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独自の広報戦略で琵琶湖の大切さを伝え、水道水を提供する大津市企業局

2021.07.28

滋賀県というと日本最大の湖、琵琶湖があります。県の6分の1を占める湖は、人々にとって親しみのある水辺であると同時に、大津市のみならず関西圏の水源となるいのちの湖。

大津市企業局では、日々水道水を作り、市全体の水を供給しています。同時に未来を見据えて「水道水を維持するには、琵琶湖を守らないといけない」という意識を市民にもってもらえるように、独自の広報戦略に力を入れています。

今回は、大津市企業局経営戦略室の仁志出彰子(にしでしょうこ)さんにお話をうかがいました。

トップの画像は大津市の浄水場(出典:大津市企業局公式サイト)

水道管工事の様子
水道管工事の様子。(画像提供:大津市企業局)
水と暮らす編集部

大津市企業局では、大津市の水道水を作っていますよね。

仁志出さん

はい。琵琶湖の水を水源として水道水を作り、みなさまに提供しています。

私たちの浄水場では、水道水の水質検査技術を保証する認定制度『水道GLP』を取得していて、より正確な水質検査ができるんです。そのため他の市町村から水質検査の依頼を受けることもあるんですよ。

水の良しあしは見てわかりづらいものなので、信頼性の高い検査をできるように、大津市企業局では水道GLPの認定を取得しています。

水と暮らす編集部

水道GLPという目に見えるものがあるんですね! 地震など災害時の対策は何かされているのでしょうか?

仁志出さん

計画的に地震に強い水道管に取り換えています。古い水道管だと地震の衝撃で折れて、水道の供給が止まってしまうことがあります。『耐震管』という地震に強い水道管なら、揺れてもぐにゃぐにゃ曲がって折れないんです。

それでももし水が止まってしまったときには給水車もスタンバイしていて、日ごろから給水車で水を提供する訓練も行っています。また、台風などの豪雨によって雨水が下水道管に大量に流れ込むと、マンホールから汚水があふれたり浸水被害が起こったりするので、下水道事業の面からも雨水を貯水して、水害対策をしています。

知ってほしい、本当はおいしい水道水

水と暮らす編集部

水道水が苦手な人もいますが、大津市の水道水の味はどうでしょうか?

仁志出さん

人によって感じ方は違いますが、水のおいしさの基準には味、温度、においなどがあるかと思います。

例えば、夏は水道管自体が地熱で温まるので、蛇口から出てくる水がぬるくてまずいと感じることってありますよね。つまりおいしくないと感じる理由は、温度によるものが大きいと思っています。

夏の水道水でも冷やして飲んでもらえたら、ちょっとした市販の水と違いがわからないくらいおいしいんですよ。

水と暮らす編集部

クオリティの高い水道水を日々作られている大津市企業局さん、本当にすごいですね!

仁志出さん

ありがとうございます。ただ、この先の未来にわたって水を守り続けるには、水源の琵琶湖を大切にしていかないといけません。

水道水のクオリティを維持するためには、私たちの努力だけではなく、市民であるお客さま一人一人が意識して琵琶湖を守り、水を大切にすることも必要です。ですので、みなさまには水道水への理解を深めてもらいたいなと思っているんです。

琵琶湖を守ることで水道水を守る

仁志出さん

琵琶湖は、いつもすぐそばにある水辺として市民のみなさまに親しまれていますが、その水が自分の飲む水道水になっているとはっきりと意識している人は、あまりいないんじゃないかなと感じています。

生態系に影響を及ぼす『海洋プラスチックごみ問題』がよく取り上げられますが、琵琶湖にもプラスチックごみがあり、湖底からもたくさん出てきているんです。

琵琶湖の場合は海水と違って、湖水が飲み水になります。湖岸の清掃活動などを通して水源である琵琶湖をきれいに保つことが、自分たちの水道水のクオリティも保つひとつの方法だということを市民のみなさまにも伝えていきたいです。

使い捨てを減らすオリジナルマイボトルの活動

子どもたちによって制作されたマイボトル
子どもたちによって制作されたマイボトル。(画像提供:大津市企業局)
仁志出さん

プラスチックごみをなくすひとつの活動として、マイボトルの利用を勧めています。マイボトルを使うことで使い捨てのペットボトルが減り、結果としてプラスチックごみが減るというわけです。

無料でマイボトルを配布しているところは他にもありますが、私たちはオリジナルのマイボトルを作って、それを使ってもらえるように活動をしています。例えば卒園制作として、子どもたちにオリジナルのマイボトルを作ってもらい、家族にプレゼントしてもらうといったことです。

子どもが手作りすることで、親にとっては世界にひとつだけの思い入れのあるボトルとなります。絶対に捨てられないボトルにすることによって、使い捨てをやめるような意識改革の取り組みをしているんです。

大津市では街中の冷水機の設置を進めていますが、2021年度からマイボトルへの給水がしやすい専用の冷水機も徐々に設置していく予定です。ぜひマイボトルで、冷えた水を飲んで、水道水のおいしさにも気づいてもらえたらいいなと思います。

子どもたちがマイボトルを制作する様子
子どもたちがマイボトルを制作する様子。(画像提供:大津市企業局)

自然の循環の仕組みを教える、『びわ湖産の土』

びわ湖産の土が使われた花壇
びわ湖産の土が使われた花壇。(画像提供:大津市企業局)
水と暮らす編集部

『びわ湖産の土』というものを製造されていますが、どういった土でしょうか?

