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山梨県環境・エネルギー部に教えてもらう、育まれる豊かな水と水の楽しみかた

2021.07.28

富士山をはじめとする名峰に囲まれ、広大な森林を有する山梨県。山々に降る雨や雪は森林を潤しながら名水に生まれ変わります。

今回は、そんな豊かな水を守るために、山梨県庁で育水と環境活動の推進をされている川口佳佑(かわぐち けいすけ)さんに、水によってもたらされる山梨県の魅力についておうかがいしました。

トップ画像、名水の地がキャッチフレーズ。豊かな自然を守ることが名水を守ることにつながる。(写真提供:山梨県環境・エネルギー部)

富士山をはじめとする名峰に囲まれた山梨県。(写真提供:山梨県環境・エネルギー部)
水と暮らす編集部

山梨県は、日本のなかでも海に面していない数少ない県だと思うのですが、水とは深い関係があるのですね。

川口さん

はい、海に面していないからこそ、水が豊かということでもあります。山梨県は「やまなし」といいながら、2、3千メートル級の山々に囲まれているんです。そこに降った雨や雪が地下水として流れてきて、水が豊富なんですね。

水は最終的に富士川や相模川、多摩川を通して、静岡県や神奈川県、東京都に流れていきます。

水と暮らす編集部

そうなんですね! 私は神奈川県に住んでいますが、ふだんいただいているのは山梨県のお水だったんですね。

川口さん

昔から水が豊かだったことから、甲府盆地は湖だったのではないかという「湖水伝説」があります。いろいろな研究から史実ではなかったといわれていますが、「暴れ川」と呼ばれた釜無川(富士川)がたびたび氾濫し、甲府盆地を水害が襲ったことから、そのような伝説が残っています。

水と暮らす編集部

水が豊かだからこそ、水害の危険もあったんですね。

川口さん

昔から山梨県を治めている人たちは、この水害をどうするかということに苦労されたようです。例えば、山梨県出身の武将である武田信玄は富士川の治水工事をしたことでも有名です。彼が戦国時代に作ったといわれる堤防は、現在の河川工学でも手本とされている工法が随所に見られます。その治世の功績を称えられて、その堤防は今でも「信玄堤(しんげんづつみ)」と呼ばれています。

水と暮らす編集部

彼の功績もあって、山梨は水が豊かな県となったんですね。 現在も山梨県にとって水は重要な産業のひとつだと思いますが、昔から経済に寄与していたのでしょうか。

川口さん

はい。富士川は輸送路として恩恵を与えてくれました。 江戸時代初期に徳川家康により江戸への流通ルートとして開通された、山梨県鰍沢(現・富士川町)から静岡県富士市まで続く72kmの舟運(運搬路)がありました。山梨県は徳川家の天領だったので、静岡に向かうときはおもに年貢米を、山梨に戻るときは塩や海産物を載せ、最盛期は400艘(そう)を超える船が行き来していたといわれています。

このときに運ばれた塩が、山梨だけでなく今の長野県など、海がなかった地域にまで運ばれて経済が発展したようです。

日本初、ミネラルウォーター発祥の地

水と暮らす編集部

重要な産業といえば、山梨県は日本初のミネラルウォーターが生まれた地でもあるんですよね。

川口さん

はい。1929年に堀内合名会社(現・富士ミネラルウォーター株式会社)が、身延町下部で湧出する上質な名水を「日本エビアン」の名称で販売し、これが日本最初のミネラルウォーターとなりました。現在では、山梨県で生産されるミネラルウォーターは全国シェア4割と、日本一の生産量を誇ります。

ミネラルウォーターは4種に分類されるのですが、本当に天然水と呼ばれているものは、ナチュラルウォーターとナチュラルミネラルウォーターで、山梨県の水は基本的にこの2つが多いです。

ナチュラルウォーター 特定の水源から採水された地下水を原水とし、沈殿、ろ過、加熱殺菌以外の処理を行わないもの。
ナチュラルミネラルウォーター ナチュラルウォーターのうち鉱化された地下水(地表から浸透し、地下を移動中または地下に滞留中に地層中の無機塩類が溶解した地下水)を原水としたもの。
ミネラルウォーター ナチュラルミネラルウォーターを原水とし、品質を安定させる目的などのためにミネラル調整などが行われているもの。
飲用水、ボトルドウォーター ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーターおよびミネラルウォーター以外のもの。
水と暮らす編集部

ちなみに、山梨県の方々は日頃どんな水を飲まれているんですか?

