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里山里海が育む能登の水。酒造りで地域と未来を構築する数馬酒造の理念とは

2021.07.02

能登半島の山間から湧き出る、硬度1.7mg/Lと全国トップレベルで軟らかな水を仕込み水に使用し、口あたりの優しいお酒を造り続けている数馬(かずま)酒造
世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」の景観を維持するため、耕作放棄地を開墾して水田に変え、米の栽培から、その酒米を使用した日本酒の製造までの大プロジェクトを成功させています。

おいしいお酒を造ることから始まった、常に未来を見据えた企業活動について、数馬酒造の営業部管理課・広報課責任者である数馬しほりさんに聞きました。

トップの画像、数馬酒造があるのは港町。人の手が入りながら自然の営みを維持した里山里海を誇る能登は、世界農業遺産にも認定されている。(写真提供:数馬酒造株式会社)

数馬酒造
もともとは味噌と醤油を製造していたが、仕込み水の良さから酒造業を開始したという数馬酒造。水とともに歴史を刻んできた企業といえる。(写真提供:数馬酒造株式会社)
水と暮らす編集部

数馬酒造さんでは山間からの湧き水をタンクローリーでくみ上げて使用しているそうですね。そのお水はどのような特徴がありますか?

数馬さん

毎日ではないですが、蔵人が定期的にタンクローリーでくみ上げに行っています。そのお水は、能登は海に囲まれていて高い山がない分、ミネラルを含みすぎない超軟水です。それにより、お米の純粋な味わいを引き出すことに適しているそうです。水の味自体に丸みがあるのでお酒になったときになめらかでスッキリした味わいになります。

水と暮らす編集部

数馬酒造さんがお酒造りに着手したきっかけは何だったんですか?

数馬さん

もともと、うちは醤油と味噌を作っていたんです。でもその仕込み水がとても良くて、これはお酒にもいいだろうということで、お酒も造り始めたのが明治2年です。なぜミネラル分が少ないとお酒の甘みを引き出すのかというと、米や麹の力を生かしやすいからなんですね。素材のもっている味や香りが前に出てくるんです。そのためには、お水自体の味はなるべくないほうがいいといわれています。

水と暮らす編集部

普通に飲むだけでも柔らかな水なんでしょうね。

数馬さん

とてもきれいな、ピュアな味わいです。一度、硬水のミネラルウォーターなどと飲み比べたことがあるんですが、硬めの水は舌の上をころころと転がる感触があるといいますよね。でも、ここのお水はスーッと舌になじんでいくような感触。いつ飲んでもお水ならではのおいしさを感じるんです。

数馬酒造の醸造環境
酒造りを季節雇用の杜氏制から通年雇用の社員制に切り替え、チームワークやコミュニケーションを大切にした柔軟性のある醸造環境を整備。若手が活躍できるクリエイティブな酒造りと、継続性の高い醸造環境の構築を目指している。(写真提供:数馬酒造株式会社)

耕作放棄地を開拓して100%能登産を目指す。柔軟性と挑戦を尊重した酒造り体制へ

水と暮らす編集部

数馬酒造さんでは現地の稲田を再生し、酒造用のお米も作ってらっしゃるそうですね。

数馬さん

10年前に今の社長に代替わりした時、一部の能登産米をのぞき、ほとんどの酒米を県外から仕入れていました。しかしながら、能登の地酒として、能登産の米の比率を高めていきたいという思いがありました。
そうしたなかで、偶然にも社長の同級生が地元に戻り、農家として起業をすることになりました(志賀町「株式会社ゆめうらら」さま)。2人は能登の未来について話し合うなかで、過疎による耕作放棄地の問題に直面します。そこで、その耕作放棄地を預かり再生し、酒米を作るプロジェクトを平成26年より開始しました。
今では東京ドーム5個分の耕作放棄地を水田に戻しました。そうした取り組みが広がり、ゆめうららさん以外にも、能登の7つの契約農家さんらが酒造りのためのお米を作ってくださり、ついに昨年、能登産米100%での酒造りが実現しました。

