神戸産のローカルビールを楽しんで。醸造所「IN THA DOOR BREWING」

2021.07.07

神戸市の街中にある、クラフトビール醸造所「IN THA DOOR BREWING(インザドアブルーイング)」。神戸生まれの「神戸ウォーター」を100%使用した、神戸産・国産にこだわるブリュワリーです。

日本では珍しい中硬水から生まれたビールは、いったいどんな味に仕上がるでしょうか? 独自の「ゆるい」スタイルを貫く同社の創業エピソードやおすすめのビールなどを、創業パートナーの中村美夏(なかむら みか)さんにうかがいました。

トップの画像は中村美夏さん。(写真提供:IN THA DOOR BREWING)

店舗の外観
店舗の外観。(写真提供:IN THA DOOR BREWING)
水と暮らす編集部

IN THA DOOR BREWINGは、創業者の中戸正親さんと美夏さんとで立ち上げたそうですね。お二人はもともとビールにご縁があったのでしょうか?

 
美夏さん
 

創業当時、創業者の中戸は小さいバーを経営していて、私は外資系のメーカーに勤務していました。バーではビールの小瓶を出していただけだったので、クラフトビールとはあまりご縁がなかったですね。

そんな私たちがクラフトビール作りを始めたのは、岡山にある醸造所の黒ビールを飲んだのがきっかけです。「日本でもこんなにおいしいビールを作っている醸造所があるんだ!」と感動しました。

そこで中戸の経営するバーで置かせてもらえないかと打診したのですが、当時は岡山県外には出せないと、一度は断られてしまって。

でも諦められなかったので、再度直談判させていただいたら「半年限定で卸しますので、その後はご自分たちで作ってみたらどうですか?」と言われました。これがきっかけで、2015年にIN THA DOOR BREWINGがスタートしたんです。

「神戸でしかつくれないビール」を製造

水と暮らす編集部

一杯のビールがきっかけで、クラフトビール作りが始まったんですね。なぜ神戸産・国産にこだわっているのでしょうか?

 
美夏さん

クラフトビールは当時、神戸ではまだ浸透していなかったのですが、関東ではすでにムーブメントが起きていたので、はやり廃りのある業界だなと思いました。

今後クラフトビールが流行したときに、その流れに乗るだけだったらいつか必ず廃れてしまう。それは嫌だと思ったので、自分たち独自のコンセプトをもって、自分たちにしかできないビール作りをしたい、という話になりました。

そこで打ち出したのが、「神戸でしか作れないビールを神戸で作る」ということ。神戸産の素材にこだわった醸造所になろうと決めて、ビール作りを始めましたね。

醸造所での作業風景
醸造所での作業風景。(写真提供:IN THA DOOR BREWING)
水と暮らす編集部

ビール作り材料は、大麦、ホップ、そして水。現在はどこまで神戸産の材料でビールを作られているのですか?

 
美夏さん

神戸は六甲山から流れてくるおいしい水「神戸ウォーター」が有名で、日本酒の酒蔵やウイスキーの醸造所などが点在しています。

ビールもやはり水が命。そこで真っ先に決めたのが「神戸ウォーターを使用しよう」ということでした。すぐに神戸ウォーターさんにお願いして、現在まで神戸ウォーター100%のビール作りを行っています。

大麦やホップは現在はまだ輸入しているのですが、地元でも栽培を始めています。また創業後に少しずつ地元農家さんと知り合えるようになり、地元で採れたフルーツやハーブなどを使った期間限定ビールを製造できるようになりましたね。

水と暮らす編集部

神戸ウォーターを使用したビール作りで、苦労された点はどこでしょうか。

  
美夏さん

もっとも苦労したのは、神戸ウォーターを使用してビール作りをしている醸造所が他になかったので、理想の味を作るまでに自分たちで試行錯誤するしかなかったことです。水道水とはまったく違う水なので、その特徴をつかむまでに丸1年は試行錯誤していたと思います。

また水道水なら蛇口をひねればすぐに水が出てきますが、神戸ウォーターは20Lのポリタンクに入れて届けてもらいます。醸造する際は一回に約300Lの水を使用するので、20kgのポリタンクを何度も持ち上げて釜に水を注ぐという作業が発生するんです。かなり体力を使いますよね。

こうした苦労もありましたが、現在では水の特徴がつかめて、比較的思うような方向性の味や香りが出せるようになったと思います。

地産地消のエコサイクルを目指して

水と暮らす編集部

そんな苦労の末にできたIN THA DOOR BREWINGのビール。特におすすめの銘柄は何でしょうか?

