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須部商店、こだわりの豆腐作りに「南アルプス赤石山系の地下水」を使用

2021.06.09

豆腐の80%以上は水でできているため、よい水を使うことは「豆腐作りの命」ともいえます。

自然が豊富な山あいから湧き出た「南アルプス赤石山系の地下水」を使うことで、おいしい豆腐を作っているのが株式会社 須部商店です。明治10年に創業された須部商店では約140年間、やわらかな食感が特徴の木綿豆腐をはじめ、お客さまに愛される豆腐を作り続けてきました。

その豆腐作りへのこだわりを同社の代表取締役である須部 治(すべ おさむ)さんにおうかがいします。

トップの画像は豆腐御膳。(写真提供:須部商店)

水と暮らす編集部

豆腐作りには、どのような水が向いているのでしょうか?

須部さん

一般的には、硬度(※1)120mg/L未満の「軟水」が向いているといわれています。硬度120以上の「硬水」には、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが多く含まれています。そのため、硬水を豆腐の原料に使うと「水の中に含まれるカルシウム」と「大豆のタンパク質」が結合して、豆腐が固くなるんです。一方、軟水にはミネラルがあまり含まれておらず、やわらかな食感の豆腐に仕上がります。

※1 水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表した数値のこと

水と暮らす編集部

豆腐独特のやわらかな食感を生み出すためにも、使用する水が重要なんですね。

須部さん

はい、豆腐の80%以上は水なので、おいしい豆腐を作るためには「よい水」が欠かせません。ただし、豆腐作りには「水」だけではなく、「大豆」や「にがり(凝固剤)」といった原材料も必要です。そのため、同じ水を使ったとしても、大豆やにがりの種類が違えば、まったく違う味になります。また、場所によって水の性質も違いますから、それぞれの豆腐屋では使用する原材料に合わせて作り方を調整しながら、独自の味を作っていくんです。

水と暮らす編集部

なるほど。ちなみに、須部商店では豆腐作りに「南アルプス赤石山系の地下水」を使用されているんですよね。

須部さん

そうなんです。その水のおいしさを味わっていただきたくて、飲食施設を併設した弊社の豆腐専門店『川辺の食卓 都田のとうふ 勘四郎』では、お客さまに「お冷」としてお出ししています。水道水のような塩素くささがなく、スッキリとした味わいになっている水なので、お客さまからは「おいしい水ですね」とよく言われるんです。

川辺の食卓 都田のとうふ 勘四郎
『川辺の食卓 都田のとうふ 勘四郎』では、南アルプス赤石山系の地下水をお冷として提供している。(写真提供:須部商店)
水と暮らす編集部

お客さまからも評判のいい水なんですね。その水には、どんな特徴があるのでしょうか?

須部さん

pH値(※2)が約7の中性の水で、硬度が60未満の軟水です。この地域にある豆腐屋では、木綿豆腐作りにもこの軟水を使っています。そのため、この地域では一般的にイメージされる「固さのある木綿豆腐」ではなく、「やわらかな食感の木綿豆腐」が昔から主流です。絹のように中身がやわらかい木綿豆腐なので、絹ごし豆腐よりも普及してきました。

※2 液体が酸性なのか、アルカリ性なのかを表す尺度。数値は1から14まであり、その中心である7は「中性」を表す

仕上げたい豆腐によって、大豆とにがりを使い分ける

水と暮らす編集部

豆腐作りをするうえで、水以外にこだわっている材料はありますか?

須部さん

はい、豆腐の原材料である「大豆」と「にがり」にはこだわっています。大豆は、商品や季節に合わせて「輸入大豆」と「国産大豆」を使い分けているんです。まず、輸入大豆として扱っているのは、豆腐向けに特別栽培され、栽培から納品まで徹底管理された「米国・カナダ産のプレミアム大豆」です。これを量産タイプの豆腐に使用しています。

水と暮らす編集部

国産大豆は、どのような種類を扱っているのでしょうか?

須部さん

おもに扱っているのは2種類で、1つは富山県アルプス農協産の「エンレイ大豆」、もう1つは北海道十勝産の「袖振(そでふり)大豆」です。エンレイ大豆は淡白で飽きのこない豆腐に、袖振大豆は大豆自体の甘みを非常に感じられる『倭豆腐(やまととうふ)』などのグレードの高い豆腐に使っていますね。

倭豆腐
『倭豆腐』は職歴40年のベテラン職人が、北海道産袖振大豆とにがりで手寄せした、こだわりの絹ごし豆腐。(出典:須部商店 オンラインストア)
水と暮らす編集部

「にがり」のこだわりについても教えてください。

須部さん

仕上げたい豆腐の味と食感によって、「にがり」と「すまし粉(硫酸カルシウム)」を使い分けています。“甘みの強い豆腐”に仕上げたいときに使うのは、塩の副産物である「にがり」です。弊社では、沖縄産のにがりを使用しています。

一方、“あっさりとした味わいの豆腐”に仕上げたいときに使用するのは「すまし粉」です。これを使えば、やわらかい食感の豆腐に仕上がるので、弊社では木綿豆腐を作るときにも加えています。

