おいしさの決め手は「イオン水」。奴豆腐から防災用豆腐まで手がけるタナカショク
高知県高知市でおいしい豆腐を作り続ける老舗「タナカショク」。そのおいしさの秘密は、「イオン水」や「室戸海洋深層水」というこだわりの水にあります。イオン水や海洋深層水から豆腐を作ると、どんな味になるのでしょうか?
また近年タナカショクでは、一風変わった「おつまみ豆腐」や「防災用豆腐」なども販売されています。伝統と革新、その両方を兼ね備えたタナカショクの取り組みについて、代表取締役社長の田中幸彦さんにうかがいました。
トップの画像は、神奈川県横浜市での防災イベントにて。(写真提供:タナカショク)
トマト農家が豆腐屋に! 転換のきっかけは「イオン水」
- 水と暮らす編集部
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田中家はもともとトマト農家だったそうですが、なぜ豆腐作りを始めたのでしょうか?
- 田中さん
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そうなんです。田中家は先祖代々農業を営んでいまして、先代の父親はもともとトマト農家でした。あるとき、高値で取引されるマスクメロンも育ててみようという話になって、当時マスクメロン作りがさかんだった静岡県のマスクメロン農家に、先代が育て方を習いに行ったんです。
高知から静岡まではるばる出向いたのですが、その日トラブルがあって会えなくなってしまい、その農家近くの旅館に宿泊します。そこでたまたま出された豆腐が、非常においしくて! 女将さんに話を聞いたところ、その旅館の手作り豆腐だというんです。
そのあまりのおいしさに、先代は「もうメロンなんかどうでもいい」と。その旅館ではイオン水を使って豆腐作りをしていたので、自分も同じように豆腐作りをしようと決めて、高知に帰ってきたそうです。開口一番「俺は豆腐屋をやる」と言ったもんだから、家族は驚いたそうですよ。
- 水と暮らす編集部
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旅館の手作り豆腐がそれほどおいしかったのですね。豆腐屋としての滑り出しは、順調だったのでしょうか?
- 田中さん
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なかなか苦労したそうですよ。豆腐作りには水を大量に使用するため、当時の豆腐屋は井戸を掘り、地下水をくみ上げて豆腐作りを行っていました。
先代が専門家の調査をもとに、地下水の水脈がある場所に移転をしたのが昭和55年(1980年)。何ヵ所も穴を掘って水脈を探しましたが、なかなかたどり着けなかったそうです。
地下20m地点で、約4mの分厚い岩盤に突き当たりましたが、その岩盤を突き破った先に、やっと水脈を発見したんです。
- 水と暮らす編集部
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それは大変な苦労でしたね。
- 田中さん
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そうですね。ただこの水脈は、実は現在まで枯れたことがありません。専門家いわく、この水脈は西日本一高い山である石鎚山(いしづちさん)の伏流水ではないか、だから今日まで安定して地下水が湧き出ているのではないかといわれています。
石鎚山の水がおいしいことは非常に有名で、高知県の真裏にある愛媛県西条市には、大手ビール会社の工場もあります。まさか自分の土地から、石鎚山の水が出てくるとは思いませんよね。苦労して掘り当てた甲斐があったと思います。
水中に含まれる水素イオンの濃度は「pH(ペーハー)」で表されますが、弊社の水は6.7〜6.8pHもあります。通常の浄水は6.4〜6.5pH程度。この水をイオン水化して7.2pHほどにしますが、もともとpHが高いので他の豆腐屋さんからはうらやましがられますね。
イオン水と海洋深層水によって「崩れにくい豆腐」に
- 水と暮らす編集部
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タナカショクの豆腐といえばイオン水。イオン水で作られた豆腐は、どのような味になるのでしょうか?
- 田中さん
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簡単にいうと、とてもキメが細かくて、密度が詰まった豆腐ができあがります。例えば豆腐を煮炊きすると、豆腐に細かい穴が空きませんか? これを豆腐の「す」が立つと表現するのですが、これは豆腐の保湿性がないために、豆腐がだんだん溶けていってしまっている現象です。
しかしイオン水で作った弊社の豆腐は、普通の豆腐よりも「す」が立ちにくいんですね。だから煮炊きしても、密度の詰まったおいしい豆腐が食べられます。
さらに弊社では、イオン水だけでなく海洋深層水をそのまま使った豆腐も作っています。この海洋深層水も使った豆腐だと、さらにキメが細かい豆腐になるんです。顕微鏡で豆腐の表面を見ると、一目瞭然ですよ。
- 水と暮らす編集部
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海洋深層水は、お水を多少調整して使用されているのでしょうか?
- 田中さん
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いえ、海洋深層水はそのまま使用しています。海洋深層水との出会いは平成8年(1996年)。当時、高知県室戸の海洋深層水の工業化を進めるプロジェクトが発足して、この深層水をぜひ使ってくださいという話が流れたんです。
これに真っ先に反応し、海洋深層水で豆腐を作ってみたところ、非常になめらかでおいしい豆腐ができあがりました。豆腐を作る際は、大豆から豆乳を作り、それを凝固剤で固めます。弊社の豆乳はかなり高い濃度で作っているので、少し甘さがあるんです。この甘さを海水の塩辛さが引き立てて、さらにおいしくなったのではないかと考えています。
おつまみ豆腐も充実。きっかけは社長の「豆腐でお酒が飲みたいなあ」
- 水と暮らす編集部
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タナカショクでは、通常の奴豆腐だけでなく、少し変わった「おつまみ豆腐」も製造されていますよね。なぜ珍しい豆腐を作ろうと思ったのでしょうか?
- 田中さん
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あるとき、海洋深層水の講演のため岡山に出張し、翌日は東京で賞の表彰式があったので、新幹線で向かっていたんです。当時はまだ新幹線内でタバコが吸える時代で、出張帰りのサラリーマンがおつまみを食べながら、お酒を飲んでいました。
私もお酒が好きだったので、その光景を見ながらふと「ここに豆腐があったら皆喜ぶだろうな」と思ったんです。家だったら豆腐をつまみにお酒が飲めますが、新幹線の座席だったらお皿や醤油がないから食べにくいですよね。でもその不利な条件をクリアできたら? そう考えて作ったのが、「百一珍」という珍味豆腐です。
- 水と暮らす編集部
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そこからおつまみ豆腐が生まれたんですね。百一珍はどのような味でしょうか?
- 水と暮らす編集部
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百二珍や百三珍は、保存用にも使えそうですよね。
- 田中さん
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通常の百三珍は賞味期限が1年あります。さらに百三珍は防災用非常食としても製造していて、この消費期限は6年6ヶ月以上。食品添加物をいっさい使わず、自然の材料だけで製造していますので、体にやさしい商品でもありますね。
非常用防災食には、たんぱく質系の商品がなかなかありません。なので植物性たんぱく質が摂れる百三珍は、栄養素の面からも注目を集めているんですよ。
- 水と暮らす編集部
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最後に、タナカショクが今後どんな活動をされるのか、教えてください。
- 田中さん
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今後も今までどおりイオン水や海洋深層水にこだわった豆腐作り、製品作りをしながら、高知だけでなく関東でもタナカショクの豆腐を広めていきたいと思っています。同時に百三珍は防災用非常食として、全国の備蓄倉庫に入れていただけたらうれしいですね。
近年は添加物の入った製品が多いので、自然の食材を使った製品作りにこれからもこだわっていきたいと思います。
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