• トップ
  • >
  • 水を守る
  • >
  • 東北最大の河川“北上川”流域のヒトと環境を守り、育む。ダムのお仕事

東北最大の河川“北上川”流域のヒトと環境を守り、育む。ダムのお仕事

2021.07.13

ダムの愛好家を指す「ダムマニア」という言葉が広がり、徐々に注目されるようになってきた“ダム”ですが、今も水源豊かな山奥にひっそりと存在しています。
都会人たちは、遠くにあるダムのことなど考えもせず生活してしまいがちですが、洪水の心配なく暮らしたり、おいしい水を飲んだり、電気を使って仕事をしたりできるのはダムのおかげなのです。

ということで今回は、人知れず人を守る、なんとも尊い「ダム」という存在をフィーチャー。北上川ダム統合管理事務所、副所長の片野正章(かたの まさあき)さんにお話をうかがいました。

トップの画像は北上川ダムの放流。(画像提供:国土交通省)

水と暮らす編集部

北上川ダム統合管理事務所では、5つのダムを管理されているんですよね?

片野さん

はい。四十四田(しじゅうしだ)ダム、御所(ごしょ)ダム、田瀬(たせ)ダム、湯田(ゆだ)ダム、胆沢(いさわ)ダムの5つです。

水と暮らす編集部

5つのダムはどのような目的で作られたんですか?

片野さん

北上川5大ダムは、実は特別な成り立ちがあるんです。岩手県は明治維新以降、周辺エリアよりも近代化に遅れをとった時代がありました。そこで、東北一の流域面積を誇り、盛岡をはじめとした主要な都市を結ぶ北上川を生かした「北上特定地域総合開発計画」が全国に先立ち、立ち上がったのです。

当時、しばしば洪水を起こしていた北上川の治水をしながら、農地灌漑(かんがい)や電力を確保して経済を活性化するため、産学官一丸となって実現に向けた運動に取り組んだ大規模プロジェクトで昭和28年(1953年)に全国に先駆け、最初に策定されました。ルーズベルト大統領が実施した、テネシー川流域開発公社、通称TVAにちなんで、KVAと名づけられたんですよ。

水と暮らす編集部

そんな背景があったんですね!

片野さん

策定以前にも建設は計画されていたものの、第二次世界大戦で建設がストップしたり、戦後も世相に応じて計画が変更になったり。しかし、石淵ダム(現在は胆沢ダムに沈んでいる)を皮切りに、田瀬ダム、湯田ダム、四十四田ダム、御所ダムが順次竣工されました。一番新しい胆沢ダムは、石淵ダムの再開発として平成26年に完成しています。ちなみに田瀬ダムは、国の事業として着手された初めての多目的ダムなんですよ(完成は石淵ダム)。

北上川、雫石川、中津川の合流地点
北上川、雫石川、中津川の合流地点。(画像提供:国土交通省)

地質や地形、造られた年代によって材料も違う。5つのダムの特徴

水と暮らす編集部

5つのダムの特徴を教えてください。

片野さん

四十四田ダムは、北上川の本川(河口からもっとも遠い谷から河口へつながる川のこと)にあり、盛岡を直接的に守っており東北No.1の流域面積を誇るダムです。ダムを造るには地盤が弱いうえ、東洋一の硫黄産出量を誇った松尾鉱山の鉱毒水が流れ出る北上川本川のダムでもあり、強酸性の水質に耐える必要もありました。そのような悪条件のなかで多くの特殊工法を用いて造られています。

四十四田ダム
四十四田ダム。(画像提供:国土交通省)
水と暮らす編集部

とてもタフなダムなんですね。御所ダムはどんなダムですか?

片野さん

御所ダムは最後にできたダムです(その後、石淵ダムが胆沢ダムヘ再開発)。天候の変化が激しい奥羽山脈から流れ出る雫石川にあります。雫石川はかつて暴れ川として有名でしたが、今も短時間で雨水がドッと入ってくるので管理が難しいダムでもあります。岩手県が湖畔を御所湖広域公園として積極的に整備を行っていて、ダムの周辺には公園や遊園地、温泉や伝統工芸を体験できる施設などもあり、観光や研修旅行先として人気があるんですよ。入り込み客数は全国でも1、2を争う人気のダムです。

御所ダム
御所ダム。(画像提供:国土交通省)
水と暮らす編集部

観光地として人気のダムなんですね。田瀬ダムはいかがでしょう?

片野さん

先ほどお話ししたように、国の事業として初めて着手された多目的ダムです。当時、石灰石の採掘がされていた大船渡に速やかに電力を供給する必要が生じ、着手されました。北上山地系のエリアにあるので、気候も安定していて穏やか。周辺にはキャンプ場や釣り堀があり、紅葉の時期などはカヌーを楽しむ人たちが多く訪れます。ボートの全日本チームの合宿も行われているんですよ。

田瀬ダム
田瀬ダム。(画像提供:国土交通省)
水と暮らす編集部

湯田ダムはどうですか?

