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京丹後で約190年。伝統の酒造りを続ける「ハクレイ酒造」の不動山水

2021.06.09

1832年(天保3年)に創業し、江戸時代から190年近くも京都・丹後の地で伝統の酒造りを続ける「ハクレイ酒造」。大江山連峰に属する丹後富士「由良ヶ岳」中腹に流れ出る不動の滝の水を「不動山水(ふどうさんすい)」と名付けて酒蔵まで引き、仕込み水を始め、洗い物まですべてに使っているそうです。

この水の魅力について、ハクレイ酒造の事業統括部長小西さんと、長年蔵に勤めるベテランスタッフの瀬田さんにお話をうかがいました。

(写真提供: ハクレイ酒造)

水と暮らす編集部

丹後富士・由良ヶ岳の中腹に流れ出る不動の滝の水「不動山水」を酒造りに使っているそうですが、こちらの水を使うに至った経緯を教えてください。

 
瀬田さん

ハクレイ酒造のある宮津市は、目の前に日本海があり、後ろには大江山連峰由良ヶ岳と、海と山に挟まれた場所にあります。

実は、昔は井戸水を使っていたそうです。酒造りにはたくさんの井戸水を使うので8つほど掘っていたそうですが、海も近いので塩分が入ってしまったり、枯れかけたりしたこともあり、由良ヶ岳から水を引けないかということになりました。昭和の頃でまだ山が荒れていたのですが、そこを整備しまして。パイプラインを使うという技術のおかげで、山からここまで水が引けるのではということになりました。

小西さん

由良ヶ岳は標高640mですが、この山の中腹に流れ出る不動の滝の水に採水地を整備し、専用のパイプラインを600mほど引いています。京都丹後鉄道というローカル線がありますが、線路下も通して引いているわけですね。なかなかユニークな水ではないかと思います。

瀬田さん

ハクレイ酒造の創業者の中西家はこのあたりでも一番大きな庄屋さんだったのです。いわゆる豪商として、山も含め、このあたりの土地も多く所有していたので、道路を掘って下に水道管を通すということも可能になったようですね。

水と暮らす編集部

ハクレイ酒造さんは、小学校や郵便局を建てたり、地域アーティストの援助や育成をしたりと文化時事業にも積極的に取り組まれ、相撲や能、狂言の興行を呼んで地元の人々を無料で招待するなど地域にいろいろと貢献されているのですよね。

1990年の秋からは京丹後の地で、酒米「山田錦」も契約農家さんと一緒に作られているそうですね。不動山水についても離れた山からわざわざ水を引けるというのは、地域密着型で愛されている酒造さんならではのお話だなという印象を受けました!

 
「天の蔵」蔵見学
「天の蔵」では、蔵見学や試飲も可能。歴史や銘柄の由来、酒造りの説明も行っている。(写真提供:ハクレイ酒造)

超軟水ながら甘口も辛口もおいしくできる不思議な水

水と暮らす編集部

不動山水は超軟水とのことですが、どのような味なのでしょうか。

 
瀬田さん

まろやかな喉ごしですね。水をお持ち帰りいただくこともあるのですが、「この水でお茶やコーヒーをいれて飲むとおいしい」と言っていただけています。「ご飯を炊いたらすごくおいしかった」と言われたこともありますね。

ハクレイ酒造の仕込蔵
ハクレイ酒造の仕込蔵。(写真提供:ハクレイ酒造)
水と暮らす編集部

超軟水はお酒造りには向かないといわれることもあるようですが。

 
小西さん

不動山水はミネラルが少なく、硬度は11mg/Lくらいなのでかなりの軟水なのですが、辛口のお酒も甘口のお酒も造れますね。杜氏(とうじ)の技術あってのことなのかもしれませんが、格別難しい水だということもないようです。弊社では他の地域の名水を使ったお酒造りもしていますが、杜氏はそちらの方が難しいと言いますし。

