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豊臣秀吉ゆかりの「伏水」で最高の純米酒を。玉乃光酒造が育む“女酒”

2021.06.24

京都・伏見はかつて「伏水」と記されていたほど、質の高い伏流水が豊かなエリア。それゆえに酒造りの歴史も長く、5世紀ごろから酒造りがスタートし、豊臣秀吉の天下統一時代に伏見桃山城の城下町として大きく栄え、酒造りの文化がいっそう花開いた歴史をもっています。

今も20の酒蔵が点在する伏見で、米と水と麹のみで造る「純米酒」にこだわり、京都を代表する日本酒を世に送り出してきたのが玉乃光酒造さんです。今回は、東京支店の坂本篤志(さかもとあつし)さんに玉乃光酒造における酒と水の関係についてお話をうかがいました。

水と暮らす編集部

玉乃光酒造さんは、京都の伏見に酒蔵があるんですよね? 伏見は、水が豊かで有名な場所と聞きました。

坂本さん

そうなんです。伏見はもともと「伏水」と記されていたほど、昔から良質の地下水に恵まれている場所です。この地の氏神である御香宮(ごこうのみや)神社には「名水百選」に選ばれた「御香水」という水が湧き出ているのですが、玉乃光もこの水と同じ水脈の地下水を使っています。

水と暮らす編集部

今現在も、水が豊かなんですか?

坂本さん

はい。とても豊かです。実は伏見の水源である伏見桃山丘陵には、天皇家のお墓や乃木希典将軍をまつる乃木神社、伏見稲荷と国によって管理されている重要文化財が多いんです。なので、水源地を荒らされることがないんですよね。規制も多く、建物を建築するときは鉄が地下水に触れない工法が求められます。地下鉄も、伏見の地下を避けて走っているんですよ。

名水百選に選ばれた「御香水」。(写真提供:玉乃光酒造株式会社)
水と暮らす編集部

それはすごい! 国を挙げて守られている特別な場所なんですね。

坂本さん

それだけ気をつけているのは、鉄分は酒造りの天敵だからです。鉄分が入るとお酒が赤くなってしまうんですよ。水道水と醸造用水はもともと基準が違うのですが、醸造用水では鉄分やマンガンなどができるだけ混入しないように気を配る必要があります。

水と暮らす編集部

なるほど。酒造りに水質管理は必須なんですね。ちなみに水の違いは、日本酒の味の違いにも影響がありますか?

坂本さん

ありますよ。例えば「灘の男酒、伏見の女酒」という言葉があるんですがご存知ですか? 灘のお水はミネラル分が多い中硬水なんです。このお水で酒造りをすると辛口目のしっかりとしたお酒ができます。逆に伏見のお水は、ミネラル分少なめの中軟水。これで酒造りをすると、あまり辛くなくてまろやかな味になります。伏見の酒は、素材の味を生かした京料理にぴったりの優しい味わいなんですよ。

すべて手作業で行われる米麹づくり
すべて手作業で行われる米麹づくり。酒造りのもっとも大切な工程。(写真提供:玉乃光酒造株式会社)

1リットルの酒を造るのに、30Lの水がいる

水と暮らす編集部

伏見のお酒は繊細なんですね。お酒とお水の関係、ますます気になります!

坂本さん

日本酒の成分の約8割が水分ですから、酒と水の関係はとても深いものがあります。そもそも酒造りの工程には大量の水を使うんですよ。お米を洗うとき、蒸すとき、酒母をつくるとき、もろみをつくるとき……。熱い酒を瓶詰めした後に、冷やすのにも水を使います。1リットルの酒を造るのに、30リットルの水が必要といわれているんですよ。

仕込みの工程
仕込みの工程にも多くの水を使う。玉乃光酒造では非効率でも伝統的なスタイルを崩さない。(写真提供:玉乃光酒造株式会社)
水と暮らす編集部

それはすごい! 酒と水、切っても切れない関係なんですね。それでは、水が豊かな伏見に酒蔵を構える玉乃光酒造さんの特徴を教えてください。

坂本さん

玉乃光酒造は、もうすぐ創業350年を迎える老舗の酒造メーカーです。手づくりを基本としていて大きい蔵ではありませんが、飽きのこない酒を求めて、真面目に酒造りに取り組んできました。特にこだわっているのは、米と米麹と水で造られる「純米酒」だけを造ること。

「日本酒なら当たり前のことでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実は、今流通している日本酒の約8割がアルコールを添加して増量させている普通酒や本醸造酒なんです。純米酒だとコストがかさむのですが、先代の会長が「自分のところの酒で二日酔いしたくない」と、利益以上に酒の出来にこだわる人で、心意気でやってきました。

水と暮らす編集部

お米にもこだわっているんですよね?

