山口県柳井市の「あさひ製菓」で大人気の「琴名水」とは?

2021.06.03

山口県柳井市で創業104年を迎える、老舗の和洋菓子製造販売チェーン店のあさひ製菓。本社工場では、琴名水(きんめいすい)と名付けた名水を使用し、お菓子作りをしています。この名水は蛇口を開放して無料で提供し、地元や訪れる人々に喜ばれているとか。

今回は代表取締役社長の坪野恒幸(つぼの つねゆき)さんに、琴名水の魅力や、琴名水が引き出すお菓子のおいしさや魅力などをうかがいました。

水と暮らす編集部

あさひ製菓さまの琴名水との出会いを教えてください。

 
坪野さん

私どもは、山口県の柳井市で大正6年からお菓子作りをしていますが、お菓子作りは大量の水を必要とします。そのため「地下水が使えるとよい」ということであちこち場所を探していまして。もともとの工場があったところは、地下水があまり出ず、使える水道の水の質も当時はあまり良くなかったのです。

調査を続ける中で、柳井中馬皿(やないなかばさら)の地下に豊富な水があることが確認されました。裏に小さな山があるのですが、ちょっと入ると、靴がべちゃべちゃになるほど水が豊富に湧き出ているような場所です。ボーリングしたところ十分な量があることがわかり、1990年に新工場を建設することになりました。

水と暮らす編集部

工場を作られたときは、名水だとまではわかっていなかったのですよね?

坪野さん

当初は地下水の量を重視して工場を建てたということですね。柳井市の郊外にあり、もともと水道も来ていなかった場所です。今も、井戸を使ったり簡易水道を使ったりしている方がほとんどなほどです。私どもも水道水はないので、トイレに至るまで地下水、つまり名水を使っているわけですが(笑)。

水と暮らす編集部

トイレまで! なんてぜいたくなのでしょうか(笑)。どうして良い水だとわかったのでしょうか。

坪野さん

新工場を稼働させてからしばらくして、工場で働いている従業員たちが、水をボトルなどに詰めて家に持ち帰っているという報告を受けたのですね。水は豊富に出るわけですからそれはかまわなかったのですが。柳井市のあちこちから通ってきている人が多く、家で使っている水道水に比べて「水がおいしい」と話題になっているのを知りました。

そこで当時の社長(現会長)が水質調査を依頼し、良い水であることがわかったのです。

水と暮らす編集部

どんな味がするのでしょうか?

坪野さん

軟水ですし、くせがなくて飲みやすいと思いますよ。静岡のお茶屋さんをお呼びしてお茶のいれ方を指導してもらったことがあるのですが、そこの方にも「水がいいですね」と言っていただきました。素材の味を引き出してくれるのでしょうね。

水と暮らす編集部

琴名水という名も、先代の社長が付けられたのですか?

坪野さん

そうですね。私の父ですが、柳井の山、琴石山(こといしやま)の伏流水ではないかとのことで、この「琴」をもらい、琴名水(きんめいすい)と名付けたそうです。

無料で名水を解放! 他県からも水をくみに訪れる人気スポットに

水と暮らす編集部

この琴名水、なんと無料で開放されているそうですが。

坪野さん

これも先代の社長が始めたのですが、名水とわかってから敷地内に蛇口をたくさん付けまして。当地にはこの水目的でいらっしゃる人が多いですね(笑)。お菓子を買いに来る人より多いと思いますが、まあ10回に1回はお菓子を買っていただければ。社会貢献のひとつ、ということで地域のみなさまに喜んでいただければ何よりです。私どもも、この水のおかげで、ここで商売ができていますし。

あさひ製菓工場の水くみ場
あさひ製菓工場の水くみ場。給水時間は9:00〜19:00。※減水の場合や停電時、お祭り期間中は一時ストップすることもあるそう。水の成分は、PH:6.7 、硬度(ppm)27、有機物(ppm)1.3、蒸発残渣(ppm)110、鉄分(ppm)0.02、塩素イオン(ppm)5.1。(写真提供:あさひ製菓)
水と暮らす編集部

週末には500人近くの人々がペットボトルやポリタンクを持って果子乃季本社・工場を訪れるとのことで、驚きました。みなさん何に使っているのですか?

坪野さん

コーヒーやお茶を入れたり、水割りの水に使ったりされているようですね。ご飯を炊いてもおいしくて、次の日までご飯がくさくならないなんておっしゃる方もいます。看護士さんもくみにきているようですし、近くの飲食店ではミネラルウォーターとして琴名水を出しているなんて話も聞きましたよ。

水と暮らす編集部

それは驚きです! そんなに無料でたくさん分けていてもなくならないほど豊富なのでしょうか。

坪野さん

私たちだけでも1日80トンの水を使っていますからね。ただし、雨が少ない時期になると節水することもあります。

毎年6月は工場裏手にある約6千坪の「あじさい園」で「あじさい祭」を開催しているのですが、あじさいという花も水が好きで、大量の水を必要としますからね。あじさいを優先するかお菓子作りを優先するかなんて話になることもあるほどです(笑)。

約150種2万株のあじさいが満開
約150種2万株のあじさいが満開になり「あじさい祭」が行われる。毎年3日間で約4万2千人が訪れてお菓子やイベントを楽しむそう。(写真提供:あさひ製菓)

琴名水はお菓子作りにどう影響する?

水と暮らす編集部

琴名水を使う前と後で商品の品質に変化はありましたか?

坪野さん

一番違うのはあんこの味でしょうかね。小豆を水で洗って水を入れて炊くので、水の良し悪しが大きく影響するのかな、と思います。水道水を使用していた時よりも琴名水を使ったほうが小豆本来の味わいを引き出せるようになったのではないでしょうか。最近は、一口サイズの「小さなどら焼き こまこま」という新商品も出しましたが、どら焼きの皮作りにも水を使いますし、あんこをおいしく食べていただけるのではないかと思います。

小さなどら焼き こまこま
「小さなどら焼き こまこま」(つぶあん・白粒あん)を2020年3月から発売。各1個92円。(写真提供:あさひ製菓)
水と暮らす編集部

果子乃季のお菓子は、あんだけではなくすべてのお菓子に琴名水を使っているのですよね。

坪野さん

工場で使っている水がすべて琴名水ですからね。「山口の銘菓 月でひろった卵」を蒸すのにも使っていますが、やはり蒸気もいい水の方が、おいしくなるのでしょうね。

あとは、夏によく食べていただく、ゼリーや水羊羹(ようかん)も原材料の大半が水ですね。地下水から作っていることで味のよさを感じていただきやすくなっているのかなとは思いますよ。

山口の銘菓 月でひろった卵
「山口の銘菓 月でひろった卵」1986年の発売開始から30年以上経過しているロングセラー商品。販売個数は1億個以上。ふわふわの蒸しカステラの中にクリームと栗が入ったお菓子で、航空会社の機内食に採用されたことも。全国菓子大博覧会では1994年に内閣総理大臣賞を、2017年に厚生労働大臣賞を受賞。(写真提供:あさひ製菓)
水と暮らす編集部

これはどれも食べてみたくなりますね。ありがとうございました!

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