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自然との共生を学ぶことができる、ミュージアムパーク茨城県自然博物館

2021.07.12

ミュージアムパーク茨城県自然博物館」は、茨城県の自然豊かな湿地のそばに位置する博物館です。同館では宇宙の誕生から生命のしくみまで、自然の成り立ちをわかりやすく体験できる演出がたくさんあります
世界最大級の「松花江(しょうかこう)マンモスの化石」が出迎える入り口を抜けると、館内には5つの常設展示室や部門展示室などが、野外には散策しながら樹木や草木、水生生物などを観察できるスペースが広がることが特徴です。

自然との共生を学べるミュージアムパーク茨城県自然博物館の展示内容や取り組みについて、同館の学芸員・伊藤 彩乃(いとう あやの)さんと主任学芸主事・鈴木 亮輔(すずき りょうすけ)さんにおうかがいしました。

トップの画像は、松花江マンモス。(写真提供:ミュージアムパーク茨城県自然博物館)

水と暮らす編集部

ミュージアムパーク茨城県自然博物館は、どのような場所にあるのでしょうか?

伊藤さん

当館は、茨城県の坂東市と常総市との境界付近に位置する「菅生沼(すがおぬま)」の西岸に隣接しています。菅生沼は、茨城県内最大の自然環境保全地域で、毎年300羽以上のコハクチョウがやってきて越冬したり、オオタカなどの猛禽類(もうきんるい)やさまざまな小鳥が生息したりする、生態系が豊かな場所です。そのような場所に位置している当館は、身近な自然について目を向けてもらえる施設となっています。

水と暮らす編集部

ミュージアムパーク茨城県自然博物館のコンセプトを教えてください。

伊藤さん

当館の基本理念は「過去に学び、現在を識り、未来を測る」です。館内では、化石などの展示で“過去”を学ぶことができ、茨城県内の自然(植物や動物)に関する展示で“現在”を知ることができます。また、自然と人間との今後の関わり方を考えられる展示を通して、“未来”を推しはかることもできるんです。

水と暮らす編集部

どのような方が来館されるのでしょうか?

伊藤さん

平日だと遠足や校外学習でやってきた幼稚園児や小学校の子どもたちが、土日だと親子連れの方が多いですね。特に、小学校低学年の子どもたちが多いように感じます。当館では年に3回、内容を入れ替えた企画展を開催しているので、新しい企画展を楽しみにして、年に何度も訪れるリピーターの方が大勢います。昨年は、『さくら展』『深海ミステリー2020』『いのち育むブナの森』を開催しました。これらの企画展の一部は常設展示室に移設したため、会期が終わった今でも見ていただけるようになっているんです。

2020年10月に開催された『いのち育むブナの森』展の『ブナの葉でつくる日本列島』は常設展示室でも見ることができる。(写真提供:ミュージアムパーク茨城県自然博物館)
水と暮らす編集部

野外施設も充実しているそうですね。

伊藤さん

はい、野外の大きな人工池『とんぼの池』では、湿生・水生植物などを観察できたり、菅生沼にかかる歩行者専用の橋『ふれあい橋』を歩きながら、水辺の鳥などを間近で見られたりします。このような施設で、子どもたちが身体を思いっきり動かしながら、自然について学ぶことができるんです。その他にも、子ども向けの体験型イベント『サンデーサイエンス(※1)』を日曜日に開催するなどして、来館者の方により楽しんでいただけるような工夫を凝らしています。

※1:2021年7月以降は『サンデーサイエンス in 発見工房』に名称を変更し、新たな体験活動を予定している。

ふれあい橋
菅生沼に生息する野鳥など、いろいろな生きものたちを間近で見ることができる『ふれあい橋』。(出典:ミュージアムパーク茨城県自然博物館 公式サイト)

魅力のひとつは、魚や鳥、虫になったような気持ちで自然を観察できる展示室

水と暮らす編集部

館内には「常設展示室」と「部門展示室」があるそうですね。それぞれの特徴を教えてください。

鈴木さん

常設展示室では、茨城県をはじめ世界まで目を向けた展示を行っています。一方、「ディスカバリープレイス」と名付けられた部門展示室では、茨城県の動物や植物、地学について学ぶことができ、来館者の方にとってより身近な自然環境に目を向けることができる内容となっております。

水と暮らす編集部

常設展示室のひとつである、第3展示室『自然のしくみ』の内容を教えてください。

伊藤さん

第3展示室は、生態系についての展示室です。地球上にはあらゆる生態系があり、特に茨城県の生態系の紹介では「どのような生きものが生息し、生きもの同士はどのような関係性があるのか」を伝えています

展示室の入り口には世界地図がありまして、地球上の多種多様な生きものを紹介するコーナーから始まるんです。次にあるのが「森林の生態系」を紹介するコーナーで、ブナを中心とした北茨城の森林や、コナラやクヌギなど平地の雑木林を再現したジオラマが展示されています。

その後に続くのが「水域の生態系」を紹介するコーナーです。ここでは水槽による展示が、河川の上流から下流をイメージして流れるように続き、河川や湖沼、海の生態系を伝えています。さらにその後には、「海の生態系」として魚や深海の生きものを紹介するコーナーがあるんです。

