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答えのない課題を解決する力を育む。河川財団の教育事業が特別な理由

2021.07.05

河川を取り巻くさまざまな課題を解決すべく、調査・研究を行う公益財団法人 河川財団。安全な河川の整備や維持、防災、減災などに取り組みながら、子どもたちの水の理解を深める教育事業「プロジェクトWET」を行っています。

従来型の水教育とどのような点が違うのかなど、取り組みについて詳しくおうかがいしました。

トップの画像は、「プロジェクトWET」の活動の一部。(写真提供:河川財団)

水と暮らす編集部

河川財団とはどのような団体なのか教えてください。

菅原さん

1975年に河川環境管理財団として設立され、2013年河川財団に名称変更をした歴史ある財団です。当財団では、大きく分けて5つの事業を行っています。

河川の維持・管理等の調査研究、川や水に関わる研究者・団体・学校等への助成・支援、防災や河川・自然の大切さを学ぶ河川・水教育、ゴルフ場の運営などを行う河川健康公園などです。幅広い活動を通して、河川を取り巻くさまざまな課題解決を目指しています。

水と暮らす編集部

河川・水教育ではどのような活動をされていますか?

菅原さん

大まかにいうと、川の良いところと悪いところ両面を教えていく活動をしています。

川は、自然のフィールドの中でも人間生活に密着しています。古来、文明が始まった頃から川の近くに人間が住み、川の水を生活に使う、産業に使うなど、密接に関わっています。

平野部も川の力によってできたこともあり、他のフィールドと異なる特有の良さ、災いがあります。川の恵みや楽しさを学ぶことと同時に、水害などの災いの部分も学習することは、社会を生きていくうえで必要な知識だと思っていますので、広く河川学習を展開していくのがミッションだと思っています。

体験学習の様子
体験学習の様子。(写真提供:河川財団)
水と暮らす編集部

具体的にはどのように川の良いところと悪いところを伝えているのでしょうか?

菅原さん

水難事故が起きた場所のMAPを作成し、なぜ事故が起こりやすいのかを考える学習活動であったり、水害についての避難訓練が広がるように検討を行ったりさまざまです。

実際に川に入る体験学習も行います。川で楽しく遊ぶためには、危険性への理解、安全を確保することがベースとなりますので、水難事故防止の研究や、ライフジャケットの大切さを伝え、普及していくことも活動の一つです。

他にも学校教育へ向けた教材の制作をはじめ、川や水のもつ教育的価値の研究など、多くの活動を行っています。その中でただ教えるのではなく、子どもたちが自発的に学ぶ機会を作るプロジェクトもあります。

自ら考える力を養うプロジェクトWETとは?

アクティブ・ラーニング型の教育手法で水循環を学ぶ
アクティブ・ラーニング型の教育手法で水循環を学ぶ。(写真提供:河川財団)
水と暮らす編集部

自発的に学ぶプロジェクトとはどういったものでしょうか?

菅原さん

河川財団では、世界75以上の国と地域で展開されている国際水教育プログラム「プロジェクトWET」の普及・啓発活動を日本で唯一担っています。

プロジェクトWETは、アクティブ・ラーニング型のプログラムで、「先生が黒板の前に立って、子どもたちは聞いている」というような授業ではなく、教員の説明は少なくし、子どもたち同士で教え合ったり、気付き合ったりする自発的な学びを育むものです。

アメリカの教育では、ディベートやロールプレイングが幼少期から取り入れられています。知識を得て、決まった答えを出すだけでよい時代ではなく、今後は答えのない課題を解く力が必要になります。アメリカ型のアクティブ・ラーニングを通して、深い教育を目指すのがプロジェクトWETの特徴です。

水と暮らす編集部

答えのない課題を解く力を養うために、アクティブ・ラーニングが必要なのですね。例えばどのような教育プログラムがあるのでしょうか?

