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「雄町米」と「雄町の冷泉」で、今や世界的ブランドとなった室町酒造

2021.10.07

平成の初めより、地元岡山産「雄町米」と名水百選「雄町の冷泉」を用いた清酒や焼酎の製造に特化し、とにかく地元産にこだわった酒造りを行ってきた室町酒造。

第29代の内閣総理大臣である犬養 毅氏より花房家に贈られた『楽其自然(らくそしぜん)』を企業理念に掲げ、 “あるがままの自然な生き方こそが、楽しい人生である”というその言葉の意味とおりに、土地への愛、自然への敬意、職人たちとの誇りをもって伝統を守っています。

2000年から出品し続けているモンドセレクションでは、最高金賞・金賞を22年連続で受賞。国内のみならず世界へとその文化を送り続ける室町酒造にとって、大切なものについて聞きました。

水と暮らす編集部

室町酒造さんが使っている「雄町の冷泉」というのは、どのような特徴のあるお水なんでしょうか?

花房さん

キレイなのはもちろんなんですが、冬も夏も同じ水温で、pH6.5のやや軟水です。岡山市内を流れる旭川(あさひがわ)の伏流水からなる「雄町の冷泉」は、江戸時代の大名・池田公の御用水として使われ、備前国一の名水といわれていました。近くに水の湧き場所は他にもあるんですが、名水百選に選ばれている雄町の冷泉は、ピンポイントでこの地域に湧き出ている水だけなんです。

水と暮らす編集部

酒造りに使用するお水は、タンクローリーでくんでいらっしゃるそうですね。

花房さん

時期にもよりますし、酒造りの工程にもよりますが、使用する2日前には水をくみに行き、その水をフィルターでろ過をしてタンクに貯水し、冷却機で一定の温度に冷やしております。水はもともとキレイなので、付随してくる不純物を取り除く作業をした後、酒造りに使用しています。

水と暮らす編集部

仕込み水から洗浄などさまざまな工程で使われていると思うのですが、過渡期にはどの程度の量のお水をくみに行かれているんでしょうか。

花房さん

一番多いときで一日に2トンほど。くむ場所がとても狭いところなので、繁忙期には3往復くらいしながら水をくみに行っています。お酒を造る過程において、例えば1トンの米を使ってお酒を仕込む場合、仕込み水は最低限でもその1.4倍を使います。それ以外に酵母菌の培養にも水は使いますし、お酒の成分の大半はお水だという意味では、いいお水がたくさん必要なんですよね。

水と暮らす編集部

味や甘さはお米と酵母が決め手だとしても、お酒の品質はお水に左右されるわけですね。

花房さん

まさにそうです。いくらいいお米を仕入れてフルーティーな香りのする酵母菌を使い、腕のいい職人がいたとしても、お水が悪ければ味は引き立ちませんし、お水の性質によって酵母菌の発酵も最大限のエネルギーを発揮させられません。酵母菌にきちんと仕事をしてもらい、お米の甘みを分解してもらわなければ、私たちの望むお酒にはならないんです。それが、雄町の冷泉のおかげで成り立っています。

最高級の米と水を用いた麹造り。(写真提供:室町酒造株式会社)

酒米の原型品種であり、最高品質を誇る「雄町米」

水と暮らす編集部

室町酒造さんが使われている地元産の「雄町米」と「雄町の冷泉」だからこそできるお酒とは、どのような味わいなのでしょうか。

花房さん

雄町米は酒米の唯一の原型種で、今から160年くらい前に雄町に住んでいた篤農家(とくのうか)が珍しい稲穂を見つけ、育成したのが始まりです。

酒米というのは、お米の中心部分に純粋なでんぷん質を含んでいます。ふだん食べるコシヒカリやササニシキという飯米は、中心部分にでんぷん質が多いというより、たんぱく質や脂肪分が多いため、たんぱく質が分解されてアミノ酸といううま味成分が出ます。脂肪分は香りや粘りのもとになる。つまり酒造りに用いる米はたんぱく質や脂肪分が極力少ない方がいいんです。

