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美しい水と歴史ある絶景を巡る。山口県美祢市の新たな魅力に出会う旅

2021.06.29

山口県の中央に位置する美祢(みね)市。広大な石灰岩の台地である秋吉台(あきよしだい)や、日本有数の規模を誇る洞窟・秋芳洞(あきよしどう)が有名で、1年を通して観光客が多く訪れる地域です。

しかし、意外と知られていないのがこの場所と水との結びつき。人々を引きつける風景には水が大きく関わっており、市内の至るところから湧き水が出ています。

美祢市の水にまつわる歴史と魅力について、美祢市自然保護協会会長の中村 久(なかむら ひさし)さんと、一般社団法人 美祢市観光協会の永谷青空(ながたに あおぞら)さんにお話をうかがいました。

(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)

水と暮らす編集部

美祢市には湧き水の出る場所がいくつもあるそうですね。なぜそのような環境なのでしょうか?

中村さん

美祢市にある秋吉台は石灰岩でできた台地、いわゆる「カルスト台地」と呼ばれる場所です。石灰岩地の上に雨が降ると、雨水が岩の割れ目を通って地下に浸透していきます。その水が秋吉台よりも低い位置にある場所に湧き水として出てくるんです。この湧き水は市内に何十ヵ所もあるんですよ。

永谷さん

おそらく「湧き水」というと、ある程度の水量があってその水を飲んだりくんだり……といったイメージがあるかもしれません。

でも美祢はちょっとした道端にも水が出ている場所がたくさんあるんです。この観光協会の建物を出たところにもありますね。飲料水として使える湧き水もあれば、観光客の方が「なぜ泡がぷくぷく出ているんですか?」と質問されるほどの、非常に小さな湧き水もあります。

水と暮らす編集部

大小を問わずあちこちから水が出ているんですね。

中村さん

そうなんです。その中で代表的なものが観光客にも人気の「別府弁天池(べっぷべんてんいけ)」ですね。

この池には伝説があって、弁天池の周辺は「別府村」という村だったそうです。その村の地主が土地を開墾して田んぼを作ったのですが、水不足に悩んでいて。でもある晩、枕元に白髪の翁(おきな)が立って「明日の朝起きたら山へ行き、わしが立てた杖を引き抜きなさい。そこから水が湧く」というお告げをもらい、地主が言うとおりにしたら水が出てきたそうなんです。

水と暮らす編集部

おもしろいですね。伝説だとしても、水がこの地域にとって重要なものであり、池が神聖な場所ということがよくわかります。

中村さん

そうですね。池の横には広島の厳島神社にゆかりがある「別府厳島(べっぷいつくしま)神社」があって、鳥居も立っています。

そしてとにかく水の色がとてもきれいなんですよ。真っ青で、よくコバルトブルーといわれます。

別府弁天池
コバルトブルーに輝く別府弁天池。水が透き通っているので、かなりの水深があるにもかかわらず底がはっきりと見える。(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)
永谷さん

よく「インスタ映えする」ともいわれていて、若い方もかなり観光にいらっしゃっています。そして池の中には「ベニマダラ」という赤い藻が生えているんですよ。きれいな水の中にしか生えないもので、初めて見る人はコケだと思わずに赤い石が転がっているように思うみたいですね。

池は遠くから見るとコバルトブルーなのですが、実際は澄み切った透明の水なので、近づくとベニマダラの赤色に変化します。

中村さん

もちろん若い人にも人気なのですが、弁天池の美しさは老若男女問わず心引かれますね。

水と暮らす編集部

市の中心部からも行きやすいのでしょうか?

永谷さん

はい。こちらの秋吉台観光バスセンターから自転車を使っていただいたら、20〜30分くらいです。山口県は道が良くて走りやすいとよくいわれますし、貸し出しも1日2,000円で行っていますので、サイクリングがおすすめですよ。

池の底の「ベニマダラ」
池の底の「ベニマダラ」はまるで紅葉のよう。ひとつのスポットで色鮮やかな写真がいくつも撮れる。(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)

秋吉台・秋芳洞の壮大な景色は、雨によって作り出された

水と暮らす編集部

美祢市といえば秋吉台と秋芳洞ですが、その歴史や現在の風景に、水はどのように関わっているのでしょうか?

中村さん

秋吉台は3億5千万年の歴史があるものなので話し始めると長いのですが……その昔、南の暖かい海の中で秋吉台ができ始めました。海底の火山島周りに、石灰分を分泌するサンゴやフズリナなど多数の生き物が生息するようになり、それがサンゴ礁として発達したのです。

そのサンゴ礁は、海洋プレートに乗って北の方に運ばれ(大陸移動)、徐々に厚みを増し、やがて800mから1000mもの厚さがある石灰岩になりました。

そしてその石灰岩の層が大陸にぶつかり、海底から陸上に押し上げられたわけですね。それが秋吉台の始まりです。

その地下にある洞窟・秋芳洞は、石灰岩が雨水で溶かされたことによってできた空間なんです。最初は小さな水路のようだったものが少しずつ広がって、大きな洞窟になったんですね。

つまりカルスト台地は、水が作った地形なんです。秋吉台・秋芳洞は水のおかげでできたものといっても過言ではないですね。

また、秋吉台は洞窟のメッカ(聖地)などとよくいわれていて、昔から大学の探検部や研究会が頻繁に訪れています。

秋芳洞の入り口
秋芳洞の入り口付近にある「青天井」と呼ばれる大きな空間。外から入り込む光の反射で天井部分が青く見えることが名前の由来。(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)
水と暮らす編集部

まだまだ解明されていない部分がたくさんあるということですね。

中村さん

そうです。学術的な価値も高く、そういった意味でも魅力的な地といえます。

水と暮らす編集部

秋吉台を訪れるのにおすすめの季節はありますか?

