おいしいお酒は良質の水から生まれる|丸一酒造の蔵人さんに聞く

2021.05.31

良質な水が湧き出る土地には、おいしい日本酒の酒蔵があるといわれます。

日本酒は約80%が水でできていますので、水の質がお酒の味を大きく左右することは間違いありません。

そんな水とお酒の密接な関係について、丸一酒造株式会社の中村智明(なかむらともあき)さんにお話をうかがいました。

(写真提供:丸一酒造株式会社)

水と暮らす編集部

丸一酒造さんが酒造りに使用している水はどのようなものですか?

中村さん

当社は愛知県の知多郡阿久比(あぐい)町に酒蔵がありますが、その敷地内で彫り抜いた井戸水を使っています。

阿久比の地下水の特徴としては、有機物と鉄分が少ないということがあげられます。硬度でいうと10~20mg/Lと、かなりやわらかい軟水になります。

では、軟水が日本酒造りに向いているかというと、そういうことでもありません。兵庫・灘(なだ)の有名な酒蔵が酒造りに使う「宮水(みやみず)」(※)は硬水ですから。軟水が良くて、硬水がダメということではありません。

(※)兵庫県西宮市の西宮神社近くから湧き出る、酒造りに適しているとされている地下水。硬度が高く、リンの含有量が多く、鉄分が少ない。「沢の鶴」「菊正宗」「白鹿」「大関」など灘の名門酒蔵が使用している。

水と暮らす編集部

酒造りにとって水はどんなものといえますか?

中村さん

酒造りに水はなくてはならないものです。酒造りのもっともベースとなるものでしょう。酒造りの3要素水、米、(酒造りに関わる)人間ですが、お米と人間を変えることはあっても、水は変えることができませんから。

水と暮らす編集部

阿久比町には今でもホタルが見られるそうですね。

中村さん

はい、夏の夜にはホタルを見ることができます。ご存じのとおり、ホタルはきれいな水環境でないと生息できません。それだけ阿久比は水がきれいなのだと自負しております。

農家さんと一緒に地元を盛り上げたい

水と暮らす編集部

その酒造りのもうひとつの要素であるお米ですが、お米は何を使っていますか?

中村さん

知多半島はお米農家さんが多い地域で、そこの農家さんが育てている酒造好適米を使っています。阿久比町の隣の常滑市の農家さんが多いです。

愛知県の酒造好適米は銘柄でいうと、若水(わかみず)、夢山水(ゆめさんすい)、夢吟香(ゆめぎんが)、山田錦(やまだにしき)の4種あるのですが、うちでは若水、夢吟香、山田錦を使っています。

水と暮らす編集部

丸一酒造さんは、地域の活性化にも積極的に取り組まれているとうかがいました。

中村さん

日頃の感謝の意味を込めて、地元を盛り上げるためにはうちでやれることは何でもやるという気持ちで取り組んでいます。阿久比町の特産品は、米と酢とうちのお酒だと自負しています。

銘酒「ほしいずみ」に込められた酒造りの思い

「ほしいずみ」のデザイン
「ほしいずみ」のデザイン。(写真提供:丸一酒造株式会社)
水と暮らす編集部

丸一酒造さんのメインの銘柄である「ほしいずみ」はどんな特徴がありますか?

中村さん

うちにはもともと越後の杜氏が来ていたので、新潟系の「きれいなお酒」といえると思います。それにプラスして、女性にも好まれるような芳醇でフルーティーな飲み口になっています。日本酒が初めての方でも飲みやすいと思います。

水と暮らす編集部

「ほしいずみ」という名前の由来がユニークとうかがいました。

中村さん

敷地内に井戸がありまして、その水面に星が映ったことから「ほしいずみ」と命名されたと聞いています。とてもロマンチックですよね(笑)。酒造りの工程では、蔵人が夜中にも麹(こうじ)を見に行くのですが、そのときに井戸を見かけたのではないかと推察されます。

水と暮らす編集部

丸一酒造さんの創業が大正6年(1917年)とのことで。100年以上続く酒造りの伝統のなかで、一番大事にされていることは何ですか?

中村さん

基本中の基本のことで拍子抜けするかもしれませんが、「清潔に保つ」ということではないでしょうか。他の蔵元さんが訪ねてくる機会があるのですが、みなさん口をそろえて「蔵が清潔ですね」とおっしゃります。蔵に入った瞬間に「空気が違う」と。

酒造りの工程は、精米、洗米、浸漬(しんせき)、蒸米、麹造り、酒母造り、醪(もろみ)仕込み、上槽(じょうそう)、滓引き(おりびき)・ろ過、火入れ、貯蔵、びん詰めの12工程に分けられますが、そのどれひとつとっても手を抜いてはいけません。

別の角度からいうと、どの工程を完璧にこなしたと思っていても、必ずしも良い酒ができるわけでもない。そういう厳しい世界です。

日本酒の伝統を未来へ紡ぐ

水と暮らす編集部

全国新酒鑑評会で9年連続金賞を受賞されたとか。

中村さん

全国新酒鑑評会は国が主催するイベントで、全国の酒蔵さんがその賞を目指しているものです。そこで9年連続金賞を受賞したことはたいへん名誉なことです。

お酒の出来はもちろんですが、「蔵が若い」ことが評価されたと思います。当社は創業104年ですが、100年の蔵は日本酒の世界では若いのです。

また、造り手が若い。私が最年長(43歳)なのですが、蔵人は30代中心です。うちの杜氏(蔵の責任者)は37歳で、つい最近まで愛知県最年少でした。

「酒造り」と聞くとおじいさんというイメージがあるのではないでしょうか。全国的に造り手の高齢化、後継者不足が問題視されていますが、うちでは若い蔵人が育っています。

まとめ

100年の蔵でも若いというのは驚きです。それだけ日本酒造りには長い歴史と伝統があるのですね。

超軟水という阿久比の地下水の特徴を生かした酒造りを続けている丸一酒造さん。若手中心の蔵人を抱える丸一酒造さんは、伝統の酒造りを未来に伝える架け橋になっているのでしょう。

丸一酒造の中村智明さん、いろいろと教えてくださりありがとうございました。

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