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水景創造集団「ウォーターデザイン」が造る水のアート・デザインの魅力

2021.08.26

噴水やカナル(運河)、池など、公園や街中で人の目を癒やし楽しませてくれる水のアート作品。街中に水の演出や水景(すいけい)があることによって期待できる癒やし効果や最近人気があるデザイン、または防災やヒートアイランド現象緩和の影響について、専門メーカー「ウォーターデザイン」の企画デザイン室・室長の江藤 秀樹(えとう ひでき)さんにお話をうかがいました。

トップ画像は、グアムのThe Tsubaki Tower。(画像提供:ウォーターデザイン)

水と暮らす編集部

昭和39年創業とのことですが、もともとどのような経緯や思いでこのような事業を始められたのか、教えていただけますでしょうか。

江藤さん

創業者の大根川 孝(おおねがわ たかし)と桑高文雄(くわたか ふみお)は、幼なじみの同級生。もともと映画関係に勤めていましたが、あるとき「噴水で広告をしないか」ともちかけられたのがきっかけで、若干27歳のときに独立して立ち上げたと聞いています。当初は企画に強く、設計事務所と共に施工したことが多かったようですね。

水と暮らす編集部

水の演出は3,000件以上の実績があるそうですが、ウォーターデザインさんが手がけた中から、特に人気がある作品、デザインを教えてください。

江藤さん

国内で最近の事例ですと、上野恩賜公園改修横浜のグランモール公園などがあります。

世界規模の作品でしたら、もう20年以上たちますが、ラスベガスのホテル「ベラージオ」の噴水ショーが有名です。他にもまだまだたくさんありますが……。

東京都上野恩賜公園「竹の台広場」の噴水
2012年にリニューアルした、東京都上野恩賜公園「竹の台広場」の噴水。ミストと23本の樹氷噴水で演出され、池縁に腰掛けて楽しめる。水面が静かなときは公園内の国立博物館を映し出す「水鏡」になる。夜間は、白色のLED水中照明で噴水が美しく浮かび上がる。(画像提供:ウォーターデザイン)
水と暮らす編集部

有名なものばかりですね! 東京・新橋に本店があり、大阪や福岡、東北に営業所がありますが、本社と実験室のある昭和島ではどのようなことを行っているのでしょうか。

江藤さん

建築現場で必要なモックアップ(実物大での部分検証)や新しい機器の耐久テストなどを行っています。

滝のモックアップを作成中
滝のモックアップを作成中。右側が江藤さん。(画像提供:ウォーターデザイン)

ドライ池やミストピアが人気

水と暮らす編集部

街の中に水を使ったアートや噴水があることで、どのような効果が望まれているのでしょうか。

江藤さん

かつては街のシンボルとして噴水が好まれ、公園や駅前に大規模な噴水が設置されることが多かったですが、最近では、暑い夏に涼が取れる身近な存在として親しまれています。

また、都市の中でも水面を張らないドライ池や噴水が、子どもたちの遊び場としても喜ばれることが増えていますね。ちなみに「じゃぶじゃぶ池」を提案したのは前出の大根川です。柵で覆われていないところに子どもが自由に入って遊べるようにしたもので、随分とあちこちで見られるようになりましたね。

横浜市「グランモール公園」の噴水
横浜市「グランモール公園」。横浜市美術館前の噴水をリニューアルし、数百本のジェット噴水が繰り広げる演出をしている。子どもの水遊びに供用される噴水は、横浜の海をイメージしたものだそう。(画像提供:ウォーターデザイン)
水と暮らす編集部

水景の流行や最近好まれる傾向などあれば教えてください。

江藤さん

前出のような理由から、水面を作らないドライ池やミストピアの事例が増えましたね。ミストピアは、弊社が提案する呼称で、霧状噴水を意味しています。ヒートアイランド対策を目的とした微細な霧から、演出色の強い粗い霧まで、いろいろなタイプの作品があります。

水と暮らす編集部

水をアートに使用することで望める防災やヒートアイランド現象緩和の効果について教えてください。

江藤さん

上野恩賜公園の噴水は、池の下に貯水槽を設けていますので、一時的な災害用トイレなどに使用できます。

また、東京駅前の水盤は皇居側にうっすらと水が流れ、打ち水的な役割をしています。ヒートアイランド現象緩和としては、ミストタイプが望まれることも増えましたね。

水と暮らす編集部

暑い夏の日にさっと霧を浴びると爽快感がありますよね!

東京駅丸の内駅前広場の打ち水システム
東京駅丸の内駅前広場では打ち水システムを採用している。(画像提供:ウォーターデザイン)

水は街のオアシス。ユニバーサルな水デザインを目指して

水と暮らす編集部

噴水などにはどのような水を使うのでしょうか。衛生面など配慮している点がありましたら教えてください。

江藤さん

基本的に、ふれることができる水景では、ろ過機と塩素滅菌で浄化した水を使います。特に、ショッピングモールなど民間の商業施設は、ためた水道水を使い切るタイプの噴水を設計することもあります。

水と暮らす編集部

今まで水をデザイン・施工する中で、水を利用するうえで苦労されたことはありますか?

江藤さん

水を扱ううえで注意しなければいけないのはアクシデントを起こさないための安全対策です。先ほどの衛生面も含まれますが、ドライ池においては滑りにくいような対策、さらに水の吹き出し口の対策などに気を配らないといけません。そのうえで、今までの経験を生かして新しいデザインに取り組んでいます。

公共事業ですと年度末工事が多いので、1、2月あたりの施工が凍えて厳しいです(笑)。

水と暮らす編集部

江藤さんが特に印象に残っている作品があれば教えてください。

江藤さん

2020年7月に、グアムにオープンした最上級ラグジュアリーホテル「The Tsubaki Tower」にあるメインプールの「Music Fountain Show」を担当しました。光と水、音の幻想的な噴水ショーが楽しめるものですが、ローカルのワーカーさんたちと和やかに作業したのがとても楽しかったです。完成後もすごく喜んでいただき、落ち着いたらすぐにでもまた訪れたいですね。

The Tsubaki Tower
「The Tsubaki Tower」幅30mのインフィニティプールの先で、64本の噴水と69灯の照明が音楽に合わせて夜の空を彩る噴水ショー。プール内からも鑑賞でき、約20m上がる噴水は圧巻だとか。(画像提供:ウォーターデザイン)
水と暮らす編集部

今後はどのような作品を手がけていきたいですか?

江藤さん

もともと水以外の造形にも携わっていたので、水ではないものを水に見せたり、インスタレーションやオブジェを使ったりするなど、造形も絡めて空間を認識したデザインを追求してみたいですね。

また、いろんな人が楽しめる水景のユニバーサルデザインをますます意識していきたいです。音を含めた仕掛けは、目が見えない人に知らせる意味もありますし、耳が聞こえない方には、光でお知らせする方法もあります。より多くの人がいろんな方法で楽しめるデザインを提案したいです。

噴水は水を無駄に使っているという批判を受けることもありますが、目的もなくただ湯水のように使っているわけではありません。水は街や人々の心を潤すオアシスであり、むやみに“ぜいたくだ”と止めてしまうようでは、心まで枯れてしまうと思っています。

水と暮らす編集部

本当ですね。江藤さん、ありがとうございました!

<ウォーターデザイン公式サイト>