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水への絶対的な信頼のもと、日本文化と共に成長していく国稀酒造の酒造り

2021.07.02

明治15年に創業し、今年で140年目を迎える国稀(くにまれ)酒造。

その昔、地元の漁師や炭鉱業の人たちが仕事終わりにぐいぐい飲めるように造られたという国稀のお酒は、いくつもの時代を経てきたなかでさまざまな進化を遂げながらも、 “飽きずにいくらでも飲める”というスタイルを崩さずに今日まできたそうです。それが実現できるのは、北海道の暑寒別岳連峰を源とする清らかな水と、広大な大地の養分をふんだんに吸い込んだ米に対する絶対的な信頼があるからこそーー。

国稀酒造が誇る最高のお水とおいしいお酒の関係性について、取締役企画室長の本間 櫻(ほんま さくら)さんに聞きました。

トップ画像は国稀酒造の外観。(写真提供:国稀酒造)

国稀酒造の売店
売店は、観光客はもちろん地元のお客さんも多く、つねににぎわっている。(写真提供:国稀酒造)
水と暮らす編集部

国稀酒造さんで使用している暑寒別岳(1492m)の伏流水は、どのような特徴のある水なのでしょうか?

本間さん

とても軟水です。増毛町の9割弱が山岳地域になりまして、平地というのがほとんどありません。山から里までの距離がすごく短いために、地下を通る水が急流で、短い時間で里まで到達するんです。それにより、外国に多くあるような長い時間地下を通ることで硬質になる水に対して、ここは短時間で到達するがゆえの軟水といわれています。

水と暮らす編集部

お酒を造るうえでは軟水のほうが適しているのでしょうか?

本間さん

そこはそれぞれ求めるものによって違うところではあります。味や口当たりの邪魔をしない軟水のほうが良いという考えもありますが、例えば有名な兵庫県の「灘の宮水」というお酒は硬水です。硬水にはいろんな成分が含まれているんですが、酵母がその物質を原料に発酵を進められるんですね。つまり、硬水の中には酵母の食べるものが含まれている。東北と北海道はその物質が少ないために発酵が遅いといわれています。でも、そのために温度の管理など環境を整えて長い時間をかけてゆっくり造るので、キメの細かい繊細な味のお酒が多いんです。

水と暮らす編集部

国稀酒造さんの初代がその地でお酒を造り始めたときは、たくさん試行錯誤されたんでしょうね。

本間さん

そのころはお米の質もそこまで良くなかったでしょうから、いいお酒を造るにはかなり時間がかかったようです。当時は海運業をしていて酒造りが本業ではありませんでしたので、お米は船で新潟などいろんなところから仕入れていました。今は、お米は全国の産地を選べますけど、水だけはその土地のものなので、酒造りに一番重要なのはやはり水なんです。お酒の瓶に入る液体の8割は水であり、残りの2割がお米と麹だといわれています。まずは美しい水があって、そのおかげでいいお米がとれる。うちの酒造りは水からすべてが始まっているんですよね。

地下水を使った酒造り
雪解け水が地下水脈を通って社屋の地下約15mにたまるため、創業当時からくみ上げて酒造りに使用している。(写真提供:国稀酒造)

時代の流れに左右されない品質の良さ

水と暮らす編集部

代々、切磋琢磨されてきた技術やこだわりの中で、現在まで変わらず受け継がれてきたものというのは何でしょうか?

本間さん

うちのお酒は、もともとは労働者の方たちが飲むお酒として愛されてきました。北海道は本州と違って、お城があって城下町があって、そこに人が集まってお酒を飲むというよりは、漁業や炭鉱業の人たち、旭川を中心に陸軍の方たちが多かったこともあり、労働者向けの酒蔵が多かったんですね。労働者が好む、安価なおいしいお酒というのが最初に造られていたお酒なんです。たくさん飲んでも飽きのこない、飲みやすいお酒。もちろんお酒のおいしさは追求され、改良されていきますが、いつまでも飽きのこない飲みやすさというのは変わらず守り続けてきた点といえます。

水と暮らす編集部

時代の流れによって求められるお酒の味も変化します。そういった中で “飽きのこない飲みやすさ”を維持できるのは、まさに地元のお水あってこその技術なんでしょうね。

本間さん

そうですね。時代によって売れるお酒というのは変わりますし、極端ないい方をすると男性のネクタイが細くなったり太くなったりする流行があるのと同様に、お酒も景気がいいと辛口が売れて、景気が悪いと甘口が売れるんです。うちもバブルのときは一番辛い「北海鬼ころし」というお酒が順調に売れましたが、今は昔からある甘めのお酒が主流という感じに、ここ数年で変わっていきました。昔のほうがお酒に強い人が多かったというのもありますね。世の中の健康志向による影響もあると思います。

水と暮らす編集部

お酒の売れ方によって、時代がどんな状況なのかわかるというのもおもしろいですね。

国稀酒造の地下水
地下水の温度は、その街の平均気温+1~2℃。冬は湯気が出るほど温かく、夏はキュッと冷たい水になるとか。甘みを強く感じる口当たりで大好評。(写真提供:国稀酒造)

お酒のおいしさの秘訣を味わえる水飲み場も大人気

水と暮らす編集部

国稀酒造さんでは、お酒造りに使用しているお水が飲める場所を設置してお客さんに写真提供しているそうですね。これは何がきっかけで作られたんですか?

本間さん

平成16年に、外に水飲み場を設置しました。そのころ、ペットボトルのお水がたくさん売り出されていて、館内の水飲み場でお水をくむ方が増えたんです。それでたくさんの人が利用できるようにと外にも水飲み場を作ったのですが、今でも飲む人よりくんでお持ち帰りになる方が多いくらい、愛用していただいています(笑)。
外の水飲み場は、冬場は地下からくみ上げる管が凍ってしまうので、12月くらいから4月頭までは閉鎖してしまうんです。その間は、館内の水飲み場をご利用いただいています。

水と暮らす編集部

そのお水を使ったお酒は、どのような味になるんでしょうか。

本間さん

お水はもちろんですが、お米もほぼ増毛産のお米を使います。お米も「小さな水がめ」といわれるほど一粒にお水をたくさん含んでおり、作るのにお水が重要な産物です。増毛のお水とそのお米を使うことで、すごく淡麗で軽い仕上がりになるんですね。淡麗で軽く、辛口であることがうちの目標になります。まさにこの辺りでとれる食材、風土に合うお酒ができるという意味で、海産品などにベストマッチするんです。この辺りは甘えびやタコが多く捕れるんですけど、やっぱりお刺身だとお酒が進みますね。羊かんをつまみに飲まれる方もいらっしゃいます(笑)。

水と暮らす編集部

淡麗だからお刺身にも合うし、甘すぎないから羊かんにも合ってしまうんですね(笑)。では最後に、国稀酒造さんがブランドとして守っていきたいものは何でしょうか?

本間さん

日本酒は、さまざまな文化と一緒に成長してきました。酒米の発展は農業に関わりますし、お祝いに使うという点も含めていろんな文化とともに成長してきています。これからも日本の伝統的なものを含めて、一緒に生き延びていければいいなと思っています。日本の国酒らしく、長く未来に続けていきたいなと思います。

純米 吟風国稀と純米吟醸 国稀
純米酒のコクがありながら、爽やかな後味で料理を引き立てる「純米 吟風国稀」(左)、北海道の地酒にふさわしい清々しい味わい「純米吟醸 国稀」(右)。(写真提供:国稀酒造)