地元の素材を生かした新たな酒造りに挑み続ける愛媛「水口酒造」

2021.07.12
道後地区の酒蔵。(写真提供:水口酒造)

日本有数の温泉地である、愛媛県松山市の道後地区で、125年もの間酒を造り続けている「水口酒造」。適度にキレのある中硬水を使いながら、地元の食事に合う優しくまろやかな味わいの酒造りを目指しています。今回は日本酒を筆頭に、焼酎、ビール、ジン、リキュールといったさまざまな酒造りに励む専務取締役の水口皓介さんに、水の味わいや役割、酒造りのこだわりについてうかがいました。

水と暮らす編集部

水口酒造はどのようにして始まったのですか?

水口さん

道後温泉のシンボル「道後温泉本館」が誕生したのが1894年。その翌年に、本館から徒歩5分ほどの場所に創業しました。当時、大衆浴場として栄えた本館の湯治客に酒を提供したことが始まりといわれています。以来、温泉とともに歩み続け、昨年2020年に125周年を迎えることができました。

創業当時の水口酒造
創業当時の水口酒造。(写真提供:水口酒造)

ミネラルを豊富に含んだ石鎚山の恵みの水

水と暮らす編集部

酒造りに使う水はどのような性質のものですか?

水口さん

西日本最高峰である石鎚山の豊富な伏流水を使用しています。適度なミネラル感のある硬度100の中硬水で、まろやかで優しい味わいが特徴です。

ちなみに、愛媛全体が豊かな湧き水に恵まれてもいることから、県内に35の酒蔵がありますが、その数は“四国一の酒どころ”と呼ばれるほどなんです。

水と暮らす編集部

多くの酒蔵が恩恵を受けている名水を取り扱ううえで気をつけていることはありますか?

水口さん

松山は気温が高くなりやすいので、温度管理は特に気をつけています。

一般的に、酒造りの仕込み水は5~10度程度が適温ですが、井戸からくみ上げる伏流水はだいたい15度。酒蔵としてはめずらしく当社では製氷業も行っています。その強みを生かして、氷を使った仕込み水で適温を保てるように管理しています。

水と暮らす編集部

自社の氷を使った温度管理が特に生かされている工程はありますか?

水口さん

米に水分を吸わせるために必要な「洗米」での温度管理が重要で、氷を溶かした冷水を駆使し、温度を一定に保っています。そうすることで、米に吸わせたい理想の水分量を1%前後の誤差まで抑えることができるのです。

それでも誤差が出てしまう場合は、理想値より吸水量が少ないときには霧吹きをかけ、多い場合には麻布の上で水分を蒸発させたりして調整をしています。

麻布の上で水分を蒸発させる“枯らし”の様子
麻布の上で水分を蒸発させる“枯らし”の様子。(写真提供:水口酒造)

地域に愛される酒蔵ならではのおいしい水

水と暮らす編集部

水と同様、まろやかで優しい味わいの氷は酒造り以外でも需要がありそうですね。

水口さん

市内のバーやスナックでも好評で、多くのお店で使っていただいています。

氷に限らず当社の水も近隣の方に好評で、年会費3000円の「道後 にきたつ 仕込み水蔵部」の会員様には、当社の伏流水のくみ放題サービスも提供しています。

飲料水としてはもちろん、米を炊いたりコーヒーをいれたりする際に使っていただくと、水のおいしさがより楽しめますよ。

水と暮らす編集部

水口酒造のお酒が楽しめる直営店を2店舗展開されていますが、水のおいしさをより楽しめるメニューはありますか?

水口さん

お冷や氷の他、調理場では炊飯やそれ以外にも仕込み水を使っています。また水割り用の水も同様で、当社の酒との親和性を考えると、よりおいしく味わっていただけると思います。

また夏季限定ですが、仕込み水を凍らせてつくる特製のかき氷も人気です。

「道後 にきたつ 仕込み水蔵部」の会員に提供する伏流水
「道後 にきたつ 仕込み水蔵部」の会員に提供する伏流水。(写真提供:水口酒造)

地元の味と地産地消を大切にした酒造り

水と暮らす編集部

水口酒造の手がける日本酒はどのような味わいですか?

