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お酒の良し悪しは水で決まる。新潟・朝日酒造が語る酒蔵と水源の共存

2021.06.01

新潟県長岡市にある朝日酒造。代表銘柄「久保田」が有名で、1830年創業の老舗酒蔵です。酒造りを始めた江戸時代の頃から、常に地域の水、自然と共存しながら発展を続けてきました。まさに「水と暮らす」を長年体現してきた企業です。

今回は朝日酒造株式会社の取締役である平澤 聡(ひらさわ あきら)さんに、酒造りと水をテーマに詳しいお話をうかがってきました。

酒造りに重要な水
酒造りに重要な水(出典:朝日酒造株式会社公式サイト)
水と暮らす編集部

日本酒における水の重要性とは、どのようなところにあるのでしょうか?

平澤さん

通常、日本酒のアルコール分は15%程度で、残りの約80%は水なんです。お酒の良し悪しは水で決まる部分がとても大きいと思います。

水と暮らす編集部

水の良し悪しでもっとも大事な部分はどこなのでしょうか?

平澤さん

とくに大切なのは鉄分が入っていないことです。水に鉄分が入っていると、お酒が赤く変色し、香りが大きく損なわれます。水道基準でも鉄分量には基準がありますが、お酒だとその基準はコンマが違うんです。

水と暮らす編集部

水質を調整しながら、酒造りをすることもあるんですか?

平澤さん

酒造り用に水質をその都度調整して……ということは、基本的に行いません。どちらの酒蔵も、その土地の水をそのまま使うわけです。酒蔵によって使っている水が違うことが、各酒蔵でお酒の味が違うひとつの要因となっています。水が変われば、お酒の味が変わる。

水と暮らす編集部

酒蔵に湧く水が、お酒の特徴のひとつになっているんですね。

平澤さん

日本酒は他の種類のお酒と比べても、調整するポイントが山ほどあります。自分たちでコントロールしていく。そのベースになるのは酒造りに使っている水なんです。水をコントロールすることはないので。

酒造りは自然と寄り添い、会話しながら

酒造りの工程
酒造りの工程 (出典:朝日酒造株式会社)
水と暮らす編集部

酒造りには杜氏の存在も重要ですよね。

平澤さん

自分たちでコントロールするところが多いので、それぞれの工程で要となる作り手の人間がいます。要の人間は、やっぱり常にそこにいないと、一貫した酒造りはできないんです。

水と暮らす編集部

つまり、どんなに技術のある杜氏さんでも酒蔵を移ってしまうと、すぐに順応はできないんですね。

平澤さん

そうですね。まずはその酒蔵のお水のことをつかまないといけません。一冬、二冬と経験すると、だいぶその地の酒のことがわかってくるでしょうね。

水と暮らす編集部

水のことがわかってから、技術磨きがスタートするわけですね。

平澤さん

お米も毎年、微妙に出来が違ってくるんです。毎年、気候は違いますからね。去年のノウハウをそのまま今年も使う、ということはできません。だから毎年、まずは今年のクセをつかむために、秋口は試行錯誤を繰り返しています。かなり大変な作業です。

水と暮らす編集部

なるほど。酒造りは、それほど自然と共存しているものなんですね。

平澤さん

まあ、酒造りは自然と寄り添い、自然と会話しながらやっていくものでしょうね。

水と暮らす編集部

酒造りの工程の写真には、杜氏さんの姿が目立ちます。どのような場面で人の手が必要になるのでしょうか。

平澤さん

今の時代、いろんなセンサーを使って、量や温度、湿度を測ったりすることはできます。データを取り出すことは機械でいくらでもできると思うんですが、そういったデータを総合的に判断することは、人間にしかできないんです。

水と暮らす編集部

酒造りにはその都度「判断」が求められると。

平澤さん

水の状態、蒸した米の仕上がり、米麹の状態。そういったものを考慮して、次に何をしなきゃいけないのかの判断は人間にしかできません。酒造りの工程で人間がいる場所は、いわば「関所」です。「先の工程に行っていいよ」とか、そういうことを判断しています。

