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全国川ごみネットワークが環境問題解決に「つながり」を重視するワケ

2021.06.24

「川のごみを拾うだけでなく、根本の対策をしなければごみを減らすことはできない」と語るのは、全国川ごみネットワーク事務局の伊藤浩子(いとうひろこ)さん。川や海の環境保全を行う全国54の団体・個人とともに、ごみ削減を目指す同団体の取り組みについて、お話をうかがいました。

トップの画像はゴミ拾いの様子。(写真提供:美しい山形・最上川フォーラム)

全国川ごみネットワークの活動の様子
ごみ拾い活動の様子。(写真提供:全国川ごみネットワーク)
水と暮らす編集部

ごみのない美しい川や海を取り戻すことを目指している、全国川ごみネットワークはどのような経緯で設立されたのですか?

伊藤さん

私はもともと東京の荒川での清掃活動に一般参加し、その後、荒川クリーンエイド・フォーラムに勤務していました。近所ということもあり、荒川をきれいにしたいという思いで、川のごみ拾いを20年以上続けています。

ごみ拾いの活動の中で、常々思うのが「拾うだけではごみ問題は解決できない」ということです。ごみを拾うだけではなく、ごみを捨てさせない、ごみになるような無駄なものを減らすという根本的な解決が必要だと感じていました。

ただし、一つの団体では根本的な川ごみ問題の解決は難しい。そこで、全国にある川や海の環境保護を行っている団体に呼びかけ、連携して根本的な解決を目指そうと始まったのが、全国川ごみネットワークです。

2015年に団体を設立し、今では54の団体や一般の方のご協力を得ながら活動しています。

水と暮らす編集部

具体的にはどのような活動をされていますか?

伊藤さん

「水辺のごみ見っけ!」という全国の水辺のごみ調査や、全国の河川・海洋環境保全に取り組む団体、行政担当者などさまざまな方と情報・意見交換をする「川ごみサミット」などの活動をしています。

ネットワークに参加している各団体さんとの情報共有や啓発活動、ペットボトルやプラスチック製造に関わる業界団体さんへのごみ調査の報告、プラスチック汚染解決へ向けた行政への提言なども行っています。

身近な川の改善が、海の環境を救うことにつながる

川に散乱しているごみやペットボトル
川に散乱しているごみやペットボトルなど。(写真提供:全国川ごみネットワーク)
水と暮らす編集部

なぜ「川」にフォーカスした取り組みをしているのでしょうか?

伊藤さん

全国どんなところにも大小含めて河川があります。誰にでも身近にある川から改善していくことが大切だと考えています。

最近は海ごみの問題が大きくクローズアップされるようになり、海ごみは川から来ているという認識も広まってきたように思います。しかし、まだ海ごみは海外から流れ着くものと思っている人が多いのも現状です。街から川へ、川から海へとごみが流れていることを認知してもらうことが大事です。

そのため、川と街両方のごみ問題を改善しようと「水辺のごみ見っけ!」の活動をしています。

水と暮らす編集部

「水辺のごみ見っけ!」は全国の水辺のごみ調査とのことですが、どのような活動、調査をしているのでしょうか?

伊藤さん

2016年から毎年開催している調査で、川ごみネットワークの会員団体さんだけでなく、一般の方にも参加していただいています。

あまりにも調査項目が多いと皆さんハードルが高く感じてしまうので、特に着目したいごみとしてペットボトル、レジ袋、カップ型飲料容器の3項目に絞って個数調査をしています。

調査結果は数を数えて報告するだけではなく、なぜここにごみが捨てられてしまったのか、どうやったらごみを減らすことができるのか考えて話し合うまでを行う調査になります。

自分で改善策を考えることで、ごみを捨てない、減らす行動につなげてもらえるようにしていきたいという目的のもと、活動しています。

水と暮らす編集部

2016年から調査を続ける中でわかったこと、変化などは感じられましたか?

伊藤さん

今まで最多で約1万人の方に参加いただいた取り組みですが、コロナの影響で大人数でのごみ拾いができなくなり、拾われたごみは減りました。ただ、その状況下で注目したいのが、レジ袋が大幅に減ったと複数の団体から報告が上がっていることです。

京都府の保津川では、2019年は405枚のレジ袋を回収しましたが、2020年7月から始まったレジ袋有料化以降の2021年の調査では56枚の回収にまで減少しました。

社会が変わるとごみの数も減る。このことが調査によって証明できたということが大きな成果の一つだと思います。

水と暮らす編集部

先ほどおっしゃっていた「ごみを拾うだけでは問題を解決できない」ということにもつながりそうですね。

伊藤さん

そうですね。ペットボトルの例でいうと、2年前には河川だけで4万本のペットボトルを数えました。全国の河川の0.1%しか調査できていないにもかかわらず、4万本も数えたということは、4,000万本のペットボトルが日本全体の河川に落ちていると推測することができます。

この状況は放っておけませんよね。だから現在は調査結果をもとに業界団体にアプローチして、ペットボトルをなくすのではなく捨てられなくするにはどうすべきかの改善策を協議させていただいています。

個人や一団体だけで解決できるわけではないので、ネットワークを作り、社会を変えることで根本的なごみ問題の解決をしたいと思っています。

一人ひとりの行動が大きな力になっていく

小学校における出前授業の様子
小学校における出前授業の様子。(写真提供:全国川ごみネットワーク)
水と暮らす編集部

環境学習にも力を入れられているようですが、どのような思いで取り組んでいますか?

伊藤さん

今年度は、おもに小学校への出前授業を進めています。私たちの身近にあるものが川から海に出て、生き物たちを苦しめている。生き物たちを苦しめないために、生活から出るごみ、そのもととなる無駄なものを減らしていくことが大切だということを、理解してもらいたいと思っています。

大人に関しても、内陸から出たごみでも最終的に海に出ていっているものもあるという状況を知っていただきたいですね。

ただ、ごみ拾いに関心があり、こうした講座や活動に参加してくれる方は、もともとポイ捨てをしない人だと思っています。だから、こうした学習の機会にふれた人が川ごみ問題を周囲に伝えていってほしいです。そうした思いをもって、環境学習をこれからも続けていきたいと思っています。

水と暮らす編集部

環境学習についても、ネットワークの力が大切なのですね。最後に全国川ごみネットワークとして、今後の目標や抱負を聞かせてください。

伊藤さん

最終的な夢は、ごみがなくなっていくようにみなさんの行動が変わっていくことなのですが、そのために無駄なものを使わない、ごみを街に出さないことを積み重ねていくことが大切です。

現在全国川ごみネットワークの会員が存在しているのは27都道府県なので、全都道府県で活動できるようにして、ごみのない海、川、自然を取り戻したいと思っています。