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天寿酒造の「命」は枯れることのない鳥海山の雪解け水。地域への恩返しも

2022.09.14

秋田県は寒冷な気候や高品質な米、ミネラルたっぷりの水を生かし、古くから酒造りが盛んに行われてきた地域です。「天寿酒造」もその伝統を担う蔵の一つであり、約190年前から秋田の日本酒を守り抜いてきました。

なかでも日本百名山のひとつ「鳥海山」から名を冠した日本酒は、国内の日本酒品評会をはじめ、近年は国際的な日本酒コンテスト「インターナショナル・サケ・チャレンジ(ISC)」でも賞を獲得。今やその味わいは、世界でも認められるほどです。

今回は天寿酒造の代表取締役社長である大井建史(おおい たけし)さんに、酒造りに用いる仕込み水や自社栽培の酒米へのこだわり、さらに地域への想いについてお話をうかがいました。

(写真提供:天寿酒造株式会社)

天寿酒造では鳥海山の万年雪が生み出す、清冽(れつ)な伏流水で酒造り​(写真提供:天寿酒造株式会社)
水と暮らす編集部

おいしいお酒を造るためには、きれいな水が必要不可欠と聞きます。天寿酒造さんではどんな水を使用されているのですか?

大井さん

当社が使用している仕込み水は、地元・鳥海山の雪解け水を使用しています。鳥海山は、標高2236mという東北で2番目の高さを誇り、降水量は熱帯雨林並み。夏でも雪が残っており、一年中雪解け水に恵まれています。そのため、「水が枯れない山」ともいわれているのです。

ある調査によると、鳥海山の山頂から湧き水が麓に出てくるまでは80年ほどの年月がかかるとか。岩肌から1日5万トンもの水が湧き出しており、環境省の「平成の名水百選」にも選出されているんですよ。

ちなみに、鳥海山にある中島台レクリエーションの森は、ブナの原生林が広がっています。自然豊かで県の天然記念物にも指定されているほどです。

水と暮らす編集部

そんな鳥海山の豊かな自然が生み出した湧き水についても教えてください。

大井さん

まろやかで優しい口当たりが特徴です。同じ鳥海山の水でも、中腹と下流では粘質はまったく異なります。下流はよりまろやかさが増すので、口当たりのよいお酒が造れます。硬度は2.2程度の軟水です。このお水なしには、天寿酒造のお酒は造れません。それほど貴重な存在です。

「地元でできる一番のお酒」を目指し、米作りから注力

日本百名山のひとつ「鳥海山」
日本百名山のひとつ「鳥海山」。(写真提供:天寿酒造株式会社)
水と暮らす編集部

酒造りに使用するお米についても教えてください。酒米はどんな品種のものを使用されていますか?

大井さん

お酒の旨みを最大限引き出せるように、お米作りから自社で行っています。農家さんから酒造好適米やブランド米を購入している酒造メーカーもまだまだ多いですが、最近は自社で米作りから行う会社も増えているんです。

当社はもともと、「地元でできる一番良い酒を」というモットーで酒造りを行っており、周囲にある山と川、そして田んぼを生かして米作りに力を入れてきました。天寿酒造が使用している「酒こまち」や「美山錦」は、すべて「自社の使用する酒米は地元で確実に確保する」という目的のもと、昭和58年に設立した「天寿酒米研究会」によって作られています。

この研究会では無農薬栽培に取り組むほか、肥料の研究などを重ね、お酒に適した米作りを行ってきました。そのため、きめの細かく、まろやかな芳香と風味が特徴の酒米に仕上がっています。

杜氏と蔵人の密なコミュニケーションが伝統の味を守る秘けつ

水と暮らす編集部

伝統の技術を守り抜くためのこだわりを教えてください。

大井さん

酒造りにおいては、一つひとつの工程すべてにこだわっています。一つの工程が抜けても良いお酒造りはできませんからね。とはいえ、お水はお酒の味の80%を占めているので、人力ではどうしようもできない部分があるのですが、鳥海山の豊かな自然のおかげで比較的、品質は安定しています。

製造に関しては、杜氏や蔵人がしっかりコミュニケーションをとりながらていねいな酒造りを行っています。当社の杜氏や蔵人は製造だけではなく、商品開発まで携わってくれています。現場目線の提案も、おいしいお酒造りには欠かせません。そういったこだわりが功をなして、清酒品評会においては日本で最も賞を獲得している蔵の一つでもあるんですよ。

おいしさとリーズナブルな値段を兼ね備えた、自慢の純米大吟醸「鳥海山」

田園風景が広がる鳥海山の麓。(写真提供:天寿酒造株式会社)
水と暮らす編集部

日本の数ある品評会でも多くの賞を受賞してきたんですね。では中でも、大井さんおすすめのお酒を教えてください。

大井さん

おすすめは、やはり純米大吟醸の「鳥海山」です。私が社長に就任してからすぐ、「本当においしいお酒を造ろう」という想いで、酒造りに良いとされることを突き詰めて完成したのがこのお酒です。開発当時はバブル崩壊直後で日本酒の値段が高騰していましたが、より多くの人に飲んでいただきたいと考え、「3,000円以下の一升瓶でどこまでおいしいお酒を造れるか」というミッションを掲げました。精米から洗米、蒸し方、醸造の仕方まですべて洗い出し、膨大な時間を要しましたね。

「鳥海山」の精米歩合は50%なので、もっと時間をかけて精米される他の純米大吟醸と比較すると、精米歩合が高いのも特徴といえます。それでもコンテストではたくさん賞を受賞していますし、値段もリーズナブル。本当においしいお酒だと自信をもっておすすめできる商品です。食中酒としていろんな料理に合いますし、ワイングラスで飲んでも味がしっかりしています。

酒造りを通して鳥海山や地域に恩返しをしたい

鳥海山の伏流水のイメージ画像
鳥海山の伏流水なくして酒造りできないほど、貴重な存在。(写真提供:天寿酒造株式会社)
水と暮らす編集部

最後に、今後の意気込みについてお聞かせください。

大井さん

天寿酒造では長年、地域の自然を生かした酒造りを行ってきました。私が社長に就任し、すでに20年がたちますが、その間にこの地域の人口は大幅に減少し、高齢化が加速しています。これからはおいしいお酒造りはもちろんですが、この地に恩返しができるような取り組みにも力を入れていきたいですね。そのためにも、現状維持だけではなく新たな挑戦にもどんどん取り組んでいきたいです。

水と暮らす編集部

ありがとうございました!

天寿酒造株式会社
〒015-0411
秋田県由利本荘市矢島町城内字八森下117番地
ホームページ
https://tenju.co.jp/