地帯では約90%の生活用水が農業に使われています。そのため、特にアジア諸国では、有限である水の枯渇問題が顕著になっているのです。

現在のまま、農業に大量の水を使用すれば、「2030年には需要に対して39%の水が不足する」と指摘されています。そうならないように水を制限しながら、適切な量の水で作物を育てなければなりません。

ゼロアグリの操作画面
ルートレック・ネットワークスが2011年より開発して誕生した『ゼロアグリ』の操作画面。(写真提供:ルートレック・ネットワークス)
水と暮らす編集部

農業用水が不足しないように、対策が必要なんですね。

佐々木さん

そうです。また、「肥料による地下水汚染」への対策も考える必要があります。そもそも作物は、水がないと肥料を吸い上げることができません。そのため、農業では大量の水と肥料を使って、作物を栽培しているのです。ただし、作物が吸いきれなかった「肥料が溶けた水」は、土壌の下にある地下水へとどんどん流れていき、地下水を汚染します。その結果、地下水をろ過せず、そのまま飲んでいるアジア諸国の子どもたちなどには、健康被害が発生しているのです。

肥料による問題はそれだけではなく、「温暖化効果ガス」の問題もあります。農業で大量に使われる肥料が土壌に残ると、それが温暖化効果ガス排出の原因となるのです。このような問題を解決するために、水だけではなく肥料も制限しながら、農業の生産性を向上させる必要があります。

また、地域に根差した形で進める日本の農業はIT化が遅れ、いまだに「経験と勘」に依存しています。そのため、無駄な水と肥料をたくさん使っている状況は少なくありません。私たちは、これらの課題をテクノロジーの力で解決するために、明治大学黒川農場と共同研究を行い、『ゼロアグリ』を開発しました。そして、アジアモンスーン地域全体の課題解決のために、『ゼロアグリ』を普及していきたいと考えます。

水と暮らす編集部

水不足などの課題に対して、『ゼロアグリ』はどのようなアプローチをしているのでしょうか。

佐々木さん

養液土耕(ようえきどこう)栽培」(※1)を行う『ゼロアグリ』では、50%の節水と肥料の削減を実現できます。養液土耕で使われる「点滴灌水(てんてきかんすい※2)」は、水が大量にある日本ではほとんど普及していませんが、世界では約18%の成長率でどんどん広まっているのです。点滴灌水をすることで、作物の根の部分だけに水と肥料を注ぐことができるため、水と肥料の削減につながります。

※1 1930年代初期、イスラエルで発祥した「少量の水で、いかに効率よく生育を促すか」という考えをもとにした栽培方法のこと
※2 土に浸透するスピードで、チューブの穴から少量ずつポタポタと水を垂らすこと。潅水とは、水を注ぐことを意味する

「経験と勘」に依存しない潅水で負担を減らし、作物の反収アップを実現

水と暮らす編集部

地球規模の課題解決にもアプローチできる『ゼロアグリ』ですが、どのようなユーザーに導入されているのでしょうか。

佐々木さん

『ゼロアグリ』のお客さまは、大きく2種類の分野に分かれます。1つは、経験年数が長い篤農家(とくのうか※3)の方です。この方々は、これまでの「経験と勘」で農業を行い、それなりの収益を上げています。ただし、気候の変動により、その経験を生かせない人や、圃場(ほじょう※4)の規模を拡大できない人は少なくありません

作物の収量・品質に大きく関わる潅水や施肥(せひ※5)は、その感覚をすぐにつかめるわけではありません。他の人に任せられず、自分の時間をフルに使って、潅水や施肥を行うので、圃場の規模を拡大すれば、すべての水やりが難しくなるのです。そこで、圃場を拡大するため、自分の代わりに正確な潅水・施肥を行うシステムとして『ゼロアグリ』を導入される方がいます。

※3 農業に携わり、その研究・奨励に熱心な人
※4 農産物を育てる場所のこと
※5 栽培する植物に肥料を与えること

ゼロアグリを使う様子
『ゼロアグリ』は、土壌水分量などの環境データから、作物の蒸散量を推定。そのときどきの作物に適した潅水施肥を自動的に行う。(写真提供:ルートレック・ネットワークス)
佐々木さん

もう1つの分野は、新規就農者の方です。農業界では「農業は水やり10年」、つまり水やりで一人前になるまでには約10年間かかる、といわれています。それほど農家特有の「経験と勘」を習得するのは大変で、その間は収益がなかなか上がりません。そこで収益を上げたい新規就農者の方は、熟練農家並みの潅水施肥を実現するために『ゼロアグリ』を導入されています。