水口さん

当社の日本酒は全体的に適度なキレを残しつつも、優しい味わいです。

その理由は、地元の料理と相性がいい酒造りを心がけているからです。愛媛では料理に砂糖を入れる習慣があり、卵焼きやうどんの出汁(だし)なども甘いんですよ。

水と暮らす編集部

酒造りで使う素材も地元産を意識されているのでしょうか?

水口さん

“地産地消”はどの酒をつくるときにも大切にしているキーワードです。

日本酒に使う米はもちろん、焼酎用の麦や、ビールの風味づけに欠かせないゆずやオレンジなど、可能なかぎり地元の素材を使いたいと思っています。

長なすやそらまめといった松山の特産から発想を得て誕生した焼酎もあるほどです。

地元のゆず
ゆずをはじめ、地元の素材にこだわったもの造りをしている。(写真提供:水口酒造)

一番人気は「仁喜多津 伊予の薄墨桜」

水と暮らす編集部

水のおいしさがわかる、代表的な商品は何ですか?

水口さん

ピンク色のボトルが目を引く「仁喜多津 伊予の薄墨桜」です。

愛媛県産の「松山三井」という、上質な酒をつくりやすい大粒の酒造好適米を使って、米の甘みとうま味が感じられつつも、適度なキレもある、すっきりとした飲み口に仕上げています。商品名は地元の古刹(こさつ)・西法寺に咲く、淡くはかない薄墨桜の伝説に由来しています。

食中酒に向いていて、特に鯛などの白身魚とよく合いますよ。

「仁喜多津 伊予の薄墨桜」
「仁喜多津 伊予の薄墨桜」。(写真提供:水口酒造)

賞にも輝いた蔵一番の食中酒「仁喜多津 純米吟醸酒」

水と暮らす編集部

「International Wine Challenge 2021」の純米吟醸部門と「全米日本酒鑑評会2020」の吟醸部門で金賞を受賞した「仁喜多津 純米吟醸酒」の魅力を教えてください。

水口さん

当社がてがけるラインナップの中でも食中酒に最適な商品です。

適度な吟醸香があり、キレのある味わいの「仁喜多津 純米吟醸酒」は、一杯ごとに口の中をリフレッシュしてくれます。

仁喜多津 純米吟醸酒
「仁喜多津 純米吟醸酒」。(写真提供:水口酒造)

飽くなき研究と新商品開発への挑戦

水と暮らす編集部

今後さらに取り組んでいきたいことはありますか?

水口さん

「暖簾(のれん)を守るな、暖簾を破れ」というモットーに沿って、新しいことにどんどん挑戦していきたいです。

現社長の父は、日本酒の酒蔵にとって、当時良しとされなかった地ビールや焼酎造りを始め、現在では核となる事業にまで成長させました。その流れをくむべく、この秋に出荷予定なのがラム酒です。

3年ほど前から企画し、使用している愛媛産さとうきびの甘みが引き立つような味わいと、良い香りを目指し、現在は樽でねかせています。

今後は当社で製造しているクラフトジンのバリエーションを増やし、ウォッカやウイスキー造りにも取り組んでいきたいです。地方の小さい蔵ながらも、道後温泉を訪れるお客さまのニーズに応えていきたい。

日本酒だけにこだわった酒造りもすばらしいですが、当社の培ってきた技術と能力を活用し、さまざまな種類の酒造りを通して愛媛の魅力を発信していきたいと思います。

現在樽貯蔵中のラム酒
今秋の出荷に向けて、現在樽貯蔵中のラム酒。(写真提供:水口酒造)

水口酒造

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