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浄化槽で世界の水環境を守る。フジクリーン工業が見据える未来とは?

2021.06.08

人が使った汚れた水をきれいにして自然に還す浄化槽。あまり知られていないかもしれませんが、実は日本の技術力の高さが、世界から注目を浴びています。

浄化槽業界のリーディングカンパニーとして、約60年もの間自然環境を守り続けているフジクリーン工業株式会社の石田卓哉さんに、浄化槽の仕組みや、水を守る取り組みについてお話をうかがいました。

トップの画像(写真提供:フジクリーン工業株式会社)

(写真提供:フジクリーン工業株式会社)
水と暮らす編集部

浄化槽というとニッチな業界だと感じるのですが、事業が始まったきっかけは何だったのでしょうか?

 
石田さん

1961年に創業した頃は、コンクリート二次製品を造る会社でした。当時の浄化槽はもともとコンクリート製が主流であったため、浄化槽も造るようになったのがきっかけですね。それからだんだんと、浄化槽がメインの仕事になっていきました。

当時は高度経済成長期。生活が豊かになるにつれ、水洗トイレの需要が高まっていたのですが、下水道の設置はゆっくりとしか進みません。そんななかで、トイレの水を簡易的に処理する単独処理浄化槽の設置が急がれた時代でした。

水と暮らす編集部

高度経済成長期というと、公害などの環境汚染が問題になっていた時期ですね。

 
石田さん

日本の河川の汚れは深刻でした。当時普及していた浄化槽はトイレの水をきれいにするだけの「単独処理浄化槽」で、生活排水すべてを処理できるものではなかったのです。 環境汚染によって川遊びができない子どもたちの姿を憂いた弊社の創業者は、汚染問題を解決しようと決意。その結果、生活排水すべてを処理できる家庭用「合併処理浄化槽」の量産化技術を日本で初めて開発したのです。こうした歴史があり「美しい水を守る」というモットーをもちながら、現在も浄化槽の開発を続けています。

水をきれいにする仕組みは自然界と同じ

水を綺麗にする仕組みを説明する画像
(写真提供:フジクリーン工業)
水と暮らす編集部

水をきれいにするために、浄化槽の中では何が行われているのでしょうか?

 
石田さん

基本的に、自然界で起こっている水の浄化作用と仕組みは同じです。例えば、河川では、石や砂、水生植物などすみかに微生物が増え、その微生物が水の中の汚れ成分を食べてきれいにしてくれます。これが水の浄化作用です。

浄化槽では、この微生物が繁殖しやすい環境をつくって、大量に保持させています。この浄化槽に排水を入れることで、水をきれいにするというのが基本的な仕組みです。

水と暮らす編集部

なるほど。基本原理は自然界と同じなのですね。そうすると、浄化槽の性能を上げるには、微生物の研究が不可欠なのですね。

石田さん

もちろんそうですね。ただし、それだけではありません。重たいものは沈め、軽いものは浮かせるなど、物理的にゴミを除去する仕組みもありますし、微生物の死骸ともいえる汚泥の抜き取り作業なども行います。浄化槽の構造を合理化し、微生物の働きを最大限に高められるかが、浄化槽の性能に大きく関わります。

約60年間続く水の情報誌

水と暮らす編集部

「水泥新聞」や「水の話」など、水や浄化槽の情報を発信するコンテンツ制作もされていますが、どういった背景でつくられたのでしょうか?

石田さん

「水の話」はもともと社内報で、創刊は1963年です。その後、会社の規模の変化に伴い、社員間のつながりをフォローする目的や販売店といった取引先へのPRなど、発行の目的はその都度変化してきました。今ではその役割は水の大切さを多くの方と共有するという目的に変わっています。一方「水泥新聞」では、浄化槽業界のトレンドの共有や製品開発秘話を通して製品への想いを伝えることが目的で、浄化槽のプロの皆様に向けて制作しています。

水と暮らす編集部

情報発信を続ける中で感じたことはありますか?

石田さん

自分たちの知らないところで水をきれいにする、大切にする取り組みをしている人たちがいる。大きな発信ではありませんが、そういった人たちの想いが届いたらいいなと思って制作をしています。

他にも、社員教育はもちろん浄化槽の施工業者さんやメンテナンス業者さんの研修、一般向けに浄化槽の講演をおこなってきました。そうした発信が評価され、2008年には「第10回日本水大賞(経済産業大臣賞)」を受賞することができ、少しは水の大切さや人の想いを広められているのかなと思っています。

世界の水環境をきれいにするために

(写真提供:フジクリーン工業株式会社)
水と暮らす編集部

海外展開もされているそうですが、技術支援などを通して日本とどのような違いがあると感じていますか?

石田さん

私たちは企業の使命として、子どもたちが水や泥にまみれて遊ぶことができ、生物があふれる小川や水辺の回復に貢献できる排水処理システムを世界中に普及することを目指しています。

日本では浄化槽における制度や市場が確立しており、高い知識と技術をもつ浄化槽の維持管理業者が多くいらっしゃいます。しかし海外での浄化槽の認知度は高くなく、メンテナンスの技術や知識を持つ維持管理業者も多くないのが現状です。私たちの製品を導入してもらい、現地でメンテナンスを行うことができるような支援活動も行っています。

浄化槽は設置して終わりではなく、メンテナンスをしなければ正しく排水を処理することはできません。そのため、アメリカ、オーストラリア、ドイツなど、ある程度浄化槽の管理の仕組みが整った先進国を中心に事業を展開しています。

新興国にこそ浄水技術が必要だとは思っているのですが、衛生的なトイレや飲み水がない場所に排水処理の話をもっていっても、うまく機能しないのです。

海外では処理した水を地下土壌に浸透させる国が多いため、地下水が汚れ、安全な飲み水が確保できない地域もあります。排水をきれいにしないと、飲み水が手に入らないというサイクルにあるため、浄化槽を通して海外で安全な水を提供できる仕組みづくりに挑戦していきたいとも思っています。