今治の正岡タオルが生み出す、湧き水が命の「すごいタオル」の魅力とは
多くの一流ホテルが愛用する、今治産の高品質のタオルを生産する正岡タオル。大正10年から続く老舗で、世界屈指のタオルの産地として知られる愛媛県今治市でも、もっとも古いタオルメーカーのひとつです。
同社によると、製造過程で使う水が商品の出来を左右するのだとか。いったい、どのような水を使用していて、製作過程でどのように水を使うのか、良い水を使うことで具体的にどのような違いが出てくるのかなどを、正岡タオルの三代目社長、正岡裕志(まさおか ひろし)さんと株式会社河上工芸所の三宅弘夫(みやけ ひろお)さんに詳しくうかがいました。
トップの画像、正岡タオルには「TRUE TOWEL」の文字が刻まれている。(画像提供:正岡タオル)
正岡タオル
大正10年創業の老舗タオルメーカー。全国の一流ホテルに採用されているタオルを生産するほか、オリジナルタオルも多数。商品は、直営オンラインストア「TRUE TOWEL」で販売するほか、「今治タオルショップ」などでも購入できる。
100年、伝統と革新の中続けてきたタオル作り
- 水と暮らす編集部
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最初に、正岡タオルの創業から今に至るまでの歴史や思いを教えてください。
- 正岡さん
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大正10年(1921)に私の祖父である正岡時一が創業し、戦後復興しました。父の正岡清志が後を継ぎ、ホテルのタオルを作ることに秀でた会社に。そして三代目の私、正岡裕志がその後を継ぎ、ホテルのタオルのみならず、原料である糸の特徴を生かしたタオルを製造しています。
大型設備を駆使し自動生産する、ただの装置産業ではなく、作り手の思いが入る伝統工芸品的なタオルを作ることを見出してきたという自負があります。
- 水と暮らす編集部
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お父さまの代から多くの高級ホテルに良質なタオルを納品されていたのですね。
- 正岡さん
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品質にこだわってホテル仕様のタオルを作らせていただき、五つ星のホテルにお届けしていました。洗濯しても質感が変わりにくい丈夫なタオルを高温滅菌で仕上げています。
- 水と暮らす編集部
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今治タオル再生プロジェクトが2006年にスタートして2021年でちょうど15年。今治タオルの良さもすっかり定着していますよね。
- 正岡さん
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もともと今治では、有名ブランドタオルのOEM生産でタオルを作っていたところが多いのです。皆、タオル産業はそれで食べていたのですが、原価を下げられてからは採算が合わなくなったのですね。大量生産するものは、中国やベトナムの工場にシフトされていきました。
そこで、今治タオルをなんとか起死回生させようと「今治タオル工業組合」の皆さんが、日本を代表するクリエイティブディレクターの佐藤可士和(かしわ)さんにブランディングをお願いしに行ったのですが、すぐにお引き受けはいただけなくて。でもお土産に今治のタオルを置いていったところ「こんなにふわふわして吸水性の良いタオルがあるのか」と感動して、受けてくれたという逸話があります。
ブランドマークやロゴデザイン、コンセプトなどのブランディング・プロデューサーを引き受けていただいたおかげで、今治タオルのクオリティの上限に制約がなくなりました。自分たちが、それぞれで値段を決めて売れるようになり、制限がないのでとことん良いものが作れるようになってきましたね。
タオルは水が命! こだわりの「水が育てるタオル」
- 水と暮らす編集部
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正岡タオルさんが使用している水はどのようなもので、製作過程でどのように水を使うのでしょうか。
- 正岡さん
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まずは、当社のタオルの製造過程をご説明しますね。今治のタオル産業は、分業制です。
糸を買い、「織り」は正岡タオルで行い、その後「洗い・染め」の工程は、株式会社河上工芸所(https://kawakamikogeisho.client.jp/)さんに、外注しています。そしてその後「縫製・仕上げ」を正岡タオルで行なっております。
- 水と暮らす編集部
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いつごろから、またなぜ河上工芸所さんにお願いしているのでしょうか。
- 正岡さん
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河上工芸所さんには20年ほど前からお願いしています。河上工芸所さんでは、雪解け水の天然水を使っているのですが、良い水を大量に使って洗うと仕上がりに違いが出て、繊維は生き物だと確信させられました。特に、半年、1年使い続けると劣化具合に差が出て驚きました。
河上工芸所の三宅社長に聞くと、低温の天然水でゆっくり時間をかけて洗っているそうです。効率が悪いのでその分高価にはなってしまいますが、やはり良いタオルを作るためにも“最高の水”を使いたかった、と。
ということで、水の工程については、河上工芸所さんの三宅弘夫社長にご説明をいただいております。
- 水と暮らす編集部
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石鎚山系の伏流水であり、雪解け水の天然水をお使いとのことですが、地下水でしょうか? 水道水とはどのような違いがありますか? また、いつからその水をお使いなのでしょうか。
- 三宅さん
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名水百選に選ばれた飲料用に適した地下水で、カルシウムやマグネシウムの金属含有量が非常に少ない軟水の天然水です。1988年から使用しています。
- 水と暮らす編集部
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飲むことができるきれいな水を、大事に惜しみなくたっぷりと使用することで、吸水性が高い「水が育てるタオル」が完成するそうですが、具体的に工程や理由を教えていただけますか?
