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始まりは奈良時代。丹後織物工業組合が誇る、竹野川の水を生かしたちりめん作り

2021.07.08

京都府北部の京丹後市を流れる竹野川は、古くから丹後半島地域の文化発祥の地として知られています。そんな竹野川の美しい水を生かし、丹後地域では1300年以上ちりめん作りを行ってきました。

丹後織物工業組合で加工するちりめんは、しなやかさ、多彩な風合い、表現バリエーションの豊富さが魅力。そんな美しいちりめんを作り出すためには、不純物が少なく透明度の高い水が必要不可欠です。そこで今回は、丹後織物工業組合の西田浩一(にしだ こういち)さんに丹後織物工業組合の誇る美しい水や、技法へのこだわりについてうががいました。

トップ画像は、風光明媚(ふうこうめいび)な丹後半島地域。ちりめんの織物の生産地として知られている。(写真提供:丹後織物工業組合)

丹後地域の稲作風景
美しい水が自慢の丹後地域は稲作でも有名。(写真提供:丹後織物工業組合)
水と暮らす編集部

丹後地域はちりめん作りで有名と聞きますが、その起源はいつからなのですか?

西田さん

丹後地方の絹織物の歴史は非常に長く、一番古い記録では奈良時代といわれています。739年、聖武天皇に献上された丹後国鳥取で織られた絹織物は、現在でも正倉院御物として残っています。南北朝時代の成立とされる書物『庭訓往来(てんきんおうらい)』には、丹後で絹織物が生産されていたことが記されているのです。つまり、丹後では1300年以上絹織物が生産されていたんですね。

現在でもこの地域は日本最大の絹織物産地として知られており、日本で生産される和装用白生地織物の約70%は丹後で生産されています。

美しい絹織
きれいな水によって作られた美しい絹織物。(写真提供:丹後織物工業組合)
水と暮らす編集部

なぜ丹後は、絹織物産地としてこれほどまでに発展したのでしょうか?

西田さん

丹後地方の気候風土が関係していると考えられます。この地域で秋から冬にかけて吹く「うらにし」と呼ばれる季節風は、非常に湿気が多く、雨が降ったりやんだりする日が続くのです。そのため、昔から良質な水と適度な湿気に恵まれ、絹織物やちりめん作りが栄えました。

現在丹後地方の絹織物は、京都府北部の京丹後市を流れる竹野川の水を使用しています。この水は不純物が少なく、透明度も高いのでお米作りにも使われているのですよ。日本にはさまざまな絹織物の産地がありますが、どこも水がきれいなのでお米やお酒の名産地としても有名です。

不純物のない軟水で精練し、なめらかで光沢があるちりめんに

織物の製造風景
光沢のある織物作りには、精練は欠かせない。(写真提供:丹後織物工業組合)
水と暮らす編集部

ちりめん作りには水が欠かせないのですね。竹野川の水の特徴を教えてください。

西田さん

竹野川の水は軟水で、雨量が多いことから、量も豊富なことが特徴です。精練の際には、この水をさらに良質の軟水に加工して使用します。精練とは、絹織物からフィブロインだけを残す工程のことを指します。大量の水を使用してセリシンを落とすことで、なめらかな肌触りのちりめんができあがるのです。

この工程は軟水でなければできないといわれています。実際、中国でも精練を行った例があるのですが、できあがった後の肌触りがまったく違うため、製造を断念したのだそうです。丹後の絹織物は、風合いの良さと品質が高く評価されており、それほど水が良いということがわかります。

古くから使われている機械
古くからの機械を使って現在も生産されている。(写真提供:丹後織物工業組合)
水と暮らす編集部

水の状態がそのままちりめんのできに直結するのですね。製造過程でのこだわりを教えてください。

西田さん

いくら美しい水といっても、自然のものなので毎回同じというわけではありません。季節や気温などで水の成分は少しずつ変動します。そのため、精練を行う前には必ずpHを一定に保つようにしています。pHの数値によってできあがりが変わってくるので、一番美しいできあがりになる数値に調整します。

また、水の状態は数値だけで管理するわけではありません。熟練の腕をもった職人たちが日々、精練水を飲んだり、唇に当てたりしてちりめんの仕上がりの予測をしています。どんな条件で精練しても同じちりめんができあがるのは、職人たちの技術のたまものです。

伝統技術を未来に残すための新たな挑戦

きぬもよふ
スキンケア化粧品「きぬもよふ」。(写真提供:丹後織物工業組合)
水と暮らす編集部

精練過程で取り除いたセリシンを使って、化粧品の製造・販売もされているとうかがいました。それらの特徴や魅力についても教えてください。

西田さん

セリシンとは、繭の糸を構成している天然のたんぱく成分のことです。これまで精練過程でセリシンは廃棄されていましたが、保湿性の高い成分を活用しようということで開発されたのがこの『きぬもよふ』です。

丹後織物工業組合のセリシンは、特に薬剤を使わずに水だけで抽出しています。そのため、お子さまや肌の弱い方、アトピーの方からもご愛用いただいています。販売が開始された平成13年からすでに20年ほどたっていますが、リピーター客を中心に、販売数は年々増加の一途にあります。保湿力に期待ができるということから、特に40代以上の方に人気です。今後は若い方にもご利用いただきたいと考え、デザインを一新しようと検討しています。

水と暮らす編集部

最近では新型コロナウイルスの影響を受け、組合内で新たな取り組みをされているそうですね。

西田さん

新型コロナウイルスの影響で商談する場所がないという声があり、組合員の方々にオンライン商談の機会提供を始めました。こんな情勢ではありますが、組合全体として絹織物を盛り上げていこうと新たな取り組みも考えています。これからも伝統文化を大切に未来へつないでいきたいですね。

美しい水を生かし、今や絹織物だけではなく化粧品販売も行う丹後織物工業組合。伝統技術を後世に残すための取り組みなど、今後の活躍にも期待です。

丹後織物工業組合

<公式HPはこちら>

きぬもよふ通販

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