カメヤ食品、豊かな水で育つわさびを使った製品づくりへのこだわり
わさびは、日本の食文化における重要な立役者のひとつです。わさびの産出額日本一の静岡県では、江戸時代からわさび栽培が始まったといわれています。県内でも日本一高い品質(※)を誇るのが、豊かな水の中で育まれる、伊豆のわさび。カメヤ食品株式会社では、そのわさびを使った製品をはじめ、地域の恵みを活かした味わいを提供しています。わさび製品へのこだわりについて、カメヤ食品株式会社 代表取締役社長の亀谷泰一さんにおうかがいしました。
※農林水産省「平成30年生産農業所得統計」
目次
伊豆のわさびがおいしい理由
- 水と暮らす編集部
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伊豆では、日本一の品質を誇るわさびが栽培されていますよね。なぜ、おいしいわさびがたくさん採れるのでしょうか?
- 亀谷さん
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わさび栽培に適した「豊かな水」と「風土」があるからです。伊豆のわさびが育つのは、伊豆半島中央部の東西に広がる「天城山(あまぎさん)」のふもと。天城山は日本有数の多雨地帯(※)で、全国でも5本の指に入るほど降水量が多い場所です。ミネラル分を多く含んだ天城山から流れる水は、水量が豊富なだけではなく、年間を通して13℃と、わさび栽培に適した水温になっています。
- 水と暮らす編集部
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わさび栽培に適した「風土」についても教えてください。
- 亀谷さん
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わさびは適度な日差しを必要とするものの、夏の強い日差しを嫌い、寒さに強い半陰性植物です。そのため、わさび沢(=わさびが採れる沢)は、一般的には日照の少ない「山の北側斜面」を利用して、清水が湧き出るところに作られました。
伊豆のわさび沢は、直射日光を遮るための「ハンノキ(=湿原や沼沢地に生育する高木)」が多く植えられており、伊豆地方ならではのわさび沢の景観が生まれました。しかし近年では、ハンノキの成長や落ち葉を清掃するのに時間と手間がかかるため、「寒冷紗(かんれいしゃ)」と呼ばれるネットを使い、わさび沢の上にかぶせて、光量を調節する傾向があります。
天城山による雨の恵みがわさび栽培に適したこと、また、わさびを育てる人の長年の知恵や努力、行動力によって、伊豆のわさびは品質と生産額ともに日本一になったのです。
- ※2019年には、天城山の年間降水量が5552㎖にも及び、降水量が多いことで有名な鹿児島県・屋久島を抜いて、降水量1位となった
- 水と暮らす編集部
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なるほど。カメヤ食品のわさび製品でおもに使われる原材料は、天城山麓を中心とした4つの「カメヤ自園わさび沢」で育てられた、良質なわさびですよね。4つのわさび沢で使用する水は、それぞれ異なるのでしょうか?
- 亀谷さん
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わさび沢のある場所によって、水温は変わります。天城山近くのわさび沢(天城わさび沢、長野わさび沢)は年間を通して水温が約13℃になる一方、天城山から離れたわさび沢(伊豆船原わさび沢、長泉わさび沢)は年間を通して水温が約15℃です。
水温が変わることにより、わさびの味も変わります。13℃だと辛みの強いわさびが、15℃だと少し水っぽいわさびが採れるんです。辛みは季節によっても変わり、例えば冬場は辛みが強く、夏場は水分が増えて辛みが薄くなります。
わさび製品の原料には、価値ある「質の高いわさび」を使用
- 水と暮らす編集部
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わさびには多くの品種がありますが、カメヤ食品のわさび製品には、何の品種が使われているのでしょうか?
- 亀谷さん
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どちらかといえば「実生(みしょう)」を使った製品が多いのですが、「実生」と「真妻(まづま)」をあわせた製品も扱っています。
実生は成長が早く、水分が少し多いわさびです。辛みは強いのですが、わさび特有の甘みと香りは、真妻に比べると弱いといえます。実生は種から栽培し、成長が早いので(苗から約1年程度)、私どものような加工業者に出回ることが多いです。
一方、真妻は植え付けから収穫まで、最低でも1年半から2年と時間はかかりますが、身質はよく詰まり、硬いわさびです。真妻は実生と比べて、辛みの中に十分な甘みがあり、さわやかな香りをもつ最高級のわさびなんです。ちなみに、富士山の伏流水でわさびを育てる「長泉わさび沢」では、真妻のみを栽培しています。
- 水と暮らす編集部
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質の高いわさびを使った製品を取り扱っているんですね。
- 亀谷さん
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はい。品質の良い真妻は、板前さんにも喜ばれるおいしいわさびなので、豊洲市場などでも人気がある品種で、高値で取引されています。季節にもよりますが、実生種のわさびがキロ当たり5~6千円のところ、真妻は1万円以上でお取引されるんです。年末になると需要が高まるので、質の良い真妻わさびは、kg当たり例年2万円以上でお取引されることもありますね。
製品づくりの過程でも、水には徹底したこだわりをもつ
- 水と暮らす編集部
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良質なわさび製品を作るために、わさびの栽培以外にも、水にこだわっている製造過程はありますか?