雄町米はもちろん、雄町米の孫にあたる山田錦も、おいしいお酒のもととなるお米は中心部に心白(しんぱく)という、でんぷん質の塊である白い斑点があるんです。その心白を生かすためにいい麹を造ることが必要であり、そのためにもいいお水が必要となってくるわけですね。

水と暮らす編集部

最高級の酒米とお水、そこから生まれる麹という3つがそろったお酒なんですね。

花房さん

そうですね。世の中には、いいお酒=雪深くて水がキレイで良質なお米がとれる産地、というイメージがあると思うんです。もちろんその上でいいお酒を造っていらっしゃるメーカーさんはたくさんあります。ただ、雄町米は原型品種であり、岡山県で全国の90%以上を栽培しています。

多くの方は、食べてもおいしいお米のある産地のお酒がおいしいと思われてると思うのですが、やはり酒造りに適したいいお米というのは、酒造りのために育成し、交配を重ねて誕生したお米なんですよね。

水と暮らす編集部

今はネットでどこからでも買い物ができる時代だからこそ、そこの土地で育った原料を使って造られたものが再注目されていますね。

花房さん

やはりその地域で採れたものを使ったお酒や味噌、醤油などが、その地域の食材にも合いますから。日本人には淡麗辛口のお酒が良いものというイメージもあるようですが、すべての地域の料理に淡麗辛口が合うかといったら必ずしもそうではありません。

日本酒もそれぞれのうま味があって初めて日本酒なのだということを、どんな情報も集めることができて、どこからでも何でも手に入る今の時代だからこそ、もっと知ってもらえたらうれしいですね。

モンドセレクションなど数々のコンクールで受賞。(写真提供:室町酒造株式会社)

郷土との共存、酒を楽しむ心を掲げた酒造り

水と暮らす編集部

300年の歴史があり、岡山でもっとも古い酒蔵である室町酒造さんとして、創業から変わらない理念や守っていきたい部分というのはどんなところでしょうか。

花房さん

創業当時と違って、今は情報が瞬時に世界に広がっていく時代です。『楽其自然(らくそしぜん)』は、うちの祖先と親睦が深かった犬養毅さんが贈ってくださった言葉なんですが、室町酒造として、“郷土と共存・共栄”、そして “酒を楽しむ心”、そのふたつが作業の基本となるように、企業理念として掲げています。

ひとりでも多くの方々においしいと喜んでもらえる酒造りを目指す。農産物に恵まれた岡山の、地産の恵みに感謝して、育むことに協力し、産物を用いた酒造りをする。品質・品格を常に高めるよう努力し、広く信頼を積むこと。その想いをもって酒造りをしています。

水と暮らす編集部

企業としてはもちろんですが、人の生きざまとして大事なことが詰まった理念ですね。

花房さん

昔は交通の便も含めて今のような状況ではないので、その地域の人に愛されないと酒造りも含め産業は成り立ちませんでした。しかし、今はその地域の産業ではなくても、同じことが他の地域でできてしまう時代です。だからこそ原点に返るべく、地元の素材を使ったおいしいお酒を提供していかねばならないと強く思っています。この地域の水とお米と業(わざ)で地域を活性化させ、その熱を世界中に広げていくような酒造りを、今後も続けていきたいですね。

モンドセレクション最高金賞・金賞を合わせて22年連続で受賞している極大吟醸 原酒 室町時代(画像左)、雄町の水と米を存分に味わえる契約栽培米 純米酒 瀬戸雄町(画像中央)、海外の日本食レストランで好評を得ている佐近レアル(画像右)。他にも、由緒正しきコンクールなどで受賞歴をもつお酒ばかりが多数。(写真提供:室町酒造株式会社)

室町酒造公式サイト