• トップ
  • >
  • 水を知る
  • >
  • 九州北部豪雨を乗り越えた、あさくら観光協会が伝えたい朝倉の水の魅力

九州北部豪雨を乗り越えた、あさくら観光協会が伝えたい朝倉の水の魅力

2021.06.23

福岡県で一番の湧出量を誇る温泉地「原鶴温泉」があったり、おいしい水が評価されアジアでもっとも敷地面積が大きいビール工場が作られたりと、水の恩恵を大きく受けている福岡県朝倉市。
過去には大きな水害もありましたが、そのたびに力強く復旧し、水と上手に付き合っていこうとする姿はまさに今回の特集企画のコンセプト「水と暮らす」を体現されています。

そんな朝倉の水について、あさくら観光協会事務局長の里川径一(さとがわ・みちひと)さんに詳しくお話をうかがいました。

トップの画像は、朝倉市の観光スポットである三連水車という揚水水車。(写真提供:あさくら観光協会)

水と暮らす編集部

朝倉市が水をアピールするようになった背景は何でしょうか?

里川さん

2017年に九州北部豪雨にみまわれ、死者33名、行方不明者2名、全壊・半壊した家屋など被害も多く、朝倉市は甚大な影響を受けました。しかしそんななか、約1年で延べ5万人のボランティアの方にきていただきました。被災から3年、立ち上がり復興し始めている朝倉の今を伝えていきたいという思いがありました。

実際、朝倉には福岡で一番湧出量が多い原鶴温泉があったり、水がすごく豊かでおいしいのでアジア最大の敷地面積をもつキリンビールの福岡工場があったり、水と縁が深い地域なので水の恩恵もすごく受けています。そのため、水のすばらしさを知ってもらいたいし、感じてもらいたいねということで『朝倉、みず物語』のモニターツアーをしたり、冊子を作ったりしてアピールするようになりました。

朝倉、みず物語
『朝倉、みず物語』。(写真提供:あさくら観光協会)
水と暮らす編集部

冊子の『朝倉、みず物語』に絵葉書がついていますが、絵葉書をつけた理由は何でしょうか?

里川さん

みんなでアイデアを出し合っているときに、最近あまり葉書を出さないけど、朝倉って人が優しいという声もいただくし、コミュニケーションのことを考えたらネットでぽんと送るんじゃなくて、大切な人に葉書を出してもらうのに使っていただけたら出した方にも葉書を受け取った方にも印象深いのでは!と思いつきました。今はネットが主流なので、時代的には逆戻りになるかもしれないけど、こういったコミュニケーションも大事にしたいよねという思いがあります。

見どころは江戸時代から続く山田堰と三連水車

山田堰
山田堰。(写真提供:あさくら観光協会)
水と暮らす編集部

散策マップの見どころをいくつか教えてください。

里川さん

まずは山田堰です。福岡出身の中村哲医師がアフガニスタンを支援する活動をされていたのですが、この山田堰をモデルにアフガニスタンに同じものを作って国際協力をされていました。

中村先生がお医者さんとして現地に行かれたときには、水がなくて医療どころではなかったそうです。井戸を掘る活動もされてたんですけど、井戸では追いつかない。大きな川が流れているけど、水がうまく引けてなくて、何かいい方法はないか考えていたときに、山田堰を見つけられたそうです。

江戸時代に作られたものですが、平成初期に補強作業をされて今も筑後川の水を引く堰として活躍しています。大きな災害でも壊れていないんです。アフガニスタンでも使われているということでさらに注目を浴びて、世界かんがい施設遺産にも選ばれました。

また、朝倉には三連水車という揚水水車が残っており、実は三連水車の方が観光スポットとしては有名だったんですが、水車が回っているのは実は山田堰があるから。以前より日本の三大暴れ川の一つでもある筑後川が朝倉市に流れていて、これらを使って水を上手に活用していました。

「筑後川の上に水車を作って水を引けばいいじゃん」と思うかもしれませんが、暴れ川から水を確保するのは大変なんです。水はあるのに使えない……。その暴れ川の水を利用可能にしたのが先人の知恵の集大成でもある山田堰。江戸時代に作られた山田堰が、現代も現役で残っているということ、そしてその技術が朝倉だけでなく、アフガニスタンでも生きているというところにぜひ注目してほしいですね。現在、過去、未来にわたるストーリーがここに来ると感じられます。

三連水車
三連水車。(写真提供:あさくら観光協会)
水と暮らす編集部

おすすめスポットを回るには所要時間はどれくらいあったらいいでしょうか?