中村さん

春夏秋冬いいんですよ! 2月の終わりに山焼きがあり、その後3月の終わりから4月にかけて若芽が生えてきれいな緑色に変わります。4月から5月はいろいろな花が咲き、中には珍しい種類のものもあります。緑が一番きれいなのが6月の中旬ですね。お天気がいいと本当にきれいな色で絶景です。

そして秋になると秋の草花が生え、冬は雪景色が格別です。石灰岩の上に積もる雪はとってもいいものですよ。

夏の秋吉台
夏の秋吉台。梅雨は白い石灰岩が灰色になるので、わざわざその時期を狙って訪れる通な観光客もいるそう。(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)
永谷さん

それぞれ良さがあるので「どの季節がいいか?」と聞かれると私たちもけっこう困ってしまうんです。

一つ例を挙げるとしたら、すすきが風の道のようになびいていくのがとてもきれいなので「写真ではなく、実際に来てご覧になってください」と秋をおすすめする場合もありますね。

中村さん

人それぞれ好きな季節があるので、全部見てみるのが一番です。でも、いつ行っても美しく、その人にとって最高の経験になると思います。「自分が行ったときがベスト」です。

美祢の水をはるばるくみにくる人も。名水を生かしたグルメが人気

水と暮らす編集部

美祢市の水の味にはどのような特徴があるのでしょうか?

中村さん

石灰岩の水なので、基本的にカルシウムが非常に多く含まれています。やかんで沸かすと中が白くなるくらいです。

水と暮らす編集部

すごいですね! 日本の水は軟水がほとんどですが、美祢市はカルシウムたっぷりの硬水が出てくるんですね。

永谷さん

いえ、実は飲みやすい軟水が出てくる場所もたくさんあるんです。

美祢市の三大湧き水と呼ばれているものがありまして、一つめは先ほどの「別府弁天池」。残り二つは「半田弁天(はんだべんてん)」「焼の河内(やけのこうち)」の水です。

これらの水は軟水に近い成分で「ここの水じゃないとだめ」という方がわざわざくみに行かれたりとか、貯水されているご家庭もあったりするくらいです。コーヒーはその水でしか飲まないという方もいます。

中村さん

そうですね。私が住んでいる八代(やしろ)という地域は、喫茶店のマスターが山口の各地から水をくみに来るんですよ。北九州から来る方までいます。それくらいおいしいんです。

でも、もちろん味の好みは人によって違います。例えばお酒だと硬水で作ったものが好きな人もいるし、軟水で作ったものが好きな人もいますよね。

永谷さん

そうですね。以前、石窯で焼くパンの生地をこねる際に硬水を使うと、とてもおいしく焼き上がるという話を聞きました。本場のフランスでも同じようにカルスト台地の湧き水を使うことがあるそうなので、その点を考えると美祢市の硬水も非常に魅力的といえますね。

水と暮らす編集部

好みや用途によって水を使い分けられるんですね。都市部にはなかなかない暮らしだと思います。

名水を生かしたお土産やグルメもあるそうですね。

永谷さん

はい。「美祢魅力発掘隊(地域おこし協力隊)」という移住者のチームがあるのですが、そのメンバーの井上さんという方が作られた「水ノ雫(みずのしずく)」という琥珀糖(こはくとう)は湧き水を使ったものです。こちらをお土産にされる方がたくさんいらっしゃいます。

水ノ雫
人気のお土産の一つである「水ノ雫」。レモン・プレーン・イチゴの3種類があり、味はもちろん見た目の美しさも楽しめる。(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)
永谷さん

グルメのおすすめは、別府弁天池の水を使って育てたニジマスと地域の食材を使って作る「ますバーガー」というものや、ニジマスを揚げ春巻きのように包んだ「ますスティック」などですね。「弁天名水コーヒー」も人気があり、どれも別府弁天池入り口の売店で販売しています。

水と暮らす編集部

別府弁天池の横には釣り堀もあるそうですね。そこで釣ったお魚は食べられるのでしょうか?

永谷さん

もちろん食べられます。特にお子さんがいる場合などは、自分が釣った魚を近くのお店で調理してもらって食べるという経験ができるととてもいいですよね。

でも近くに「弁天会館」という食堂もあって、そちらでお食事をされる方がたくさんいらっしゃいます。ニジマスはとても足が早い魚なので、基本的にその場で焼くかしっかりと塩漬けにするものなんです。でも「弁天会館」ではニジマスをお刺身のようにいただく「せごし」という珍しい料理が食べられます。

「せごし」は本当に地元で、しかもお店でしか食べられないものなんですよね。今はいろいろなお持ち帰りグルメがありますが、あえてここで食べて帰っていただくというのもいいと思います。

水と暮らす編集部

こういったご時世だからこそ、ということですね。

ます定食
「弁天会館」で食べられる「ます定食」は、素材の鮮度が命。きれいな水で育ったニジマスはくさみもほとんどない。(写真提供:一般社団法人 美祢市観光協会)
永谷さん

そうですね。なのでやはり実際に来ていただいて、歴史の話に耳を傾けながら料理を楽しんでもらえたらうれしいです。

中村さん

来てみたらきっと美祢のすばらしさがわかりますよ。

まとめ

「秋吉台がある場所」として知られる美祢市。目に見える風景だけに注目するのではなく、その歴史や水の特色を知ることで、特別な楽しみ方ができるでしょう。ぜひ、美祢市の新たな魅力を発見する旅に出発してみてください。

一般社団法人 美祢市観光協会

美祢市役所
秋吉台国定公園 公式サイト

美祢市立秋吉台科学博物館

美祢市自然保護協会

弁天会館