和菓子でもっとも重要な食材は水。森八の若女将が語る水との歩み

2021.06.02

寛永2年に創業した超老舗の和菓子店、森八。菓子製造技能士1級の資格をもつ職人でもある、19代目の若女将・中宮千里(なかみやちさと)さんは「和菓子でもっとも重要な食材は水」と語ります。約400年にわたり「水と暮らす」を体現しながら、味を受け継いできました。

水は和菓子にどのような影響を与えるものなのでしょうか。

トップの画像は森八本店の外観。(出典:株式会社森八公式Facebook)

お菓子づくりにもっとも重要な水
お菓子づくりにもっとも重要な水。
水と暮らす編集部

お菓子づくりにとって、水はどれほど重要なものなのでしょうか?

中宮さん

水は原材料の中でももっとも重要だと言ってよいと思います。

水と暮らす編集部

もっとも重要! そこまでとは思いませんでした。

中宮さん

弊社の菓子づくりでもっとも重要な点は、霊峰白山の伏流水を使っていることですね。

水と暮らす編集部

創業当時から霊峰白山の伏流水を使っていたんでしょうか?

中宮さん

弊社は、もともと石川県金沢市尾張町に本店がありました。菓子づくりには、そこの地下水を使っていたんです。

水と暮らす編集部

もともとは尾張町の地下水だったと。尾張町に本店があったのはなぜだったんでしょうか。

中宮さん

江戸時代に前田家のお殿様から「ここで商売をするように」と尾張町の土地を授かったことに由来します。当時は、そこの地下水を使っていました。平成の時代になって手狭になり、今の専光寺町に移りました。

水と暮らす編集部

お殿様からの命令でつくったお店が400年続くとはすごいことです。

中宮さん

もともと加賀藩主・前田家のお殿様の部下の武士の家でして。それから、前田家の命令によって和菓子屋をやることになったようです。

水と暮らす編集部

なぜ現在の専光寺町に移ったんでしょうか?

中宮さん

工場を建て替えするときに水の成分を調査したところ、尾張町で使っていた地下水ともっとも成分が近かったんです。それで専光寺町が選ばれました。

水と暮らす編集部

なるほど。それでは、完全に水が決め手となって工場の場所が決まったということなんですね。しかし、後年に水が理由で工場の立地を決めるほど、もとの水が良かったんですね。

中宮さん

旧本店の尾張町の水が和菓子に適していたことは、偶然なんですよ。この土地の水を使って、和菓子をつくっていくこと。それが運命だったのでしょう。

森八のアイデンティティーを守り続ける「水」

森八の「黒羊羹 玄」
森八の「黒羊羹 玄」。(出典:株式会社森八公式サイト)
水と暮らす編集部

水はお菓子づくりにどのような影響を与えるのでしょうか。

中宮さん

たとえば、羊羹(ようかん)やあんこは水の味がすごく重要です。特に地下水に豊富に含まれているミネラル分が味に大きな影響を与えます。

水と暮らす編集部

お菓子の味に与える影響の秘密はミネラル分にあったんですね。

中宮さん

水を変えてしまうと、長年守ってきた味が大きく変わってしまうんです。あんこは味だけでなく、色も変わります。

水と暮らす編集部

水で色まで変わってしまうんですか。

中宮さん

ミネラルの中でも特に鉄分が多い水なのですが、そのような水を使うとあんこの色が深く濃い色になるんです。

水と暮らす編集部

霊峰白山の伏流水を使うことで守られる、森八さんのあんことはどのようなものなんでしょうか?

中宮さん

あっさりとした味だけど、黒くて光沢がある。それが、江戸時代から親しまれている森八のあんこだと思っております。

和菓子において「水」は味付け

水にこだわった和菓子づくり
水にこだわった和菓子づくり。(出典:株式会社森八公式サイト)
水と暮らす編集部

約400年にわたって受け継がれる「森八」のアイデンティティーを守るために、水はかなり大きなウェイトを占めているんですね。

中宮さん

歴史の中で最初から使っている原料でブラッシュアップされている部分もあるんですが、基本的には昔からの製法を変えないというスタンスを守っていますね。

水と暮らす編集部

和菓子で水をここまで大切にするというのは、森八さん独自の考え方なのでしょうか?

中宮さん

和菓子で水が重要だということは、製菓学校でも「基本」として教わることです。お店によっては水道の水を使うこともありますが、その場合でも、必ず浄水器を入れるなど、水には気を配っていると思いますよ。

水と暮らす編集部

そうなんですね。和菓子に水がそこまで重要なものだったとは。

中宮さん

水分を足す」という意味合いを超えて「味付け」という認識で水を選んでいる和菓子屋さんも多いんですよ。

水と暮らす編集部

そうなると、地場に根付いた和菓子屋さんというのは、地場の水を使うわけですから、そこでしかできないお菓子をつくっているということなんですね。

中宮さん

はい。似たような場所であっても、地下水は水脈が違うと成分が大きく異なります。水脈によって、できるお菓子の味は変わります。

水と暮らす編集部

和菓子において、いかに水が重要なのかがよくわかりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社森八
石川県金沢市大手町10番15号
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