里川さん

原鶴温泉という宿泊地もありますし、秋は柿やぶどうなどのフルーツ狩りもできます。温泉に一泊だけでは物足りなくて、2泊3日で楽しみたいといってくださる方も多くいらっしゃいます。

水と暮らす編集部

海外からの観光客も多いですか?

里川さん

海外の方にも楽しんでもらっています。「筑前の小京都」と呼ばれる秋月というところがあるんですけど、観光地だけど人がちゃんと暮らしている雰囲気を味わえる場所でもあるので、そういうところに定住してゲストハウスを作ったりしている方もいますね。「日本中あちこち周ったけど、ここが好きで住み着いてる」という方もいます。秋月は桜の時期は桜のトンネルができたり、紅葉も美しくていいですよ。

身近すぎて気付かなかった水の魅力

水と暮らす編集部

朝倉の水はひと言で表すと何が魅力でしょうか?

里川さん

キリンビール福岡工場の方に「なぜここに工場を作ろうと思ったんですか?」と聞いたら、「水がおいしいから」と言っていただきました。フルーツや農産物も豊富に採れ、ホタルが乱舞したりします。地元の私たちはあまり意識していませんでしたが。私たちが当たり前と感じている水の魅力がたくさんあるようです。ぜひそんな魅力をみなさまに感じていただき、私たちに逆にまた教えていただきたいくらいです。

水と暮らす編集部

今後、水について取り組んでいこうとしていることは何でしょうか?

里川さん

水害がありましたが、現在は復旧も進んでいるので、筑後川を使った活動としてカヌー体験やスタンダップパドルボードという大きなサーフボードに立ってこぐ体験、川の上を自転車をこぐように走れるウォーターサイクルという体験など水を使ったアクティビティを宿泊された方や観光の方に提供しようという準備を進めています。

ウォーターサイクル
ウォーターアクティビティのひとつであるウォーターサイクル。(写真提供:あさくら観光協会)
水と暮らす編集部

水害対策は何かされているのでしょうか?

里川さん

個人ができることはなかなか限られていますが、県の支援で続いている工事もあって、それが終わったら「川が危ない」とか「水辺は怖い」じゃなくて、水と親しむということを子どもたちに伝えていきたいという話があったり、仲間と一緒に川遊びの楽しさと共に、防災や川との付き合い方を伝える団体を作って活動しています。

水と暮らす編集部

最後に朝倉の水でアピールしたいことを教えてください。

里川さん

筑後川の横にある原鶴温泉でぜひ温泉やウォーターアクティビティを楽しんでもらい、朝倉のおいしい水で育ったフルーツとかおいしいお酒を召し上がっていただけたらなと思います。

また、朝倉は日本書紀にも出てきて、歴史的にも深い縁があります。「朝倉宮」という宮が九州の朝倉にあった時代があり、中大兄皇子や中臣鎌足もその朝倉宮で過ごした時期があるといわれています。ここは水も豊かで、農産物もたくさん採れるというのが、宮を構えた理由だと思うんですけど、そういった歴史があるのも水があるおかげかなと思います。人間は水がないと生きられないですからね。

原鶴温泉
原鶴温泉。(写真提供:あさくら観光協会)

まとめ 

全国的に大きなニュースとして取り上げられていた九州北部豪雨では、大きな被害を受けたと聞いて胸が痛くなりましたが、水を怖がるのではなく水と親しんでいこうという前向きな姿勢にとても感銘を受けました。
原鶴温泉や山田堰、フルーツ狩りなど見どころがたくさんありますし、読者の皆さんも機会があればぜひ足を運んでみてください。
あさくら観光協会事務局長の里川さん、貴重なお話をありがとうございました。