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水、米、人、関わるすべての要素を静岡県産にした花の舞酒造の味わい

2021.06.11

南アルプス赤石系の山々に、守られるかのように位置する花の舞酒造。こんこんと湧き出る清冽(れつ)な地下水を深さ100mからくみ上げ、洗米、割水、瓶詰などすべての工程に使用してお酒を造っています。その口当たりは絶妙に柔らかく、甘いのに爽快で、まさに雄大な山々の恵みそのもの。

水も米も、職人も含めて静岡県産にこだわり、“人の生活に入り込むお酒”を世に送り続ける花の舞酒造の名誉杜氏・土田一仁(つちだかずひと)さんにその想いを聞きました。

雄大な山々と広大な田園。ここで酒米である山田錦を育てる。

トップの画像は花の舞酒造の外観。(写真提供:花の舞酒造)

水と暮らす編集部

南アルプス赤石系の地下水は、どのようにくみ上げられているのですか?

土田さん

地下80mと100mの地点2ヵ所からくみ上げています。1カ所だけですと、片方が使えなくなったときに困るので、2本ボーリングしました。掘っている途中、とても硬い岩盤があってそれ以上は無理かと思いましたが、さく井工事業の人たちが「ここなら絶対にいい水が出るはずだ」と諦めずに進めてくれまして。昔は30mほどの井戸を掘って、その水を使っていたのですが、もっとキレイで安定供給ができる水を使おうということで、昭和50年ころに大工事をしたんです。おかげで今では非常に純度の高い超軟水を、酒造りの工程すべてにおいて思う存分使うことができています。

水と暮らす編集部

その水を使うことで、花の舞酒造さんのお酒にはどのような特徴が出ていますか?

土田さん

やはりうちで使っている水の良さは、南アルプスの雪解け水など伏流水を原料とした軟水であることです。浜松は、南アルプスや富士山という山々に囲まれていて、それぞれから流れてくる水が地下にたまっている地域です。軟水であるため、造ったお酒もとても穏やかな味わいで、辛口であっても丸みのある優しい口当たりになるんです。

水と暮らす編集部

どんな人にも飲みやすいお酒なんですね。

土田さん

そうですね。まず、たくさんの方に飲んでいただくためには、飲みやすくないといけません。それにはどんな料理にも合う、繊細な味である必要があります。もちろん造っているお酒のなかには日本酒の味をガツンと感じるものもありますが、ほとんどのお酒は柔らかい味です。お酒の弱い人、強い人関係なく飲んでいただけるお酒なんです。

酒を造る様子
杜氏も蔵人も静岡県民。品質はこうして守られる。(写真提供:花の舞酒造)

お水もお米も職人も、オール静岡産のこだわり

水と暮らす編集部

花の舞酒造さんはお水、お米などオール静岡県産へのこだわりをもってお酒造りをされていますが、杜氏も蔵人もすべて静岡の方なんですね。

土田さん

昔は他の酒蔵と同様、酒造りの時期になったら広島から杜氏さんに来ていただいてました。杜氏さんは地方にお酒を造りに行き、4月になると自分の米作り業のために帰るというのが通例です。確かにそれは双方の合点がいくシステムではあるのですが、ある一定の期間しか酒造りができないとなると、生産性が伸びていきません。そこで花の舞酒造では社内で若い技能集団の育成を開始し、私の前に杜氏を務めた者から、自社の杜氏による酒造りをする形に変えたんです。私は33歳のときに二代目の杜氏となり、今は次代の鎌江杜氏が指揮をとっています。同じ静岡人である杜氏と職人ならではのチームワークが、作業工程の随所で活かされているんです。

水と暮らす編集部

土田さんは地元杜氏という伝統がはじまる瞬間に立ち会われていたんですね。33歳という若さで酒蔵すべての責任をもつようになるのは大変だったのではないでしょうか。

土田さん

社長もそんな若造によく任せてくれたなと思います(笑)。プレッシャーがないわけではなかったんですが、何よりもうちにはいい水がある!というのが、とても支えになっていたのは事実です。私が杜氏になってから初めての全国新酒鑑評会でも金賞をいただき、それもまた自信になりました。本来、日本酒は造ってから熟成されていくことによって落ち着いた味わいになっていきます。でも、搾りたての商品で高い評価を得ることができたことで、自分たちでやっていけるんだと再確認できたんです。水も米も人も、すべてが静岡県産。これが私たちの誇るべき点であり、理念ですね。

名誉杜氏によるガイドツアー
酒造見学では、名誉杜氏によるガイドツアーも。(写真提供:花の舞酒造)

杜氏自ら案内する酒造見学も大好評

水と暮らす編集部

地元への愛を守り続ける花の舞酒造さんのお酒は、口当たり的にも飲みやすく、親近感をもちやすいお酒なのかもしれませんね。

土田さん

まさにそうですね。だから百貨店などの店員さんが、お酒売り場で迷っている人には、うちのお酒を勧めてくれていると聞きました。それはとてもうれしいことです。お酒は何かイベントのときや、悲しいことやうれしいことがあったときに飲まれることが多い。特に日本酒は、日本の季節行事やお祝い事のときに飲んでいただいています。でも、そういったときだけではなく、もっと人の生活に入り込んだ日本酒を造りたいと思っているんです。特別なときだけではなく、当たり前にいつも飲んでいただける、それが私たちの造るべきお酒なんですよね。

水と暮らす編集部

花の舞酒造さんでは酒造見学も受け付けていて、そのガイドは土田さん自らが務められているそうですね。

土田さん

せっかく来ていただくなら、杜氏自らによる説明のほうが楽しんでいただけるんじゃないかと思うんです。そのため、スケジュールの都合があえば、名誉杜氏である私が案内させていただいています。酒造見学は、最初に酒造りのビデオを見ていただいた後、実際に蔵に入り、使っている機械を見ながら工程を知ってもらいます。もともと酒造見学は、もっとお酒のことを知っていただき、ファンになっていただくというのが目的。実際に働いている職人の姿を見て、感動されている方もたくさんいらっしゃいます。あと、お客様が酔ってしまうくらい充実した試飲コーナーも喜んでいただいてますね(笑)。うちの試飲コーナーは“試飲”ではなく“志飲”だと説明させてもらっているんですが、本当にそのとおりで。造っている場を見て、お酒を飲んで、私たちの志を知ってもらえたらうれしいですね。

水と暮らす編集部

どんなふうに造られているのかを知ったうえで飲むお酒はおいしそうですね!

土田さん

はい、格別です。きっと、家に帰ってからの味も変わらず格別ですよ。今は何かと外出できないかもしれませんが、酒蔵はずっとお酒を造り続けていますから。ぜひ、多くの方に遊びに来ていただきたいです。

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