松江市役所、水とともに生きてきた「水の都・松江」の魅力をPR
「水の都」として有名な島根県の松江市。NPO法人日本列島夕陽と朝日の郷づくり協会の「日本の夕陽百選」に選ばれるほどきれいな宍道湖(しんじこ)から眺める夕日や、漁獲高日本一を誇るヤマトシジミなどが有名です。
この地域に住む人々は、昔から水との関わりが深く、松江は水によって発展してきました。
今なお発展を続ける「水の都・松江」の魅力を、松江市観光文化課の石倉 由莉香(いしくら ゆりか)さんにおうかがいしました。
トップの画像は穴道湖の夕日。(写真提供:松江市)
暮らしの中に当たり前にある「水の風景」
- 水と暮らす編集部
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はじめに、松江市の特徴を教えてください。
- 石倉さん
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海や湖に囲まれている松江市は、周辺すべてに水辺がある自然豊かな場所です。
市の北部は⽇本海に面し、島根半島の景観が美しい「リアス式海岸」が広がっています。また、市街地の中心を流れる「大橋川」から西には宍道湖が、東には中海(なかうみ)が広がっていることも特徴です。
この2つの湖には、水鳥の生息地として国際的に重要な「ラムサール条約(※1)」に登録された湿地があります。また、宍道湖は「夕日」や日本一の漁獲高を誇る「シジミの産地」としても有名な場所なんです。
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※1 渡り鳥や魚などの多様な生き物が生息できるように、湿地を守っていくための条約のこと。中海と宍道湖は、2005年11月に登録された
- 水と暮らす編集部
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水との関わりが深いからこそ、松江市は「水の都」とも呼ばれているんですね。
- 石倉さん
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そうなんです。市内には、松江城を囲む松江堀川(通称:堀川)や大橋川だけではなく、市街地にも数多くの川が流れていて、600以上の橋が架かっています。その数は「水の都」と呼ばれるイタリアのベネチアを上回る数です。
小舟に乗って、松江城を囲む約3.7kmの堀川を巡る「ぐるっと松江堀川めぐり」は、風情ある街並みを眺めながら、船旅を楽しむことができます。観光客の方に人気のある乗り物なんです。
- 水と暮らす編集部
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水にまつわる観光スポットに惹かれて、たくさんの観光客が訪れるんですね。地元の人たちにとって、松江市の周辺にある水辺は、どのような存在なのでしょうか?
- 石倉さん
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みなさん、水辺を身近な存在に感じていると思います。私は生まれも育ちも松江市で、学生時代から宍道湖を染めるうつくしい夕日を眺めながら過ごしてきました。また、松江市では10年に一度、大橋川と意宇川(いうがわ)を舞台に、「ホーランエンヤ(※2)」と呼ばれる船神事が開催されます。子ども時代から、そのお祭りを見てきたこともあり、水辺はとても身近な存在に感じるんです。
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※2:城山稲荷神社式年神幸祭のことで、松江市最大のお祭り。古くから宮島の「管絃祭」、大阪天満の「天神祭」と並ぶ、日本三大船神事の一つ
水によって松江のまちは発展し、全国有数の特産品が生まれた
- 水と暮らす編集部
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松江に暮らす人々の暮らしや⽂化に、水辺はどのような影響を与えてきたのでしょうか?
- 石倉さん
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宍道湖や中海、大橋川による水運が重要な役割を果たし、北前船(きたまえぶね※3)が松江の城下町に物資を運んだことで、まちが賑わい、発展してきました。
そのように水の恩恵を受けてきた一方、市街は水害にも悩まされてきたんです。松江市には、中国山地から宍道湖に入り、市街地を通って中海の外に出ていく「斐伊川(ひいかわ)」があります。大雨が降ったりすると、その川の水が宍道湖へと一気に流れ込むので、市街地は度重なる浸水の被害にあってきました。そこで、江戸時代から治水事業(※4)を繰り返してきたんです。
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※3 日本の沿岸部やアジア大陸に商品を運ぶ、買積みの北国廻船(かいせん)のこと
※4 河川の氾濫などの災害を防ぎ、水を統制すること
- 水と暮らす編集部
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どのような治水事業を行ったのでしょうか?