水と暮らす編集部

それほど、つくるたびに変化があるってことなんですね。毎回決まったようにはならないんですね。

平澤さん

決まったようにはなりません。お酒造りは生き物ですから。

地域や時代とともに変化する酒造り

深みのある味わいが人気の「久保田 萬寿」
深みのある味わいが人気の「久保田 萬寿」 (出典:朝日酒造株式会社)
水と暮らす編集部

それにしても、地元と一心同体でお仕事をされてらっしゃるんですね。私ももう少し、地元の酒蔵を大切にしようかなと思います。

平澤さん

酒造りは地元の食文化、風土からも大きな影響を受けています。地域がもっているさまざまなものが、その地の酒をつくっているのだと思いますね。

水と暮らす編集部

お酒には、その地の食文化の影響も色濃く出るということですか。

平澤さん

今は飲食店もチェーン店が広がり、日本中同じ看板が並ぶ光景が普通になりましたね。地域の食文化が希薄になりつつある。昔はこの地域には甘口の酒が多いとか、辛口の酒が多いとかって、今より根強くあって。

水と暮らす編集部

地域の食との関わりが強かったんですね。

平澤さん

地域ごとに食べるものの差が少なくなってきました。さらにエスニックなものも普通に食卓に並ぶようになってきて、変化もしている。それによって、お酒の味わいも「どうあるべきか」というのを考えなければならないんですね。だから、昔の味のままでいいということもありえません。

水と暮らす編集部

時代によっても変化していくと。

平澤さん

変化がなければ、時代に取り残されるでしょうね。今生きている、今暮らしている方に満足してもらうにはどのような味がいいのか。それは我々の仕事のひとつでしょうね。

酒蔵にとって地元の自然は経営のバックグラウンド

自然を体験する子どもたち
自然を体験する子どもたち。(出典:朝日酒造株式会社)
水と暮らす編集部

「公益財団法人こしじ水と緑の会」という財団法人の活動をされていますが、酒蔵が環境活動を行うことにはどのような意味があるのでしょうか。

平澤さん

水源地がなくなると、酒造りができなくなるというのは大きな要因ですね。水源地が汚染されてしまってはいけないので、酒蔵にとっては蔵を囲んでいる自然環境は経営のバックグラウンドになるんです。

水と暮らす編集部

やはり酒蔵は自然と一心同体なんですね。

平澤さん

バックグラウンドを守らなければ、いくらお客様に支持をされても、お酒はつくれないんですよ。売れる売れない以上に、酒造りを続けるための環境を守ることが、経営課題として重要なんです。

水と暮らす編集部

具体的にどのような活動をされているんですか?

平澤さん

ホタルのいる里づくり」として、地域全体でホタルを保全しようという活動から始めました。ホタルはとても環境汚染に弱い生き物で、ホタルがいるということは、それだけ上流の水質が保たれているということになるんです。

水と暮らす編集部

公益財団法人を立ち上げるまでになった要因はなんでしょうか?

平澤さん

酒造りには水だけではなく、米も重要です。水は地元の水を使えば足りるのですが、米は新潟県内のいろいろなところから取り寄せないといけません。そうなると、新潟県内全体の環境を守らないといけないわけですね。それで公益財団法人を立ち上げて、この公益財団法人を介して、みんなで環境活動をやっていきましょうと呼びかけたわけです。

水と暮らす編集部

周囲を巻き込むための公益財団法人の立ち上げだったんですね。

平澤さん

自然を守るための資金提供、あとは調査活動。森の利活用を考えるようなこともやっています。

水と暮らす編集部

酒蔵って、まさに地元の水源、そして自然環境と共存していることがよくわかりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

朝日酒造株式会社
新潟県長岡市朝日880-1
公式サイト
https://www.asahi-shuzo.co.jp/
オンラインショップ
https://www.asahi-shuzo-online.jp/