片野さん

湯田ダムは、和賀川という北上川で一番大きな支川にあるアーチ重力式コンクリートダムです。より多くの水量を確保するため当初の計画より下流に施工されることになり、その分ダムによって水没する規模が当時最大のものになりました。約600戸もの家族が移住し、鉄道、道路も移線されたんです。

水と暮らす編集部

ダム建設には、そのような犠牲もあることを忘れてはいけませんね。

片野さん

そうなんです。私たちがダムツーリズムを行う大きな理由に、水没してしまった地域の伝統を伝えていくこと、また下流部の安全を守るために負担を強いられている地域の活性化に少しでも貢献したいという想いがあるんです。

水と暮らす編集部

湯田ダムは、他にどのような特徴があるんですか?

片野さん

湯田ダムは地元の西和賀町とともに、観光振興に大変熱心なダムでもあります。もともと降水量も多く放流設備も派手で、ダムファンが集まる場所だったのですが、テレビなどに取り上げられたこともあり、話題になりました。2019年にはジャパン・ツーリズム・アワードを受賞したり、2020年には上流の貯砂ダムのライトアップが「日本夜景遺産」に認定されたりしています。

湯田ダム
湯田ダム。(画像提供:国土交通省)
水と暮らす編集部

それはぜひ行ってみたいですね!

片野さん

最後は胆沢ダムですね。戦後の食糧難のとき、胆沢平野に農業用水を送るために造られた石淵ダムが前身です。その後、農地面積の拡大による慢性的な水不足や北上川および胆沢川の頻発する水害により、石淵ダムの貯水容量では小さく、治水・利水の安全度向上等、対応が限界となったことから、その約1.8km下流に胆沢ダムが造られました。
国内最大級のロックフィルダムで、冬季はダムより上流への道路は閉鎖されてしまうのですが、春になると奥州市の水沢という近くの町まで桜のトンネルが続き、観光客が集まります。ダム下流の河川が競技カヌーのコースとしてちょうどいいようで、胆沢ダムで水量の調節もできますし、カヌーの大会が開かれたりしています。

胆沢ダム
胆沢ダム。(画像提供:国土交通省)

豊かな水環境を生かした多種多様なダムツーリズムとSDGsへの取り組み

水と暮らす編集部

利水の状況はいかがでしょうか?

片野さん

すべてのダムで行われているのは放流に伴う発電です。また、かつて鉱毒の影響が考えられていた四十四田ダム以外の4つのダムでは灌漑用水としての利用があります。胆沢ダムは奥州市、金ケ崎町の飲み水として、上水利用もあります。また、昨年より北上工業団地の工業用水を御所ダムから供給するようになりました。

水と暮らす編集部

北上川5大ダムでは、ダムツーリズムを積極的に行っているそうですが、どのようなイベントを開催しているんですか?

片野さん

それぞれのダムでさまざまなイベントを開催しています。もっともポピュラーなイベントとしては「盛岡・北上川ゴムボート川下り大会」でしょうか。四十四田ダム付近からスタートし、南大橋のゴールまで約11kmを2人一組のゴムボートで下る大会なんですが、完走艇数と完走者数で2009年、2015年とギネス記録を打ち立てたほど人気なんです。

多くの人でにぎわう四十四田ダムのゴムボート川下り大会
多くの人でにぎわう四十四田ダムのゴムボート川下り大会。(画像提供:国土交通省)
水と暮らす編集部

ギネス記録! それはすごいですね。

片野さん

他にも、湯田ダムの錦秋湖スプリング放流や、錦秋湖大滝サマーLIGHTフェスティバル、胆沢ダムフェスなど人気のイベントはたくさんありますのでホームページを見てみてくださいね。年間通して、地元の自治体と協力していろんなイベントが開催されていますが、4月は放流イベントが多く、7月下旬は「森と湖に親しむ旬間」に合わせて特に多くのイベントが開かれています。昨年は新型コロナウイルスの感染対策として、各種イベントが中止され、今年も開催されるかはわかりませんが、感染拡大が落ち着いたらぜひ、北上川5大ダムに足を運んでみてください。各ダムのダムカレーを食したり、人気のあるダムカード集め(国土交通省が管理するダムで配布しているダムの写真入りカード)もオススメです。

ライトアップされる貯砂ダム
ライトアップされる貯砂ダム。(画像提供:国土交通省)
水と暮らす編集部

ダム見学はどのようなことをやっていますか?

片野さん

一般開放されている堤体外部をご覧いただくことは、いつでもどなたでも可能です。ただ、ダム内部を歩くイベントは、新型コロナウイルスの感染対策のため現在(2021年7月)は中止しています。おもに団体客を中心とした職員等による案内をともなう見学については、密を回避できる対策、しっかりとした感染予防対策ができる場合のみお受けすることもあります。各ダムに併設される「ダムものしり館」は平日の 9:00~16:30(胆沢ダムは17:00)限定で開館しているので、その時間でしたら自由に入ることができます。

水と暮らす編集部

ダムを管理する立場として、伝えたいことがあれば教えてください。

片野さん

ダムの維持・管理という仕事は、一般的にあまり知られることのない世界かと思いますが、業務で環境保全につながる活動を多く行っています。また、生態系を脅かす外来生物や外来植物の駆除活動なども行っており、国連サミットで採択された、持続可能な17の目標を掲げるSDGs(エスディージーズ)にも通じています
今後もダムにまつわる仕事の透明性を高めるためにも、私たちが日ごろどんな活動をしているのか情報発信を引き続き実施していきたいなと考えています。

《団体のスペックオンラインショップ等の告知》

国土交通省 東北地方整備局 北上川ダム統合管理事務所