仁志出さん

琵琶湖から取水したときに一緒に上がる砂や泥を乾燥させた後、栄養を混ぜて土にしたものです。

基本的には学校や公共施設に無償で提供して、花壇などに使ってもらっています。この土は自然の中で循環しているんです。花を植えたら、花壇の土は雨や風で琵琶湖に流されて、それが浄水場で湖水と一緒にくみ上げられ、また土が作られるといった感じです。この循環の仕組みをびわ湖産の土を使ってもらうことで、子どもたちに伝えているんです。

水と暮らす編集部

子どもたちの心に残り、自然環境のことを考えるきっかけとなる取り組みですね。

仁志出さん

マイボトルやびわ湖産の土などを通して、子どもたちの心を育みながら水道水をめぐる環境について伝えることは、未来への投資になるんじゃないかなと思っています。

広報戦略に力を入れるわけ

10分でわかる浄水場
▲動画・Water Journey 「水道水が届くまで」(画像提供:大津市企業局)
水と暮らす編集部

持続可能な社会を目指して、国連で定められた世界共通の目標であるSDGsを使った広報戦略を進められていますが、それはなぜなのでしょうか?

仁志出さん

50年先も水道水が飲めるように、琵琶湖を大切にして未来につないでいきたいという想いがあり、持続可能な社会を目指したSDGsの考えと重なるからです。

私たち独自のSDGsへの活動としては、先ほどお話ししたマイボトルびわ湖の産の土を通した取り組みがあります。

水と暮らす編集部

水道局というと、広報紙などわりとカタめのデザインだったり、難しい言葉が出てきたりで、少しとっつきにくいという印象があります。ですが大津市企業局さんは、わかりやすくて親しみやすい発信をされていますよね。

仁志出さん

はい。おそらく、水道局で広報戦略をもって取り組みをしているところはほとんどないと思うんですね。水道局には技術者が多いので、使う言葉なども少し難しくなりがちだと思います。

水道水を将来も作り続けていくために、市民のみなさまにも水を守るために今するべきことは何なのかを、自分事として意識してもらいたいと思っているので、ちゃんと伝わるように努めています。

水と暮らす編集部

たしかに広報紙や動画もわかりやすいですね。

仁志出さん

そうですね。広報紙は一度リニューアルしていて、おしゃれなデザインにしたり表紙に人の写真を使ったりと、親しみやすい感じに変えました。

水と暮らす編集部

水道のことを伝える広報紙『パイプライン』第116号では『水道水って飲めるの?』という、ちょっと斬新なタイトルのものもありましたね。

仁志出さん

そうなんです。そのときは、なぜ水道水がおいしくないと感じるのかについて記事にしました。水道水って、飲み水としてはイメージが悪いですよね。

それを広報の力で改善できたらと思っているんです。水道水を提供する側の、お客さまには見えない部分のがんばりを、どうにかして伝えたいなっていう想いがあります。

また、浄水場の紹介をするオリジナル動画、『水道水が届くまでhttps://youtu.be/sDieq95-I_k では、あえて水槽の名前をまったく使わないようにしました。

施設内には、大きな水槽がたくさんあるので、浄水場見学では通常、『凝集剤沈殿池(ぎょうしゅうざいちんでんち)』とか『混和池(こんわち)』といった水槽の名称が必ずといっていいほど説明の中に出てくるんですが、何だか難しく感じませんか?

難解な名称が入ることで余計に混乱させて理解を妨げるので、水槽名は使わないようにしたんです。

技術者ではない広報の私としては、当局の技術者にヒアリングをして、私なりの言葉にかみ砕いて伝えていくのがみなさまに伝わる一歩かなと思っています。

今後の活動は?

水と暮らす編集部

今後の活動は何かありますか?

仁志出さん

6月1日からの1週間が水道週間なんですが、滋賀県内でスーパーを展開する『平和堂』さんとコラボして、水道水のオリジナル動画の上映とマイボトルの手作り体験をする予定です。

滋賀県では、7月1日を『びわ湖の日』と制定しているんですが、2021年は「びわ湖の日」ができて40周年なので、そこでも何かできるかなと考え中です。

蛇口から水が出るのは当たり前なので、お客さまからわざわざ『ありがとう』と言われることはないですが、この当たり前の生活を守るということに使命感をもってやっています。

蛇口の向こう側は市民のみなさまからは見えない部分ですし、水道管も地面の下に埋まっていますが、お客さまの見えないところで、これからもがんばっていきます。

まとめ

毎日の水道水の提供だけでなく、広報活動を通じて水道を届ける人々の仕事や琵琶湖を守っていくことの大切さなどを知らしめるとともに、市民の意識を変えるところから水を守ることにも力を入れている姿勢が伝わってきました。水道水のありがたさが感じられるお話でした。

大津市企業局公式HP


【オリジナル制作動画のご紹介】

オリジナル動画Part1のカバー画像
オリジナル動画Part1のカバー画像(画像提供:大津市企業局)

水道水のことやSDGsのことが、わかりやすい言葉で短い動画にまとめられています。子どもだけでなく、大人にとっても学べて楽しい動画です。

Part1 Water Museum「君に知ってほしい水のこと」 
Part2 Water Journey 「水道水が届くまで」
Part3 Waterworks Stories 「みんなが知らない浄水場のセカイ」