- 亀谷さん
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第2工場で行う「わさびの洗浄・断裁」に使う水にもこだわっています。そのときに使用する水は、日本三大清流のひとつである「柿田川(かきたがわ)」の地下水です。それは富士山の湧水で、年間水温は約15℃。和食に合う軟水で、それを洗浄・断裁に使うことにより、わさびのうま味を逃さずに加工できます。
そうして一次加工したわさびを使った製品が、ロングセラー商品の『おろし本わさび』と『わさび漬』です。これらは断裁したわさびを塩漬けにした後、平成台工場で最終仕上げをします。平成台工場で使用する水は、箱根の山に降り注ぐ水で、天城山や富士山、柿田川の水にも劣らない非常に良い水なんです。
- 水と暮らす編集部
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他にも、水にこだわって作られている製品はありますか?
- 亀谷さん
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お漬物や佃煮ですね。それらは本社工場で作っていますが、そこで使用しているのも柿田川と同じ水源の天然水です。その水が、箱根西麓の自社農園などで収穫した野菜のうま味を引き立ててくれます。例えば、お漬物は歯ごたえの良い食感となり、おいしく仕上がるんです。
品質を最優先させるために、本社工場では機械だけに頼らず、手作業で商品の選別・断裁をするなどしています。また、店頭に並ぶ製品の味に差が出ないようにするため、研究室で塩度・糖度のチェックを毎回行うなど、おいしいわさび製品やお漬物をご提供できるように管理しているんです。
新しいチャレンジを続けながら、わさびのおいしさを伝えていく
- 水と暮らす編集部
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売れ筋の商品を教えてください。
- 亀谷さん
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いちばん売れているのは『おろし本わさび』ですね。これは、お刺身や寿司などの日本料理によく合います。2021年のモンドセレクションで優秀品質金賞を受賞した『わさび粗おろし』も定番の売れ筋商品です。こちらは、シャキッとしたわさびの食感が、ステーキなどの肉料理によく合います。他にも、『わさびふりかけ』や『わさびドレッシング』、『伊豆わさびマヨネーズタイプ』などはロングセラー商品です。
- 水と暮らす編集部
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魅力的な商品ばかりですね。現在、新たに取り組んでいることはありますか?
- 亀谷さん
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これまでは50歳以上の方をターゲットにしていましたが、10代や20代の方にもわさび製品を手にとっていただきたいと考え、新たな商品開発を進めています。2021年の春には、家飲み・オンライン飲み会の需要に応えられるよう、おつまみの『わさびチーズ』と『わさびピスタチオ』を開発しました。刺激的な風味が特徴の商品で、ビールやワインと相性がいいんです。
また、外国人のお客さまも開拓しようと、商品説明を英文で記載した『おろし本わさび』『わさび粗おろし』などの販売に向けて進んでいるところです。
- 水と暮らす編集部
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さまざまな取り組みにチャレンジされているんですね。
- 亀谷さん
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そうなんです。昨年からは「水とつくるカメヤ」を合言葉に、環境問題に配慮した取り組みを始めました。例えば、今までは捨てていた「わさびの芋皮」を粉末にし、それを固めて再利用することで『わさび石鹸』を開発したんですよ。
また、わさびの見た目を良くするために削ぎ落とした「ひげ根」の部分は、今まで捨てていました。しかし、そこには辛味成分が多いことがわかったので、抽出した辛味成分を使った新商品を販売する予定です。
これからも、良質なわさびを根から茎、葉まで余すところなく使い尽くし、さまざまなわさび製品を展開していきたいと考えています。
この記事のまとめ
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豊かな水と風土によって、伊豆では良質なわさびがたくさん採れます。
カメヤ食品のわさび製品には、天城山麓の水で育った良質なわさびを使用。そのわさびを加工するときにも、水にこだわっているそうです。
カメヤ食品では「水とつくるカメヤ」を合言葉に、環境問題にも配慮した取り組みを実施。わさびを余すところなく使い、新商品を開発しているとのことでした。
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