二宮 Funk Ale
「二宮 Funk Ale」。(写真提供:IN THA DOOR BREWING)
美夏さん

ひとつは「二宮 Funk Ale」。このビールはイギリスのビールをモデルに作っているのですが、イギリスでも中硬水が使われている関係で、本物のイングリッシュペールエールに相当似ているそうです。よく来店されるスコットランド人のお客さまに絶賛していただきました(笑)。

酵母のもつベリー系の香りがあるので、ビールが苦手な方や女性でも楽しめると思います。

UCCコーヒースタウト
「UCCコーヒースタウト」。(写真提供:IN THA DOOR BREWING)
美夏さん

美夏さん もうひとつは「UCCコーヒースタウト」。神戸創業のUCCさんのコーヒー豆を使った黒ビールです。コーヒーのビールは日本ではまだ珍しいので、コーヒー好きの方や新しい味を知りたい方にぜひお飲みいただきたいですね。

定番ビールは、この二宮 Funk AleとUCCコーヒースタウトを含めた全6種類。神戸の店舗や、オンラインショップにて販売しております。

水と暮らす編集部

IN THA DOOR BREWINGでは、ビール作りで新しい取り組みをされているそうですね。

    
美夏さん

力を入れている取り組みは2つあります。まずは2018年より始めた「KOBE LOCAL BEER PROJECT」。100%神戸産の材料でビール作りをしようという試みです。

日本では農家の高齢化により、手入れされない「耕作放棄地」が増えているという課題があり、それは神戸でも同じこと。こうした土地を活用して大麦やホップの栽培を行うことで、若い農家さんや地域の方に「農」へ興味をもっていただけるのではないかと思いました。

地域の農家さんと協力し合いながら、現在もこのプロジェクトを進めています。

もうひとつは、2020年から始めた「CSLB」は、今や世界各地で広まっている「CSA(地域支援型農業)」をもとにしています。CSAは有機農業などを行う農家さんと消費者が契約を結び、前払いでお金を払う代わりに、新鮮な野菜を定期的に届けてもらうという仕組みです。

地域の農を応援する気持ちや、安心できる食材を手に入れたいという気持ちから、成り立っています。

CSLBを契約いただいた方には、地元の食材を使用した期間限定ビールをお届けしています。こうした仕組みで消費者の方に応援いただければ、私たちは新鮮なビールが届けられるし、地域の農家さんの支援にもつながります。

すでに2021年の年間契約の受け付けを始め、お問い合わせもいただいているので、今後CSLBを通して多くの地元産ビールをお届けできたらうれしいです。

水と暮らす編集部

さまざまな取り組みをされているんですね。今後の活動についても教えてください。

  
美夏さん

実はIN THA DOOR BREWINGは、2021年7月末で現在の醸造所兼レストランを閉めて、六甲アイランドに移ります。新装オープンは9月を予定しています。

それまでの間も、毎週土曜日に「FARMERS MARKET」に出展しておりますので、ここでお客さまとお会いできるとうれしいです。

今後は、神戸市内のレストランで私たちのクラフトビールが取り扱われたらいいな、とも思っています。私たちのポリシーを大切に、ゆるくがんばりながらおいしいビールを提供していきたいです。

<INFORMATION>

IN THA DOOR BREWING

<公式HPはこちら>

IN THA DOOR BREWING

<オンラインショップはこちら>

「FARMERS MARKET」

<公式HPはこちら>

(毎週土曜日9:30〜13:00、旧居留地・浪花町筋にて)