瀬田さん

蔵元一番人気の代表銘柄「酒呑童子(しゅてんどうじ)」は+12~13くらいと、かなり大辛口で有名です。お米本来のうま味を引き出す山廃仕込みといの製法で造られ、キレがよく、すっきり感があり、深みを感じられるお酒です。辛口ながらなめらかに感じられるのは、この水のおかげなのだろうと思います。

大辛口 酒呑童子
「大辛口 酒呑童子」ハクレイの代名詞ともいえる本醸造酒。すっきりした味わいとのど越しで、飲み飽きしない超辛口。900ml /1,188円。(写真提供:ハクレイ酒造)
水と暮らす編集部

このお水のおかげで、ハクレイ酒造さんのお酒は酔い覚めもいいそうですね。

 

伝統技術を守りながらスイーツや新商品など新しい試みも続々

水と暮らす編集部

ちなみに不動山水を使っているのは仕込み水のみでしょうか。

瀬田さん

大きな貯水槽もありますし、洗い物から、何から何まですべて不動山水を使っていますね。

水と暮らす編集部

それはぜいたくですね! 将来もこの不動山水が末長く使えるように配慮していることなどがあれば教えてください。

 
瀬田さん

毎年10月1日の「日本酒の日」にはご祈祷して厄払いをしていますね。水源のところへはお掃除に行きますし。夏の台風や豪雨など、大水が出たときも不思議と神様に守っていただけているようで、今まで大きな影響を受けたことはないのですよね。

水と暮らす編集部

10月は新米を収穫して酒造りを始める季節ですものね。水のおいしさがよくわかるお酒があればおすすめを知りたいです。

 
小西さん

水でいうとすっきりした「香田」シリーズ、辛口の「酒呑童子」シリーズかと思います。ハクレイ酒造のお酒は「水を混ぜない原酒が飲みやすい」と好評をいただいています。

水と暮らす編集部

純米吟醸生酒 白嶺 初搾り」が世界の女性ワイン専門家が選ぶ、「第15回フェミナリーズ世界ワインコンクール2021」日本酒純米吟醸部門で金賞受賞されたそうで、おめでとうございます。女性向けのお酒もいろいろと造られていますよね。

 
小西さん

2020年夏には「純米大吟醸酒 Hakurei‐01(ハクレイゼロワン)」を出しました。白ワインにも近い、すっきりした味の日本酒です。昔からの日本酒ファンの方だけではなく、ビギナーの方やライトに楽しみたい方などにも飲んでいただけるお酒を出して、ファンを増やしていきたいと思っています。

ハクレイの代表的なお酒6本
ハクレイの代表的なお酒6本。左から「純米吟醸生原酒 黒の大鬼」「純米吟醸原酒 赤の大鬼」「Hakurei-02 Refreshing (720ml)」「純米大吟醸 原酒 瓶囲い 真名井 720ml」「純米吟醸生原酒 かたり酒 720ml」「純米吟醸生酒『白嶺 初搾り』720ml」。(写真提供:ハクレイ酒造)
水と暮らす編集部

他にも、炭酸飲料メーカー・友桝飲料と共同開発で、独自技術「天然アロマージュ製法」を使った、天然吟醸香が薫るナチュラルスパークリングウォーター「HAKUREI SPARKLING WATER」や、発泡性リキュール「HAKUREI SPARKLING SAKE」を発売されるなど、魅力的な商品がたくさんありますね。ケーキやプリンなど、不動山水を使った酒蔵スイーツも販売されているのですよね?

 
小西さん

スイーツ部門「蔵Sweets HAKUREISYA(白嶺舎)」がありまして、不動山水はもちろん、酒粕などを使った和菓子や洋菓子をいろいろご用意させていただいています。地元産の卵や果物を使って、ケーキやマドレーヌなども作っていますよ。

水と暮らす編集部

新しい試みをたくさんされているのですね。ありがとうございました!

 

ハクレイ酒造 天の蔵
京都府宮津市字由良949
ハクレイ酒造 公式Webサイト
ハクレイ酒造 オンラインショップ