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静岡・大井川から人々を守り、観光にも貢献する治水の要・長島ダムとは

2021.07.28

静岡県の一級河川・大井川の上流部にある長島ダムは、治水機能や水資源の確保などさまざまな役割をもつ多目的ダムとして、人々の暮らしに重要な役割を果たしています。
一方で、巨大な放水ゲートを間近に見られたり、公園や展示施設が併設されていたりと、訪れても楽しい施設です。

地域に開かれたダム」として知られる長島ダムの、管理所専門官の熊切良行(くまきりよしゆき)さんにお話をうかがいました。

トップの写真は、長島ダム竣工記念放流 。(写真提供:長島ダム)

長島ダムから水が出ている様子
長島ダム。 (写真提供:長島ダム)
水と暮らす編集部

大井川沿いには、長島ダムの他にもたくさんのダムがありますよね。

熊切さん

そうなんです。大井川沿いには、井川ダムや畑薙第一ダムなど複数あり、ほとんどが水力発電用なんです。大井川は急流なので、その勾配を利用してためた水を流すことで発電しているんですよ。

水と暮らす編集部

長島ダムも同じく発電用ですか?

熊切さん

実は長島ダムだけは発電用ではありません。他と目的が違って、大井川沿いの中で唯一、洪水調整をしています

治水目的に洪水調整をする他にも、下流側に水を流す河川の水量調整機能もありますし、平野部の田んぼや工業用水、水道のための水がめにもなっていることから『多目的ダム』と呼ばれているんですよ。

ちなみに、大井川沿いのダムはほとんどが電力会社所有の発電用ですが、国土交通省の管轄は当施設だけです。

水と暮らす編集部

ダムと一言でいっても、いろんな役割のダムがあるんですね。

熊切さん

そうなんです。ダムの目的には大きく4つあるんですよ。
1つは洪水調整です。大雨が上流で降ると下流域で洪水が発生する恐れがあるので、治水として水をダムに貯めて川に流れる水量を減らし下流域での洪水を防ぎます。

2つ目は河川の水量の維持ですね。
ダムは川をせき止めて、流量を減らしてしまうので、正常な水量が川に流れるようにためたダムの水を川に放水しています。

3つ目は水の確保です。工業用水や農業用水、水道水などさまざまな用途に使われる水をためているんですよ。

4つ目は発電用で、水力発電で電気を作り出す役割があります。

水と暮らす編集部

ところで、なぜ長島ダムだけに治水機能があるんでしょうか?

熊切さん

建設地の川根本町で大雨による浸水被害が起こったことがきっかけになって、やっぱり必要だということで、国土交通省として2002年に総貯水容量7,800万m3の長島ダムを造ったんです。

水と暮らす編集部

なるほど、大井川の洪水から人々を守る唯一のダムなんですね。

熊切さん

そうですね、洪水対策をしている長島ダムでは、大雨が降った場合、下流側にいっぺんに水が流れないように水をためて対応しています。

そのときは連日連夜管理所に詰めることになるので大変ですが、一つ間違えると下流域で水害が起こってしまうので大切な仕事だと思ってがんばっています。

地元で親しまれている「地域に開かれたダム」

水と暮らす編集部

地域の人々に親しみを持ってもらえるような取り組みをしている『地域に開かれたダム』として、国土交通省に指定されていますよね? 具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

熊切さん

まずは、ダム見学を実施しています。ダムの内部も入ってもらえますし、外部には、水辺に近いところまで下りていける階段やつり橋も設置していて、いろんな角度から見られるようになっていますよ。

ダム湖ではカヌーなども楽しんでもらえるほか、施設周辺には公園や展示施設を併設しています。

放流のしぶき
放流のしぶき。(写真提供:長島ダム)
水と暮らす編集部

特に見応えのあるところはありますか?