菅原さん

体を動かすゲーム形式のものが多く、いかに楽しく学ぶかを考えてプログラムが作られています。

例えば、水の分子となって、地球上の水循環を体験するゲーム「驚異の旅」。すごろくのように、サイコロの出た目に応じて、海、川、雲、植物、土などのフィールドに移動。川の水は海に流れる、海の水は蒸発して雲になるなど、水の循環をゲーム形式で学ぶことができる体験型のアクティビティです。

驚異の旅
驚異の旅。(写真提供:河川財団)
菅原さん

このアクティビティはただ循環を学ぶだけでなく、「海に行く回数が多かったのはどうしてだろう」「雨がよく降るところと降らない地域があるのはなぜ?」といったように、アクティビティの体験を通して、新たな疑問が見つかります。疑問が好奇心となり、自発的な学習につながるようにできています。

知識だけ教えられても記憶に残りづらいですが、自身が体験したことは強烈に印象に残ります。このように、体験を通して自ら学ぶ力をつけることが、大切だと考えています。

この「驚異の旅」に必要な道具は100円ショップでそろうものがほとんどで、イラストもHPよりダウンロードできますので、自宅でも簡単に体験できます。

HPでオフィシャルのサイコロセットも販売しており、また、HPからダウンロードできるパンフレットにも卓上で体験できるワークシートを掲載しておりますので、ぜひご自宅でも体験していただきたいと思います。

誰もが関わる水だから、誰でも指導者として活躍できる

エデュケーター講習会の様子
エデュケーター講習会の様子。(写真提供:河川財団)
水と暮らす編集部

プロジェクトWETでは、指導者であるエデュケーターにも挑戦できるようですが、どのような過程を経てエデュケーターとして活躍できるようになるのでしょうか。

菅原さん

約6時間のエデュケーター講習会を受講、修了すればエデュケーターになることができます。アイスブレイクから始まり、アクティビティ、ゲーム形式でなじんでいただき、ガイドブックの使い方レクチャー、グループワークなど講習会自体もアクティブ・ラーニングを通して学んでいただきます。

18歳以上の方なら誰でも受講可能で、大学の教育学部に通う学生や水に関わる事業を展開する企業で働く方、保育士や教員の方など、さまざまな方が参加されています。最近では対面が難しいので、一部オンラインでも開催されています。

現在は約1万人の方がエデュケーターとなり、水や川の知識を身につけてくれています。

水と暮らす編集部

1万人もの人が受講されているのですね。初めて人に教えるのはなかなか難しいと思うのですが、みなさんハードルが高いと感じていないのでしょうか?

菅原さん

やはり難しいと思われる方もいらっしゃいますが、「水」はどなたにとっても身近な存在なので、水に詳しくない人、人に教えられるか不安な人でも心配することはありません。

泉井は今年4月に初めて講習を受けてエデュケーターとして活動していますが、もともとは食品が専門分野。食品と水との関係を関連づけてプレゼンすることで、スムーズに指導ができています。

泉井さん

水に関するテーマは、いろいろなことにつながっているため、話題として話をつなげやすいのです。講習では教わるだけでなく、教える側にもなるため、思い出に残る講習会になります。ぜひ多くの人にエデュケーター講習会を受けていただきたいですね。ホームページから応募ができるのでぜひご覧ください。

 
水と暮らす編集部

確かにどんな人でも水が身近にあるはずなので、自分の言葉で語ることができそうですね。最後に、教育事業を通して叶えたいビジョンなどをおうかがいできますでしょうか?

菅原さん

水というのは生きていくうえで欠かせないものです。地球温暖化や気候変動などが起こっている中で、水とのつき合い方は非常に重要なテーマになってくると思います。われわれの活動を通して水のメカニズムを知り、水の恩恵、危険性を正しく認識して、いざという時は身を守れる人になっていただけるとうれしいです。

公益財団法人 河川財団

河川財団公式HP

<公式HPはこちら>