「職人による手作業」と「機械による自動化」をかけ合わせた豆腐作り

水と暮らす編集部

明治10年に創業されたそうですが、豆腐作りにおいて「昔から変化したこと」があれば教えてください。

須部さん

自動化できる工程は、機械に任せるようにしました。職人の勘に頼るだけでは、豆腐の品質が安定しません。そこで、豆腐をカットしたり、パック詰めにしたりするなどの「味にまったく関係のない工程」は全部自動化したんです。そのような工程を自動化することで、人の手が触れない形となり、衛生面にも配慮した豆腐商品へと仕上がります。

豆腐をカットする工程などを機械によって自動化
豆腐をカットする工程などを機械によって自動化することで、衛生面にも考慮した商品が完成。(出典:須部商店 オンラインストア)
須部さん

また、時代の変化とともに、お客さまから「より日持ちする豆腐」が求められるようになりました。そこで、「低温殺菌製法(※3)」を利用することで、通常3日程度の賞味期限から7日程度まで日持ちする豆腐を作っています。

※3 約75℃の温水で、包装後の豆腐の表面・パック内の水を30分程度じっくりと殺菌する。その後急速冷却し、豆腐の中心温度を10℃以下まで冷却、冷蔵庫にて5℃以下まで冷却することで日持ちさせる製法のこと

水と暮らす編集部

時代に合わせて、工夫しながら商品を作っているんですね。その一方で、昔から変えていないことはありますか?

須部さん

どうしても人の手をかけなければならない工程は、昔からのやり方を守っています。例えば、「箱詰め(成形)※4」の工程では、豆腐の表面をきれいに“ならす”んです。食感に関わる重要な工程ですが、機械では絶妙なならしができないので、人の手をかけなればなりません。そのため、職人が一つ一つ、ていねいに箱詰めしています。

※4 豆腐を箱に移して、表面をならす作業のこと

衛生管理・品質管理の徹底と、お客さまの声を拾いながら、おいしい豆腐作りを目指す

水と暮らす編集部

こだわりの豆腐作りを行う須部商店の「売れ筋商品」を教えてください。

須部さん

売れ筋商品の1つが『国産冷奴豆腐』です。今は、賞味期限が長く、食感がよくておいしい「充填(じゅうてん)豆腐(※5)」に人気が集まっています。弊社でも時代の流れに乗ろうと、お取引先のスーパーと『国産冷奴豆腐』を共同開発しました。これは国産大豆を使った冷奴向けの商品で、手でパッケージを簡単に開けることができ、手軽に食べられる商品なんです。また、十数年前から販売している『固め木綿豆腐』も最近は人気が出てきましたね。

※5 容器にすき間なく、ぴったりと豆腐が詰まっているタイプの豆腐商品のこと

水と暮らす編集部

その商品には、どんな特徴があるのでしょうか?

須部さん

固めの木綿豆腐なので、包丁でカットしやすく、調理しても豆腐の形が残りやすい商品なんです。「水切りなしで調理に使える豆腐がほしい」という主婦の声から生まれた商品で、弊社の工場で水抜き加工をしているため、水切り不要で使えます。

水と暮らす編集部

ニーズの高い商品を開発されているんですね。品質の高い豆腐を作るためにしている工夫や努力を教えてください。

須部さん

衛生管理品質管理には、特に気を配っています。衛生管理では、例えば豆腐作りに使用する水の塩素濃度を、きちんとチェックしています。食品に使用する水には、消毒のために塩素を加えなければなりません。ただ、できるだけ地下水に近づけるために、水道水よりも塩素を低濃度にしているんです。そのため、大腸菌などが発生しない適切な塩素濃度になっているかどうか、毎回チェックしています。

また、品質管理のために、機械化を進めたり製造ラインを整備したりするだけではなく、私自身が「製造現場の様子」を常にチェックしているんです。ちょっとした気温の変化で、品質の違う豆腐に仕上がります。そのため、豆腐作りには細心の注意が必要です。そこで、現場で職人の話を聞くなどして、異常が出ていないかどうかを確認しています。

勘四郎店内の様子
『勘四郎』で食事するお客さまからの声を拾いながら、おいしい豆腐作りを目指す。(写真提供:須部商店)
水と暮らす編集部

徹底した衛生管理と品質管理のもとで、おいしい豆腐が作られているんですね。

須部さん

そうなんです。おいしい豆腐を作るために、豆腐専門店『勘四郎』でお食事されたお客さまの声を直接おうかがいすることもあります。食品メーカーとして、「おいしい」と言われる商品をご提供しなければなりません。おいしい商品の提供を目指すとき、お客さまの声がとても参考になります。お客さまが商品に対して何か違和感を感じていれば、それを現場にすぐフィードバックして、原因を探っていく。このようにして、「おいしい」と言われる豆腐作りのために、日々、精進を重ねています。

この記事のまとめ

  • 軟水の「南アルプス赤石山系の地下水」を使用することで、木綿豆腐でもやわらかな食感に仕上がる
  • 一定の品質を保つために機械化を進めつつ、手をかけるべきところは職人が手作業で豆腐作りを行う
  • おいしい豆腐を作るために、徹底した衛生管理と品質管理だけではなく、お客さまの声を拾っている

須部商店公式HP
須部商店オンラインストアHP
川辺の食卓 都田のとうふ 勘四郎HP