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水を味わう

酒造りの要は水、米、人へのこだわり。酒井酒造に聞く日本酒の真髄

2021.06.02

水がきれいな国である日本には、各地においしい酒蔵があります。

神話の時代から続く日本酒文化を今に伝える蔵人たちは、日々水と向き合い続けています。蔵人こそ水の奥深さを熟知しているといえるでしょう。

そこで、蔵人の責任者である杜氏(とうじ)の方に水とお酒の深い関係についてお話をうかがうことにしました。

お話ししてくださるのは、酒井酒造株式会社の杜氏・仲間史彦(なかまふみひこ)さんです。

トップの画像(提供:酒井酒造株式会社)

水と暮らす編集部

お酒に使う仕込み水について教えてください。

仲間さん

山口県を流れる錦川の伏流軟水を使用しています。伏流水とは、川の周辺地域に川の水が染み込んでいってそれを井戸でくみ上げる地下水のことです。

私どもの蔵は山口県岩国市の川下という地区にあるのですが、錦川の三角州内にあります。

そんな立地なので水脈はとても豊富にあります。敷地内には井戸が3ヵ所あり、それぞれ10、20、40メートルと深さが違います。それぞれ水質に違いはなく、数値的な差異は誤差の範囲なのですが、深井戸から採水したものを醸造用に使用しています。

水と暮らす編集部

超軟水とのことですが、軟水は酒造りに向いているのでしょうか?

仲間さん

軟水は、カルシウムやマグネシウムなどの金属イオンが少ないものです。逆に硬水はそれら金属イオンが多いわけですが、金属イオンが多いと日本酒の酵母の活性も高まります。

ということは、どちらかというと軟水は日本酒の製造向きではないのです。軟水でお酒を造るには、優良酵母を健全に培養するなどの手法が必要になります。

よく「硬水は男酒、軟水は女酒」といわれます。硬水は発酵が早いので、そこから力強いイメージになります。だから男酒。

それに対して軟水で造るお酒は、発酵がゆるやかなので、じわじわ発酵が進むやさしい味になります。だから女酒と呼ばれるのです。

私どもの銘柄「五橋」は、やはり軟水特有のやわらかい酒質になります。女酒らしく口当たりがやわらかいのが特徴です。

水と暮らす編集部

日本酒の味を表現する軸として「淡麗」と「芳醇」があります。「五橋」はどちらでしょうか。

仲間さん

私どもはいろんな種類のお酒を造っていて、味の分布でいうと淡麗・芳醇、辛口・甘口とさまざまなお酒のラインナップがあります。その中でも地元で楽しまれている地酒は、芳醇な旨口(うまくち)になると思います。

岩国は酒どころでもありますが、商圏として広島県に近いということもあって、広島寄りのやや甘口傾向の酒の味になっているといえます。土地柄によって酒質が変わるということもあると思います。

酒造りの三位一体とは

水と暮らす編集部

酒井酒造さんのホームページには「酒造りの三位一体」ということがうたわれています。

仲間さん

酒造りの三位一体とは、「水へのこだわり」「米へのこだわり」「人へのこだわり」です。うちが造るのは山口県の地酒ですから、山口県産米100%で醸造しましょうと。特にそこにはこだわりをもっています。

地元の篤農家さんと契約栽培で酒米を生産してもらっています。さらに、自社でもお米を作っています。自社で「五橋農纏(ごきょうのうてん)」という農業生産法人を立ち上げまして、5ヘクタールの田んぼで作付けをしています。

なぜ自社でお米を作ることになったのかというと、社内に米作農家出身の者がいたということと、高品質の酒米を調達するのが難しくなったということがあります。

お米は肥料をあげすぎるとタンパク含量が増え良い酒になりません。生産農家に対して「肥料を控えてくれ」と言っても、収量を上げるために肥料を使ってしまいます。ですので、自分たちで良いお米を作ってみようとなりました。

昔は農家の方に教えを請いながら作っていたのですが、今では自分たちで作ったお米が農産物検査においても良い等級を取れるようになったのです。

自らがお酒の原料である米にこだわりをもっていくということです。私は蔵人ですが、田んぼではトラクターに乗って耕しています。

年によって異なりますが、今原料の15~20%は自社で生産したお米になっています。

木桶でお酒を仕込む伝統的手法を復活

若い蔵人が日本酒造りの伝統を引き継ぐ
若い蔵人が日本酒造りの伝統を引き継ぐ。(提供:酒井酒造株式会社)
水と暮らす編集部

仲間さんは大津杜氏の組合長さんでもあるのですね。

仲間さん

]山口県の北の方に長門市という土地がありますが、そこが大津杜氏の里になります。うちの蔵の先代の杜氏がそこの出身だったということもあり、大津杜氏の流れになります。

日本各地にたくさんの杜氏集団がいて、それぞれが酒造りの流派になっています。杜氏も蔵人も高齢化が進んでいて、後継者不足が全国で課題になっていますが、うちでは若いスタッフが育っていて後継者不足には困っていない状況です。

山口県の県立高校で田布施農工高校というのがあります。そこでは、日本で唯一日本酒造りを教えているんです。そこで日本酒造りに興味をもった生徒さんが、うちに就職するという流れができています。その高校の卒業生が現在4人います。

昔ながらの「桶仕込み酒」を復活させる
昔ながらの「桶仕込み酒」を復活させる (提供:酒井酒造株式会社)
水と暮らす編集部

伝統的な木桶でお酒を仕込む「桶仕込み酒」を造っているとうかがいました。木桶でお酒を貯蔵すると木の香りがつくのでしょうか?

仲間さん

それも多少はありますが、桶仕込みのメリットはそこにあるとは考えていません。現在、通常の酒造りでは、ステンレスホーローのタンクで仕込みます。木の桶は、それらに比べて穴がたくさんあるんですね。

酒造りの工程では、目には見えない酵母菌が働きます。木桶の穴に酵母菌が住み着くんです。酵母菌が木に宿るわけです。それが味にも反映されているのではないかと思っています。

「ほら吹き」から始まる地域おこし活動

水と暮らす編集部

独特な地域おこし活動にも取り組まれていると聞きました。

仲間さん

「トラタン村」という活動をしています。これは「大ぼら吹きのいる郷」という意味なのですが、大ぼらを吹きながらいつの間にかそれを実現させてしまう人を指します。「取らぬ狸の皮算用」だから「とら・たん」と命名されました(笑)。

地元の農家さんが中心になって活動しています。あるとき、農家さんから「お宅の酒米を作らせてくれないか」と言われたのがトラタン村に関わるきっかけでした。それに応えて、以前は酒蔵の敷地内にあった精米所を作付けする農地の近くに移転しています。

最近ではトラタン村がブランドとして周知されてきています。今では年に3回、親子さんを集めて田植え体験を行っています。子どもはその田んぼでできたご飯を食べ、大人は純米酒を飲むという楽しいイベントです。

まとめ

水にこだわり、米にこだわり、人にこだわることで良いお酒ができあがるという仲間さん。実は日本酒造りには向いていないという軟水でも、おいしいお酒にするために醸造方法に工夫を重ねているのだとか。

日本酒の長い歴史に裏打ちされた杜氏さんの言葉には、奥深さが感じられます。仲間史彦さん、貴重なお話をありがとうございました。

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