川口さん

山梨県の水道水の多くは地下水を原水にしてるんです。水道から出てくる水が天然水という市町村も多いですね。

水道から出てくる水が普通においしいです。私も、他県、特に東京に行くと「あ、水が違うな(山梨の水はおいしいな)」と感じます。

水と暮らす編集部

さすがです! 味の違いがわかるんですね。

川口さん

地下水が豊富なエリアでは井戸水を飲んでいらっしゃる人も多くいます。湧き水をくめる場所も何カ所かありますし、ご自宅に井戸をもってる方もかなりいらっしゃるのではないかと思います。

豊かな水から生まれるおいしい恵み

名水で造られる山梨の日本酒。(写真提供:山梨県環境・エネルギー部)
川口さん

山梨県は、ぶどうやもも、スモモなどの生産量も日本一で、果樹王国でもあります。寒暖差がある気候が適していることもありますが、水が豊かなのでかんがい用水が発達していて、広大な畑に十分な水がまけるというのも要因のひとつだと思っています。

かんがい事業の歴史は古く、北杜市の村山六ヶ村堰疏水は西暦1000年ごろに開削されたとされています。

水と暮らす編集部

山梨といえば、甲州ワインも有名ですよね。

川口さん

はい。ワインの生産量も多く、いろいろなワインメーカーがあります。特に勝沼地域がワインの生産が盛んです。

ワインだけでなく、ウイスキーや日本酒も有名です。サントリーの白州蒸溜所もあり、ウイスキーの仕込みに山梨県の名水が使われています。また、清らかな水と、その水で育ったお米によりおいしい日本酒ができます。

2021年4月に、地域の気候や風土と結びついた特産品を保護する国の制度「地理的表示(GI)保護制度」に、山梨県産の日本酒が指定されました。2013年にはワインも指定されていて、同一県で2つの酒類がGIに指定されるのは全国初です。

日本酒で「山梨」と表記するには、原材料の水を南アルプス山麓、富士北麓、八ヶ岳山麓など県内6水系から採取することが条件となっています。

水を条件にGIを取得するというのは、全国的にもめずらしいようです。

世界基準の森林管理。豊かな水を守る“育水活動”とは

水と暮らす編集部

そんな美しく豊かな水を守る動きとして、育水活動をされているんですね。いつごろから取り組まれているものなのでしょうか。

川口さん

平成28年に、“やまなし「水」ブランド戦略”というものをつくり、そのひとつとして育水活動を挙げています。

「山梨の水をただ消費するだけでなく、持続可能な水利用を前提に、健全な水循環を守り育てる」ということを、 “育水” と表現しています。水資源の保全と県経済の活性化、地域・産業の振興に向けて有効利用を図っています。

水と暮らす編集部

具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。

川口さん

山梨県の育水活動は大きく分けて2つ、「保全」「情報発信」です。

豊かな水を守るためには “水源林”が必要です。「保全」では、水源林の整備保全、水環境や温泉資源の保全などを行っています。

山梨県は県土の約78%が森林で、そのうちの46%は県有林、つまり山梨県の森林です。

この県有林をしっかり保全していくことで、山梨県の水を守っていこうという活動です。もちろん、“育水”と言い始める前から取り組んできたことでもあります。

平成15年には、これまで積み重ねてきた持続可能な森林経営が認められ、FSC®(世界的な森林管理制度)の森林管理認証を公有林として全国で初めて取得し、その認証された森林面積は日本一を誇ります。