森林の生態系がジオラマで再現されている
森林の生態系がジオラマで再現されている。(写真提供:ミュージアムパーク茨城県自然博物館)
水と暮らす編集部

実物資料やジオラマなどを使いながら、森林・湖沼・海などの環境に暮らす生きもののようすをわかりやすく紹介しているんですね。

鈴木さん

そうなんです。第3展示室の順路は、2階から中2階へと展示室の中をだんだん下りていくような形になっています。その中で、森林や水域の生態系がジオラマで再現され、さまざまな生きものが展示されているので、来館者の方は森の中を歩いたり、水の中を観察したりしているような気持ちで、生態系についての理解を深められる仕組みになっています

特に水槽の中で本物の魚が泳いでいる姿を見られるコーナーは、子どもたちに人気があります。ここでは茨城県の河川の上流から中流、下流、そして海に至るまでの環境ごとに水槽がスロープ状に続き、それぞれの環境に生息する生きものが数多く展示されているんです。

河川・湖沼・海の生態系は、上流から中流、下流、海に至るまでの環境ごとに水槽があ
河川・湖沼・海の生態系は、上流から中流、下流、海に至るまでの環境ごとに水槽がある。(写真提供:ミュージアムパーク茨城県自然博物館)

湿地に見られる絶滅危惧植物を紹介することで、植物の保全活動につなげたい

水と暮らす編集部

つづいて、部門展示のひとつである『植物』の内容を教えてください。

鈴木さん

一口に「植物」といっても、大きなものから小さなものまであります。そのため、当館では立体模型や拡大模型を使い、茨城県に生育するコケ植物やシダ植物、種子植物などの分類群だけでなく、「変形菌(へんけいきん ※2)」などのとても小さな生きものまでを展示しているんです。部門展示の中でも「茨城の湿地にみられる絶滅危惧植物」を紹介する展示が見どころとなっています。

※2:移動しながら微生物などを捕食するアメーバのような時期と、小さなキノコのような体に変形して胞子を飛ばす時期をあわせもつ生きもの。

水と暮らす編集部

なぜ、茨城県の湿地では絶滅危惧植物をよく見ることができるのでしょうか?

鈴木さん

水辺があること」と「人の手が入る環境が比較的整えられている」からです。 まず、水辺があることについてですが、もともと茨城県には「古東京湾(ことうきょうわん ※3)」と呼ばれる水辺があり、そこに流入してきた土砂などによって平野部ができあがりました。その土の間に河川ができ、沼、湖ができて、その周りに湿地の植物が繁茂していった歴史があります。

次に、人の手が入る環境が比較的整えられていることについてです。2015年には、県南部で鬼怒川(きぬがわ)の堤防の決壊による広範囲の洪水がありました。これにより、植生が部分的に壊されて、湿地の状態がリセットされました。しかし、近年は護岸(ごがん)工事(※4)により、このような洪水が少なくなる一方で、リセットが起こらないために湿地に適応した植物は生育しづらくなってしまいました。「農業県」とも呼ばれる茨城県では、年に数回、河川周辺で定期的な草刈りや野焼きが行われてきました。それらが自然によるリセットの代わりとなって、湿地の植物が生き残ってきたと推察されているんです。

茨城県の湿地にみられる絶滅危惧植物の展示。(写真提供:ミュージアムパーク茨城県自然博物館)

※3:第四紀更新世の中期に、関東平野に広がっていた内湾のこと。

※4:おもに、堤防を増強する工事のこと。河川の氾濫防止や磯の高波から内陸を守るなどの目的がある。

菅生沼で年1回行われている野焼き
菅生沼で年1回行われている野焼き。(写真提供:ミュージアムパーク茨城県自然博物館)
鈴木さん

当館では、菅生沼の絶滅危惧種であるタチスミレの保全のため、年1回「野焼き」を行っています。その様子は申し込みをして、見学することもできるんです。来館者の方には、そのようなイベントに参加していただき、「野焼きが絶滅危惧植物の保全につながること」を学んでいただければと考えております。

水と暮らす編集部

最後になりますが、来館者の方に楽しんでもらえるように、今後検討されている取り組みがあれば教えてください。

鈴木さん

当館では毎年、来館者の方に楽しんでいただけるような企画展を開催しており、今年の秋には、水辺などの環境が特に重要な「コケ植物」についての企画展を予定しています。その企画展の前半部分では、生きものとしての「コケの生態」を知っていただく内容を、後半では絶滅危惧種になっているコケを取り扱い、湿地や河川を含む自然環境で暮らしているコケが減っていることの啓発活動をしていく予定です。

ほかにも、人々の中で「コケアート」が文化として根づきつつあることから、「コケウォール(生きているコケの壁)」を展示しようと考えています。また、コケの化石や模型、映像などで、視覚的にも楽しんでいただける企画展にしたいと考えているところです。

このような企画展を通して、自然にふれていただき、自然保全にも意識を向けていただければと思っております。

この記事のまとめ

ミュージアムパーク茨城県自然博物館では、年間を通して自然にまつわるさまざまな展示を開催しています。茨城の風土に根ざした自然だけではなく、地球環境についても、子どもが見て触って、学ぶことができる貴重な場所です。

ミュージアムパーク茨城県自然博物館
所在地 〒306-0622 茨城県坂東市大崎700

<公式HPはこちら>