水を味わう

大垣の水が磨く至極の生菓子。金蝶園総本家「水まんじゅう」

2021.06.24

日本には、暑い夏を快適に過ごす工夫が昔からあります。風鈴、うちわ、打ち水などなど。冷やして食べる生菓子もそのひとつ。

そこで、冷たい生菓子の代表格「水まんじゅう」について、老舗の金蝶園総本家社長・北野英樹(きたの ひでき)さんにお話をうかがいました。

水まんじゅうと金蝶園の地元・大垣の水との深い関係について、興味深いお話が盛りだくさんです。

トップの画像は水まんじゅう。(写真提供:金蝶園)

水と暮らす編集部

大垣の水にはどういった特徴があるのでしょうか?

北野さん

大垣のある岐阜県は「木曽三川」といって、木曽川、長良川、揖斐川(いびがわ)の3つの大きな川が流れています。地下には伏流水が、飛騨や木曽から流れてきます。ちょうど大垣の辺りで地下水がたまる地形になっていて、昔から井戸を掘ればすぐにきれいな水が出てくる土地です。

20mも掘れば十分きれいな水が出てきますので、大垣では多くの家庭で井戸を掘って地下水を使っています。うちの井戸は150mなのですが、それぐらい掘ると「自噴水」といってポンプでくみ上げなくても水が湧いてきます。

また、地下水の良いところは、水温が安定しているところです。だいたい年間を通して14~15℃ぐらい。冷たくてきれいな水が安定して出るところが大垣の特徴です。

軟水・硬水でいうと、大まかな分類としては軟水にあたります。ただ、若干カルシウムも含まれていますので少し硬水寄りです。個人的な感想ですが、市販の硬水のミネラルウォーターよりは飲みやすい水だと思います。

水と暮らす編集部

大垣が「水の都」と呼ばれている理由は何でしょうか?

北野さん

理由は2つあります。1つは木曽三川があって、地下の伏流水が豊富だから。もう1つは、大垣城のお堀があって、それを取り巻くように碁盤の目のような水路があるから。今は道路の下に隠れていますけど、車がない時代には水路を使って船で荷物を運んでいました。

あんこには大垣の冷たい地下水が欠かせない

水まんじゅう
水まんじゅうは見た目も涼しい。(写真提供:金蝶園総本家)
水と暮らす編集部

大垣の水はお菓子作りに向いているのでしょうか?

北野さん

和菓子といえばあんこですが、硬い小豆をあんこにするためには大量のお水を使って炊く必要があります。

あんこを炊く工程のなかに「渋切り(しぶきり)」というものがあります。「渋」とは「アク」のことで、小豆の成分からタンニンやサポニン等を取りのぞくアク抜きの工程を渋切りと呼びます。

あんこを炊いている途中に渋が溶け出し、それを流してまた新しい水を加えて炊く。これを、あんこが柔らかくなるまで繰り返します。

こしあんの場合は、小豆の皮と中身を分離させます。「さらし」という工程なのですが、中身の粒子に水を加えて混ぜて沈殿させます。小豆のでんぷん質は水に溶けないので、沈殿するんです。水に含まれた余分な成分は流して、また水を入れて攪拌(かくはん)・沈殿させるということを繰り返します。

うちは昔から大垣の水を生かした「あっさりしたあんこ」を目指しています。通常のお菓子屋さんは渋切りを1~2回行うところ、うちは3~4回行っています。さらしもかなり大量の水を使って念入りにやっています。

あんこの風味を落とさないために大事なのは、炊いた温かいあんこを冷たい水を使って短時間で冷ますことです。そうすると、風味が保たれます。炊きたての温かいあんこをそのままにしておくと、そこから腐敗が始まります。

炊きたての状態からできるだけ早く冷ましてあげる。粒子も極力冷たい水でさらしてあげることが大切です。だからこそ、夏でも冷たい大垣の地下水は和菓子作りにぴったりなんです。

お菓子屋さんによっては水を冷やす機械を導入していますが、うちの場合は天然で冷たい水がありますので、大垣の水はとてもありがたいといえます。

名物水まんじゅう目当てに遠方からも

店頭でできたての水まんじゅうを食べるのが一番
店頭でできたての水まんじゅうを食べるのが一番。(写真提供:金蝶園総本家)
北野さん

大垣の名物といえば、水まんじゅうがあります。皮の部分が透明になっているまんじゅうなんですが、そこはくず粉とわらび粉でできています。明治時代、冷蔵庫も冷凍庫もない時代に、夏でも冷たいお菓子が食べられるよう生み出されました。

金蝶園のお菓子の中でも水まんじゅうがもっとも有名です。販売期間は半年足らずなのですが、弊社の昔からある看板商品「金蝶園饅頭(まんじゅう)」と並ぶぐらい、多くの方々に買っていただいています。

水まんじゅうは賞味期限が短く、できたてが一番おいしいので、お店の中で食べていただくイートインがおすすめです。夏場になると、遠方からお見えになるお客さまが増えます。本店は昔ながらの木造の店構えで、店舗の外の水槽に水を入れて水まんじゅうを販売しているんですが、それを目当てに遠方からお客さまがおいでになります。

和菓子作りで地元への恩返し

水と暮らす編集部

金蝶園さんは実に創業223年と聞きます。老舗の和菓子屋さんとして、地域とのつながりを意識されていますか?

北野さん

私が入社して20数年たつのですが、入社当時はホームページ・ECサイトを作って、インターネット販売をできるようにしました。それを10年ぐらい続けましたが、あるとき水まんじゅうにしても金蝶園饅頭にしても、できたてが一番おいしいという基本に立ち返ったんです。

通販やインターネット販売となると、食べるのが最短で翌日になってしまいます。1日たったものを食べてもらうよりは、実際に大垣に来ていただいて、大垣の水で冷やしたできたての水まんじゅうを食べていただきたい。そう思い、インターネット販売を中止しました。

その結果、EC販売分の売上は落ちましたが、お店に足を運んでくださるお客さまは増えました。イートインにも力を入れるようになってから、夏のピーク時には店内で水まんじゅうを召し上がる方が1日300人以上になっています。

水まんじゅう目当てで遠方からお客さまが大垣に来られて、地元の活性化につながれば大変うれしいです。

また、大垣では小中学校が「ふるさと大垣科」という地域のことを学ぶ授業をやっています。月に1回第一土曜日に開催しているのですが、そこで水まんじゅうや大垣の水についてお話ししています。また、授業の一環として水まんじゅう作り体験教室も行っています。

学校以外のさまざまな団体にも呼ばれて、年間数十回水まんじゅう作り体験教室を開いています。

和菓子は地域によってそれぞれの名物があります。大垣は水まんじゅうが名物です。ぜひ大垣に来ていただいて、大垣の水でできた水まんじゅうをその場で食べていただきたいと思います。

まとめ

ひんやり冷たくのどごしもすっきりしている水まんじゅうは、見た目も涼しげな生菓子。夏の風物詩にもなっているこのお菓子は、水の都・大垣の水が生んだといっても過言ではないんですね。

和菓子は今や文化そのもの。文化の源には、水の存在が大きいということを実感しました。

水まんじゅう

水まんじゅう商品画像

あっさりとした餡の甘さとつるりとした食感が特長。店頭の水槽の中で、おちょこに入った水まんじゅうが冷やされている姿は、水の都大垣の夏の風物詩となっています。

金蝶園総本家
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