水と暮らす編集部

つまり山梨県の県有林は、環境や社会に配慮した森林管理が行われていると世界でも認められているということですね。

川口さん

そうですね。また、「情報発信」では、やまなし「水」ブランドとして、「豊か」で「きれい」な「やまなしの水」の魅力を国内外に向けてPRしていくことにより、山梨県のイメージアップ、地域や産業の活性化を目指しています。

美しい水を守るために私たちができること

西沢渓谷にある七ツ釜五段の滝。(写真提供:山梨県環境・エネルギー部)
水と暮らす編集部

きれいな水を保つために私たちができることはありますか?

川口さん

山梨県の方には、山梨の水は全国にも誇れるものだと、その価値を再認識していただきたいですね。
汚れたままではなくきれいにして排水するなど水をきちんと利用していただき、自分たちは世界に誇れる山梨の水を使っているんだという意識や理解をもって大切にしてほしいです。

また、県内・県外の方問わず、山梨県産FSC認証材をぜひ使っていただきたいです。

水と暮らす編集部

山梨県で伐採された木材、ということでしょうか?

川口さん

はい。森林の維持管理のために間伐をしたり、成熟して木材として伐採したりした木ですね。

建材としてだけでなく、家具や食器、おもちゃ、コピー用紙にも適しています。最近ですとマイクロプラスチック対策になる紙ストローなどにも活用されています。

適切な森林管理によって生まれた木材を使うことは、適切な森林整備につながり、ひいては山梨県のきれいな水が維持されることになります。

水と暮らす編集部

県外に住む人にできることはありますか?

川口さん

ぜひ、景勝地を楽しんだり、おいしい食べ物・飲み物を味わったりしてください。

山梨県では、コロナ対策として山梨県独自のグリーン・ゾーン認証という基準を設けています。きちんと感染症対策をしている店舗や施設を認証しているので、そのような場所を使って安心して楽しんでいただきたいです。

水と暮らす編集部

おすすめの景勝地はありますか?

川口さん

まずは、世界文化遺産の富士山ですね。山梨県の場所は知らなくても富士山は知っているという方も多いと思いますが、静岡県と山梨県にまたがっています。

また、本栖湖、河口湖、山中湖などの富士五湖や忍野八海、日本遺産に認定された昇仙峡、他にも西沢渓谷や尾白川渓谷などたくさんの水の景勝地があります。

渓谷は、夏は水が近いので涼しく、秋は紅葉がきれいです。昇仙峡、西沢渓谷、尾白川渓谷などは道が整備されているので、簡単なトレッキング感覚で行くことができます。

本栖湖や四尾連湖などではSUPが楽しめます。山に囲まれていて風が穏やかなので初心者にもおすすめです。富士川ではラフティング、渓谷ならトレッキングや沢登り、本栖湖ならウィンドサーフィンも楽しめますよ。

山梨県は温泉も豊富なので、汗をかいたら温泉に入っていただくのもいいですね。

水と暮らす編集部

それは最高ですね。温泉にはどのような特徴がありますか?

川口さん

山梨県の温泉は種類の多さが特徴的です。温泉は大きく分けると10種類あるんですが、そのうちの9種類ほどが山梨県にはあります。地域ごとに温泉の特徴があるので、温泉めぐりだけで何日も過ごせますよ。

水と暮らす編集部

もう移住したくなってしまいました。

川口さん

山梨県は移住先ランキングでも毎年上位に入っています。東京から山梨へは電車で1時間半くらいですし、テレワークにも最適かと思います。

水と暮らす編集部

自然の中でアクティビティを楽しみ、温泉につかり、おいしい食べ物とお酒をいただく…生活するにもリフレッシュで訪れるにも最高な時間が過ごせそうですね。

川口さん

はい。しかも、それらはすべて山梨県の豊かな「」によるものなのです。ぜひ、遊びに来てください。

山梨県環境・エネルギー部

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※動画は今年リニューアルされる予定とのこと。ぜひ公式サイトよりご覧ください。