水と暮らす編集部

そして平成26年には、杜氏制の酒造りから社員制の酒造りへと切り替えられています。酒造としてはかなり大きな改革だったのではないでしょうか。

数馬さん

キーワードとしてはSDGs(エスディージーズ)の『持続可能なモノづくり』というのがあります。
今までの蔵人さんは11月~3月の酒造りの期間、季節労働で泊まり込みをしてお酒を造るというスタイルが一般的でした。その間には、深夜や早朝の作業も続きます。しかし、今は若者を雇用するにも子育て世代でしたり、少子高齢化による人手不足などもあり、なかなか難しい状況なんですね。そういった部分でも持続可能性があるようにするには、労働環境の体制を整えることが肝要だと考えました。それまでお世話になっていた杜氏さんが離れるタイミングでもあったので、ひとつの岐路にはなりました。
また、醸造社員が通年雇用の社員であることの強みとして、全社員が一丸となった酒造りを通してお客さまへの価値写真提供へと想いを尽くせることを感じます。お客さまの声をともに感じ、話し合いを重ねて、志を同じくしながら酒造りができる。それはこの体制になって強化された部分です。

水と暮らす編集部

杜氏さんなど職人から受け継ぐべきものもあれど、その技術をシステム化して永続させていくことが可能な時代になったということでしょうか。

数馬さん

そうですね。手作業で行っていたことを機械化することで酒造りの品質が上がる部分もあります。より雑味を抑えたりすることも可能になりますし、温度管理もAIが通知してくれるので、より細かな対応ができます。そうして効率化できる部分を機械化することで、柔軟性と挑戦への環境を得ることができました。捻出した時間は研究開発や技術向上に注いでもらっています。おかげさまでこの期間に新商品が続々と生まれ、世界的な鑑評会においても大変名誉な賞をいただくことができ、手応えを感じています。

「能登を醸す」という言葉を経営理念に、世界農業遺産に認定された能登の魅力を伝える

水と暮らす編集部

技術のシステム化やSDGsの導入など、まさに未来へ向かった活動をされている数馬酒造さんですが、そういったなかで数馬酒造の伝統として引き継いでいくべきものは何だと考えられていますか?

数馬さん

そこがやはり理念となる部分だと思うのですが、弊社では「能登を醸す」という言葉を経営理念にしています。能登を想う気持ちというのが中心のスピリットであり、先代からずっと続いているものなんです。お酒を造るというよりは、酒造りを通して地域を良くしていく。その関係性作りや、そこでできたものの未来を考えていきたいなと思っています。

水と暮らす編集部

数馬さんご自身が思う、能登の魅力とは?

数馬さん

私個人としては、能登はとてもおもしろい地域だなと思います。縄文時代から人が住んでいて、その歴史は古いんですが、地層的にはほんの1mくらいなんですよね。そんなに深く掘らなくても遺跡が出てくるような土地で、それだけ原風景が残っている土地ということだと思うんです。そういう脈々とつながっていく土地や自然の営み、そして発酵食など昔からの知恵が続いた食への考え方。それらがずっと続く、とても魅力ある土地だなと思っています。
能登は世界農業遺産に認定されていますが、それはなぜかというと里山・里海が多いからなんです。里山・里海は人の手が入って、自然の営みがあって保たれている美しさや生態系が営まれているものです。自然と人が上手に共存する土地、それが能登なんですよね。

水と暮らす編集部

そういった土地で日本の伝統を守る日本酒を造るというのは、とてもすてきなお仕事ですね。

数馬さん

はい、とてもありがたいことだと思っています。良いお水に恵まれたことに感謝して、これからもお酒を造ることで地域を活性化していきたいと思います。

数馬酒造の代表銘柄 竹葉
「食事の時を楽しくする」をキーワードに、飲み手が口に運ぶ瞬間の楽しさを追究するブランドとして名高い数馬酒造の代表銘柄『竹葉』。水の良さを感じる、丸みがありスッキリした味わいは、食を呼ぶお酒として全国のファンに愛されている。(写真提供:数馬酒造株式会社)