坂本さん

そうですね。自社で精米をしているのは、伏見でもうちともう1社だけでしょうか。わざわざ精米からやっているのは、米を育てるところから酒造りが始まっていると考えているからなんです。その年ごとに違う、天候や米の生育状況を農家さんに教えてもらいながら酒造りに生かしています。

今扱っているのは、かつて幻の酒米といわれた「備前雄町(びぜんおまち)」、酒米の横綱との呼び声高い「山田錦(やまだにしき)」、その父親にあたる「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」、そして京都で生まれ京都のみで栽培される酒米「祝(いわい)」などです。

精米作業
精米作業も自社で。専用ローラーを使い、ゆっくり丁寧に約30〜48時間ほどかけて行われる。(写真提供:玉乃光酒造株式会社)

次の日本酒界のスタンダードを狙う「オーガニック日本酒」

水と暮らす編集部

おすすめの商品を教えてください!

坂本さん

一番売れていて、玉乃光酒造の顔ともいえる日本酒が「酒魂(しゅこん)」です。飽きのこない飲み口の純米酒ながらお求めやすい価格帯で、関西圏では3本の指に入るくらいポピュラーなお酒です。首都圏の酒屋やスーパーにも多く卸しているので手に入りやすいと思います。

「酒魂」。(写真提供:玉乃光酒造株式会社)
水と暮らす編集部

坂本さんがお気に入りの商品は何ですか?

坂本さん

オーガニックの山田錦だけで造られた「GREEN」という商品です。オーガニックにするとたんぱく質の含有量が平均5%くらい低くなり、透明感があるスッキリとした飲み口が楽しめます。オーガニック米は栽培が難しく、大量生産できないのでとても貴重なんですよ。

「GREEN」。(写真提供:玉乃光酒造株式会社)
水と暮らす編集部

オーガニックワインはよく聞きますが、オーガニック日本酒は初めて聞きました。

坂本さん

生産を嫌がる農家さんも多いなか、「一緒に次のスタンダードになる日本酒を造ろう」と、心意気で協力してくださっています。今は供給が追いつかないくらい売れているので、協力してくださる農家さんを増やして原料米をしっかり確保して、生産数を増やしていこうと思っています。

“いい酔い”が味わえる日本酒の新しい楽しみ方、飲むときの注意点

水と暮らす編集部

たくさんの人に飲んでもらいたいですね!

坂本さん

そう願います。日本酒全体の消費量は昭和40年代後半をピークに、ひたすら右肩下がりが続いているんですが、おいしい日本酒は飲みやすくて悪酔いもしないんですよ。

水と暮らす編集部

添加物のない純米酒であればなおさらですね! でも度数が高いから酔っ払ってしまいそう……。

坂本さん

私も新人のころは、営業しながら飲むので毎日酔っ払っていました(笑)。酔いすぎないためには、日本酒と同量のお水をチェイサーにするといいですよ。また、お燗(間)酒はアルコール分解が早いので飲みすぎを抑えてくれます。わたしは、600ワットの電子レンジで40〜50秒温めてから飲むことが多いですよ。あと、日本酒をもっと気軽に飲める飲み方もあって、炭酸で割ってハイボールにするのがオススメです。さわやかでほのかに日本酒感があって、これからの時期にはぴったりなんです。

水と暮らす編集部

日本伝統のお酒、日本酒の魅力を改めて感じました。伏見にもいつか足を運んでみたいです!

坂本さん

伏見には20の酒蔵が点在していて、おいしい湧き水が給水できるスポットがいくつもあります。琵琶湖からの水が流れ込む水路には観光用の十石舟(じっこくぶね)が通っていて、レトロな酒蔵風景を楽しめます。春分の日に近い土曜日には「伏見酒蔵まつり」が開かれ、多くの観光客が集まります。
現在は新型コロナウイルスの感染対策でイベントやサービスが中止になっている場合が多いですが、事態が落ち着いたらぜひ遊びに来ていただきたいです。

水路を行く観光用の十石舟
水路を行く観光用の十石舟からは、昔ながらの酒蔵が並ぶ風景が見られる。(写真提供:NPO法人伏見観光協会)

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