どちらのお客さまにも共通しているのは、「経営者マインド」をもっている方が多いことです。従来の農法にこだわることなく、新たなシステムに投資をして現状を改善し、リターンを得ている方が多い印象ですね。

水と暮らす編集部

『ゼロアグリ』が熟練農家並みの潅水施肥を実現できる仕組みを教えてください。

佐々木さん

『ゼロアグリ』では作物の成長に適した潅水施肥を実現するために、「日射」と「土壌水分量」などの環境データから、作物の蒸散量を推定します。そして、テクノロジーの力で農家に代わって自動的に潅水と施肥を行う仕組みです。

そもそも、自動潅水装置は『ゼロアグリ』以外にもあります。その中で広く普及しているのは「タイマー式の自動潅水装置」(※6)です。これを使うと、天候に関係なく、一定の量で自動潅水されます。しかし、そのときどきによって作物が吸収できる水分量は変わるため、無駄な水と肥料を撒くことになります。その結果、環境に悪い影響を与えるだけではなく、作物の成長を阻害することになるでしょう。

一方、『ゼロアグリ』であれば、土壌水分量などを10分に1回ごと計測し、土壌環境をモニタリングしているので、無駄な潅水施肥は行いません。その結果、作物の成長に適した水と肥料のある土壌環境が一定に保たれるので、環境を汚さずに作物がすくすくと育ちます。その結果、20〜40%もの作物の増収につながっているのです。

※6 タイマーで「何時間ごとに何分間流すか」の設定を行い、自動で潅水をする装置のこと

収穫にまつわる予測を搭載し、地球環境に対する持続可能型農業につなげたい

水と暮らす編集部

『ゼロアグリ』を導入した篤農家からは、どのような感想がありますか?

佐々木さん

潅水にまつわる時間がいっさいなくなった」という感想をいただくことが多いですね。篤農家の方は立派な作物を育てるために、平均して1日に約2時間を潅水施肥に費やしています。それだけではなく、事前に圃場へ行き、気候や作物のようすを確認して、与える水や肥料の量を決めなければいけません

それを代わりに行う『ゼロアグリ』を導入することで、これまで費やしていた労働力を約90%削減できます。また、潅水施肥について考える時間が減るので、ストレスも減るのです。その結果、時間と心に余裕が生まれ、「従業員の教育」や「新たな販路開拓の戦略を練る」など他の作業に、自分の時間を充てられます

ゼロアグリを導入した様子
篤農家の「考える部分」を『ゼロアグリ』が代わりに行うため、潅水にまつわる時間を大幅に削減できる。(写真提供:ルートレック・ネットワークス)
水と暮らす編集部

『ゼロアグリ』を導入することで、力を注ぎたい部分に時間を使える余裕が生まれるんですね。さらによりよいサービスにしていくため、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

佐々木さん

『ゼロアグリ』に、収穫時期や収穫量などの予測ができるような技術を搭載したいと考えています。そうすることで、「フードバリューチェーン(※7)全体でのコスト削減」や「フードロスの防止」を期待できるからです。

今は、気候変動によって「いつ・どれだけの作物が収穫できるのか」がわかりにくい環境になりつつあります。生産者の方では出荷量が上下するため、仲卸(なかおろし※8)はスーパーマーケットなどから「何日までに、何キロ分を入荷してほしい」と言われても、その要望に応えづらい状況です。そのため、仲卸は余剰な作物を手配しますが、それがフードロスにもつながります

そのような事態を防ぐためには、収穫時期や収穫量などを予測する必要があると考えました。予想できるようになれば、余剰な作物を栽培する必要がなくなるので、不要な水や肥料も必要なくなります。その結果、水の枯渇問題などを解決することができ、地球環境に対する持続可能型農業につながるのではないかと考えています。

※7 農林水産物の生産から消費までを鎖(チェーン)のようにつなぐことで、総合的な付加価値を高める考え方のこと
※8 卸売市場で、仲買(なかがい)を担当する業種のこと

この記事のまとめ

篤農家にとって、これまで多くの負担がかかっていた潅水施肥の時間。その時間を削減し、環境問題にも取り組む『ゼロアグリ』。農業界全体の新たな未来をつくり出そうとしています。

団体のスペック、オンラインショップ等の告知など
株式会社ルートレック・ネットワークス公式HP
『ゼロアグリ』公式HP