- 三宅さん
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綿糸には、綿蝋(ろう)、油脂、たんぱく質、その他タオルを織るときに必要な糊剤などの不純物が付着しています。これらを取り除くためには、精錬・糊抜きの工程が必要です。一般的にはアルカリ剤とその浸透を助けるための石油由来の界面活性剤が使われます。
アルカリ剤、界面活性剤は綿に付いた油脂や不純物を落とすことができますが、反面、綿糸の表面を傷めて硬くしてしまうので、その結果、柔軟剤を必要とします。またアルカリ剤、界面活性剤を十分に洗い落とさないと肌のためには良くありません。
一方、「水が育てるタオル」には先述の化学薬品を使うことなく、天然酵素と天然せっけんで繊維の内部まで丹念にじっくり洗います。糸に付着している油脂や不純物を除去するため、良質の天然水を大量に必要とします。
そうすると、アルカリ剤や化学薬品で加工する一般的な精錬とは異なり、繊維も傷めず、自然な柔らかさと極上の吸水性を持続させることができるのです。柔軟剤などを使っていないため、肌にも環境にも優しい仕上がりになります。
- 水と暮らす編集部
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良い水を使うことで具体的にタオルの仕上がりにどんな違いが出てくるのでしょうか?
- 三宅さん
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前述したとおり、金属類が非常に少ない水なので、染色むらや金属による汚れが出にくく、生地が固くなりにくいようですね。
- 水と暮らす編集部
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普段の洗濯で柔軟剤が不要なほどの柔らかさが生まれるそうですが、どのようなものでしょうか?
- 三宅さん
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アルカリ剤を使わないことと、酵素で加工することで綿糸を傷めないので、柔らかく仕上がるのです。そうすると、洗濯しても硬くなりにくく、柔軟剤を必要としないタオルに仕上がります。
- 水と暮らす編集部
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なるほど、それはすばらしいですね! 三宅さん、ありがとうございました。正岡タオルさんのタオルは、優れた吸水性があり、繰り返し洗濯しても性能が劣化しにくいとのことですね。
- 正岡さん
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綿100%で不純物をきれいに洗い落としていますから吸水性は抜群にいいです。先代からホテルのタオルを作るノウハウを生かしていますので、高い耐久性が特徴ですね。
柔軟剤を使わず、たっぷりの水で洗って、ふっくら干すのが大事
- 水と暮らす編集部
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正岡タオルさんのタオルは、ユニークな商品名のものが多いですが、ネーミングについて教えてください。
- 正岡さん
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すべて社長の私が素材を厳選・試作をし、約1年自分で使用して、良いものができたら製品化します。
「すごいタオル」…とにかく軽くてボリュームがあって「すごい」ということから名付けました。
「すごいホテル仕様」…当社が国内で製造する、五つ星の高級ホテルのタオルより、もっと高級なタオルです。
「O・H・T(俺が惚れたタオル)」…一年間使って、この柔らかく弾力的な風合いにほれたから。
「すごいタオル・うふ」…「すごいタオル」の女性向けのバージョンです。
- 水と暮らす編集部
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どれもインパクトがありますね! 特におすすめの商品を教えてください。
- 正岡さん
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やはり「すごいタオル」ですかね。リピーターが多いです。ECサイトでは、25〜30歳の女性が「TRUE TOWEL SUGOI」を買っていただくことが多いですね。
- 水と暮らす編集部
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せっかくの良いタオル、使い方や洗い方のコツがあれば教えていただけますか?
- 正岡さん
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柔軟剤を使用しないことです。柔軟剤を使うと吸水性が損なわれ、毛羽ができやすくなります。ただし、タオルが硬くなってきたら使用してもいいですね。
洗濯するときは、水を多めに入れることが大事です。洗濯機内での摩擦が少なくなり、タオルが傷まないですよ。
また、直射日光に当てず、風通しの良いところで干すのもポイントです。脱水後、パイルやループがペタッとしてしまうので、ちゃんと立つように、ぱんぱんと10回、20回でも叩いて干すと仕上がりが違います。節水型やドラム型の乾燥機は摩擦で痛んでしまうこともあるので、なるべく物干しに干せるといいですね。
- 水と暮らす編集部
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梅雨時などは、ちょっと大変かもしれませんね……。
- 正岡さん
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何でもそうですが、良いものを作ったり維持したりするのは、手間がかかることなのですよ。
- 水と暮らす編集部
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ごもっともです……! ありがとうございました!