熊切さん

ダムの水を川に放流するところですね。放流するためのゲートが6門あるんですが、非常に大きくて迫力があるんですよ。

放流の様子は、基本的に見下ろすことが多いかと思うのですが、長島ダムの場合は、ダムの両サイドから水面に近いところまで階段で下りられるようにしているので、下から放流の様子を眺めることができるんです。

階段を下りると、『しぶき橋』というつり橋があって、橋に立つとほぼ真正面に放水の様子を見られます。たくさん水を流している時には水しぶきが橋の方までかかるんですよ。

それでしぶき橋というのですが、5月の今は、ダム内部の水位を下げるために川への放水量を増やしている時期なので、吊り橋の上で水しぶきを体験するにはちょうど良い時期なんです。

水と暮らす編集部

今はちょうど1年の中でも放水量が多い時期なんですね!

熊切さん

長島ダムは河川の流量を維持する目的もあるので、基本的には年中放水しています。状況によって変わりますが、梅雨前の時期ということでだいたい4月下旬から6月中旬にかけて、川への放水量を増やしてダム湖の水位を下げているんです。大雨で川が増水しても、ダム内に水をたくさんためられるようにするためですね。

この時期は放水の様子も見応えがあるので、見に来られるならオススメですね。ちょうど新緑で、周りの景色も非常にきれいなんですよ。

接岨湖と奥大井湖上駅
接岨湖と奥大井湖上駅。(写真提供:長島ダム)
水と暮らす編集部

ダム湖や併設の施設はどんなところでしょうか?

熊切さん

ダム湖は『接岨湖(せっそこ)』というのですが、2003年の静岡国体の時、カヌー大会ができるように、観客席を兼ねた階段を作って整備したんです。川根本町に1校だけある高校のカヌー部の生徒さんがほぼ毎日練習で使っていますね。

ここで練習をしてきた川根本町出身の大村朱澄選手が、2012年のロンドンオリンピック代表に選ばれたこともあって、観光面でもカヌーやカヤックなどを楽しんでもらえるようにするなど接岨湖の活用に力を入れているんです。

水と暮らす編集部

公園内に『長島ダムふれあい館』があるそうですね

熊切さん

ダムのすぐ隣の公園には『長島ダムふれあい館』といって、ダムや大井川流域のことを、模型や映像、パネルでわかりやすく展示している施設もあります。

ちなみに、国土交通省と独立行政法人水資源機構の管理するダムでは、訪問の記念になるような『ダムカード』というカードを配布していて、ふれあい館と管理所には、長島ダムのダムカードを置いていますよ。

ダムがある川根本町や付近の見どころ

アプトライン
アプトライン。 (写真提供:長島ダム)
水と暮らす編集部

ダムの付近も観光ができるところはありますか?

熊切さん

絶景を楽しめる『夢のつり橋』や、温泉、キャンプ場などがありますよ。

水と暮らす編集部

おもしろそうですね! 長島ダムは駅が近くていいですね。

熊切さん

はい、大井川鐵道(おおいがわてつどう)井川線という鉄道が走っていて、長島ダムから歩いて数分の所に『長島ダム駅』があります。

長島ダム駅と、その隣の『アプトいちしろ駅』の区間には、日本で唯一、急勾配を上り下りする鉄道システム『アプト式』で動く電気機関車が走っているんですよ。
長島ダムができたことで、この区間は普通鉄道で日本一の急勾配となったので、アプト式電気機関車にトロッコ車両を連結させて、ゆっくり長島ダム駅まで上ってくるんです。

水と暮らす編集部

アトラクションみたいでおもしろいですね! 接岨湖には湖上に駅があるのだとか?

熊切さん

はい、接岨湖の真ん中に浮かぶ奥大井湖上駅』があって、湖上からの景色を楽しめますよ。ぜひこの一帯を楽しんでいってもらえたらと思います。

まとめ

大井川沿いには複数のダムがありますが、長島ダムは唯一、洪水から人々の暮らしを守る役割を担っています。治水の役割を知ることができるだけでなく、観光地としても開放されているダムを訪れ、改めて水を管理する重要性を感じてみてはいかがでしょうか?

長島ダム公式サイト

※ダム内見学は、事前に長島ダム管理所にお問い合わせください。