- 石倉さん
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例えば、「佐陀川(さだがわ)」と呼ばれる川を掘ることで、宍道湖の水の流れを日本海へと流し、松江の中心部を水害から守ろうとしてきた歴史があります。
また、⼤橋川の川底を掘り、水の流れを良くする工事を行ったんです。その結果、宍道湖は淡水と海水が混ざり合う「汽水湖(きすいこ)」となり、今では全国有数の特産品になっているシジミをはじめとした「宍道湖七珍(しんじこしっちん)※5」が採れるようになりました。
このように古くから、松江の暮らしや文化には、水辺が大きな影響を与え続けてきたのです。
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※5 宍道湖を代表する7つの味覚(スズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミ)のこと
松江で暮らす人々に「水辺の良さ」を再確認してもらいたい
- 水と暮らす編集部
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水との関わりが深い松江市の「見どころ」を教えてください。
- 石倉さん
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たくさんありますが、そのひとつが“日本の夕陽百選”にも選ばれた「宍道湖の夕日」です。夕方になると、風光明媚な「嫁ヶ島(よめがしま)」越しに、夕日を眺めることができます。その幻想的な風景を見ようと、たくさんの人が夕日を眺められるスポットに訪れるんです。
個人的には、空気が澄んでいる秋に見る夕日が格別だと感じますね。出雲大社のある方角に落ちていく夕日が、空や湖面を黄金に染めていく姿は、なんとも神秘的です。宍道湖を周遊する宍道湖観光遊覧船『はくちょう』の夕日コース最終便に乗船すれば、宍道湖の湖上から夕日を眺められるのでオススメです。
- 水と暮らす編集部
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地元のグルメには、どんなものがあるのでしょうか?
- 石倉さん
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宍道湖七珍のひとつである「ヤマトシジミ」が有名です。ヤマトシジミは他の地域のものよりも身が大きく分厚くて、お味噌汁に入れてよく食べられています。観光客の方だけではなく、市民のみなさんも、宍道湖のシジミ汁を好んで食べておられます。
また、松江の地酒も評価が高いことで有名なんです。松江には酒蔵が4つありますが、そのうちのひとつでは、渇水時にも涸れることがなく、良好な水質の井戸水である「石橋の名水」を使った清酒造りをされています。その他の酒蔵さんも特徴的な地酒を造っておられますので、ぜひ酒蔵巡りをしてみてくださいね。
- 水と暮らす編集部
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松江には、魅力的なスポットやグルメがたくさんあるんですね。水にまつわることで、今後注力されていきたいことはありますか?
- 石倉さん
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観光客の方はもちろん、市民の皆さんにも、松江にある「水辺の良さ」を知っていただき、水辺に親しんでもらえるような取り組みを考えています。
松江に住む人々は、小さい頃から水辺に親しんでいるので、宍道湖の夕日などの「水のある風景」を当たり前に感じていることでしょう。しかし、この風景は他では見られない特別なものです。そこで、水辺の良さを再確認してもらえるような取り組みを行っています。
- 水と暮らす編集部
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例えば、どんな取り組みをしているのでしょうか?
- 石倉さん
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2020年7月には、宍道湖畔に「宍道湖サンセットカフェ」をオープンさせました。ここは夕日がきれいに見えるときだけオープンするカフェで、夕日の光を美しく反射する「ステンドグラス風の建物」が特徴です。地元のコーヒー屋さんの協力のもと、おいしいコーヒーを飲みながら、宍道湖の夕日を眺めてくつろぐことができます。
このような場所づくりなどを通して、より多くの方に「水辺」に興味をもっていただき、水辺での暮らしを楽しんでもらえることを目指しているんです。
まとめ
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水によって発展してきたまち・松江。そこに住む人たちだからこそ知る「水との共存の仕方」は、私たちの豊かな未来にもつながるのではないでしょうか。