社長の地元愛と遊び心から生まれた『水ゼリー』が話題! 洋菓子店「アーヴェント」
街全体の水流が富士山の伏流水をくみ上げて供給されている中で、富士吉田市上吉田地区に水源を持つ水を使い、洋菓子を作り続けている洋菓子店「アーヴェント(Abend)」。pH値7.8、硬度38mg/L、年間平均水温10℃というピュアな水が、なんと水道水として供給されているのだそう。そこでアーヴェントは、富士山の恵みのおいしさを伝えるべく『水ゼリー』を考案し話題に。
地元を愛し、お菓子を愛するアーヴェントのオーナー・輿石得郎(こしいし とくろう)さんに、水ゼリーの誕生秘話を聞かせていただきました。
トップ画像は、お店でしか食べられない生ケーキと、水の良さを最大限に発揮した紅茶 。(出典:Abend公式HP)
名水が水道から出てくる地域。海抜の高さもお菓子作りに最適
- 水と暮らす編集部
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アーヴェントさんのある富士吉田市は、富士山由来のお水が水道水として供給されているようですね。
- 輿石さん
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この街の水はすべて富士山を水源とした水であり、雨や雪解け水が染み込んだ地下水を水道管から供給しています。だからこの近辺にある川には富士山からの水は少しも流れておらず、流れているのは湖水から来るものだけなんです。
- 水と暮らす編集部
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お店で買うようなお水が水道から出てくるわけですね。
- 輿石さん
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そうです。お店で買うお水はフィルターを通しているけれど、ここの水道水はフィルターを通していないため、よりナチュラル。もともとカルキも雑菌も少なく、手を加える必要がほとんどないんです。pH値7.8、硬度38mg/L、年間平均水温10℃で、口当たりとしては非常に柔らかく飲みやすいと地元の人はいっています。
- 水と暮らす編集部
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洋菓子店のアーヴェントさんにとって、そのお水だからこそ良かった点というのはどんなところでしょうか?
- 輿石さん
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料理全般において、いい影響があります。うちは店内メニューで食事も出していますし、和菓子も作っています。お米を炊くことが多いですが、やはりお米の味は普通の水で炊くより断然おいしいんです。あともう一つは、この辺りは海抜がとても高い。海抜が800m以上なので気圧が低く、沸点も96℃くらいと低いため、お菓子の焼き上がりがとてもいいんです。
富士吉田市はうどんも有名ですが、それもお水の良さがあってこそなんですよね。粉と一緒にこねる水がおいしいのはもちろん、一年を通して水道から水温10℃という冷たい水が出るため、ゆでたうどんを締めるのにとてもいいといわれています。そして洋菓子を出しているうちの店にとっては、一緒に召し上がっていただく紅茶がとてもおいしくいれられるのが何よりのメリットですね。
社長のいたずらから始まった!? 水ゼリー誕生エピソード
- 水と暮らす編集部
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アーヴェントさんの名物のなかに『水ゼリー』がありますが、これはどういった経緯で作られたのでしょうか?
- 輿石さん
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これはね、いたずらです(笑)。あまりにも水がおいしいもんだから、水でゼリーを作って、わが家に遊びに来た友達が飲んでる水割りに、氷の代わりに放り込んでみたんです。見た目は氷に見えるから、友達も「なんじゃこりゃ!」って驚いて。でも、その友達が「これはおいしいから商品にしたほうがいい」と。それが水ゼリーの始まりです。
- 水と暮らす編集部
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最初はサプライズだったと(笑)。水ゼリー自体はどんな味なんですか?
- 輿石さん
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水道法という法律がありまして、水は生で売るわけにはいかないんです。そのためちょっとだけお砂糖を入れて、糖度は4度で作っています。甘いキャベツが4度ですから、さっぱりした甘さという感じですね。
- 水と暮らす編集部
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販売した途端、あちこちから好評を得たそうですね。
- 輿石さん
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いざ商品にしてみたら、たくさんの方に喜ばれたんです。お風呂上がりやスポーツの後に召し上がる方が多く、ご年配や離乳食の赤ちゃんの水分補給にと買っていかれる方も多くいます。中には、ダイエットしている女性で、ドレッシングだとカロリーが高いからサラダに水ゼリーをかけて食べているという方もいました。ベースが水ですから、何にでも使えるんですよね。ただ、熱には弱い。熱を加えるとただのお湯になってしまいますから(笑)。
- 水と暮らす編集部
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熱には要注意ですね(笑)。お水をスイーツにするという発想を、実際に商品化するとなったら今度は甘さや硬さなどかなり研究されたのではないでしょうか。
- 輿石さん
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最初はズルッと飲めるくらい軟らかなタイプだったんです。でも軟らかすぎると水ばっかり飲んでるみたいになってしまうし、用途としてアレンジを利かせられるようにするためにはある程度の硬さが必要だということになり、今の形に決まりました。今くらいの硬さのものを、袋の中で砕いてガラスの器に入れると、きれいな色になるんです。そうやって見た目の美しさも楽しんでもらえています。
- 水と暮らす編集部
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人気商品となった理由が、わかる気もします!
- 輿石さん
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初めて見た人はびっくりしますけどね。「水のゼリー?」と。ましてやパッケージ裏に「水道水」って書いてありますから(笑)。
日本紅茶協会認定店。おいしいスイーツと紅茶でのんびりした時間を提供
- 水と暮らす編集部
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アーヴェントさんは紅茶のおいしさでも人気だそうですね。
- 輿石さん
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日本紅茶協会さんから、おいしい紅茶を出す店という認定をいただいています。紅茶協会の方が覆面調査にいらして、紅茶のサービスの仕方や味、香りなどすべてを調査した上で、『おいしい紅茶の店』という認定をいただくんですよね。うちの娘は10数年間、紅茶研究家の磯淵 猛(いそぶち たけし)氏に師事していました。ですからうちでは、紅茶や中国茶、ハーブティなどの資格をもった彼女が、お客さまにお茶をいれています。
- 水と暮らす編集部
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アーヴェントさんとしては、お店の商品を通して富士吉田市の良さを伝えていきたいというお気持ちがあるそうですね。
- 輿石さん
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やっぱり富士山の文化は伝えていきたいなと思っています。ただ、地元のお菓子としていいものを作ろうと思っていますが、観光土産を作ろうという気持ちはないんです。富士山の近くに来ないと食べられないものを作りたい。富士山を見ながら、ここの空気を吸って、おいしいものを味わってほしいんですよね。おいしいものはここで食べていって!と。
だからこそ、一番初めに力を入れたのはあんみつなんです。寒天のおいしさは、水に左右されます。寒天は大阪寒天というゼリー質が硬めできれいに崩れる寒天を使い、蜜は和三盆糖蜜、小豆は十勝産を使用。一番ぜいたくなものを作ってみようと思って作ったら、とんでもないあんみつができてしまったんです。これも、いいお水があってこそですね。
- 水と暮らす編集部
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洋菓子店さんなのに、なぜ和菓子も作られたんですか?
- 輿石さん
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じつは私、もともと和菓子職人なんです(笑)。今はハワイで洋菓子店をやっている息子が洋菓子出身なんで、洋菓子店を始めました。でも、和菓子はよく水を使いますから、お水のいい土地にいると作りたくなるんですよね。だから今でも、ケーキのショーケースにようかんや練り切りなどが不定期に並んだり、予告なしにお客さまにお団子を配ったりしています。それも、私の気が向いたときだけなんですけど(笑)。最高品質のあんみつは、ケーキと同じく、いつでもお店で召し上がっていただけます。富士山に遊びに来た方には、うちに寄って、富士山の水と空気と一緒においしいお菓子をぜひ食べていただきたいですね。
Abend