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くずまんじゅうは水が命!福井の銘菓を生んだ湧水「雲城水」とは?

2021.07.12

小浜の名水「雲城水」と日本三大葛の「熊川葛」を使用した、「くずまんじゅう」は福井県にある御菓子処伊勢屋の夏の名物。水そのものに包まれているかのようなぷるんとした見た目はとても涼やかです。
店内では、常にできたてが雲城水の流水で冷やされています。葛の特性上、食べ頃はできあがってからわずか1時間以内。店頭でしか買えない味を求めて、わざわざ県外から足を運ぶ人も多いそう。

そんな「くずまんじゅう」のおいしさを支える小浜の名水「雲城水」について、伊勢屋6代目店主の上田浩人(うえだ ひろと)さんにお話をうかがいました。

トップの写真は、雲城水で冷却中のくずまんじゅう。(写真提供:御菓子処伊勢屋)

流水で冷却中されたくずまんじゅう
流水で冷却中されたくずまんじゅうは、何とも涼しげ。(写真提供:御菓子処伊勢屋)
水と暮らす編集部

伊勢屋名物の『くずまんじゅう』は、どういったお菓子でしょうか?

上田さん

すごくシンプルなお菓子で、“熊川葛”と“雲城水”で作った生地に、北海道産の小豆を使ったあんこを包んだおまんじゅうです。他では水まんじゅうと呼ばれることもありますね。当店の特徴は、葛に砂糖をいっさい使わない点で、甘みはあんこのみのやさしい味わいなんですよ。

水と暮らす編集部

どうしてこのような透明なおまんじゅうができたのでしょうか?

上田さん

私たちは2代目店主のときから『くずまんじゅう』を作り続けているのですが、もともとこのあたりの地域ではポピュラーなお菓子だったのです。

透明な生地の原料となるのは葛と水です。葛はかつて、福井県・若狭地方の至るところで栽培されており、手に入りやすかったのです。また“雲城水”と呼ばれる地下水が豊富に湧き出る地域でもあるので、八百屋や魚屋など、和菓子屋だけでなくいろんな商店が、自家製のくずまんじゅうを作って販売をしていた時代がありました

現在の葛の生産は、福井県若狭町の熊川地方でのみ行われていて、“熊川葛”と呼ばれる貴重なものになっています

水と暮らす編集部

なるほど、昔から地域では広く作られていたお菓子だったんですね! 熊川葛は特別な食材なのでしょうか?

上田さん

はい、奈良県の吉野葛、福岡県の秋月葛と並んで日本三大葛のひとつとして有名です。手間暇かけて作られた純白の高品質な葛で、口当たりは上品なまろやかさがあります。当店では、熊川葛と同じく有名な奈良県の吉野葛とブレンドして使っています。

くずまんじゅうのおいしさの秘けつ・雲城水

雲城水
雲城水。(写真提供:御菓子処伊勢屋)
水と暮らす編集部

熊川葛ともうひとつ重要なのが水ですよね。使われている雲城水とはどのような水でしょうか?

上田さん

小浜の地下30mの砂礫層から湧き出る地下水で、水源は福井県と滋賀県の境にある百里ヶ岳(ひゃくりがだけ)です。小浜へ流れてくる間に、他の湧水とも混じり合いながらろ過され、100年ほどかかってたどり着くといわれています

水量も豊富なことから、このあたりの集落では”掘り抜き井戸”といって各家庭が自分たちの井戸をもっているところがほとんどです。当社でも自社の井戸からくみ上げて使っていますよ。また近所の湧水場には、ひっきりなしに多くの人がくみに来ているのを見ます。

生まれも育ちも小浜なので雲城水をずっと飲んできましたが、成長して県外で暮らし、帰省して水を飲むと、すごくおいしいなと感じたことを覚えていますね。

水と暮らす編集部

雲城水は『くずまんじゅう』を作るとき、どのように使われているんでしょうか?

上田さん

『くずまんじゅう』の生地は、ほぼ水といえるほどたっぷり使っています。

葛と水を鍋に入れて火にかけながら練り、ちょうどいい硬さになるまで、水を足しては練るの繰り返しで生地を作ります。

葛に完全に火が通ったら、半球型のカップに生地とあんこを入れて、カップごと水で冷やすんです。カップに入れてすぐはすごく柔らかいのですが、20分ほど冷やして固まったらできあがりです。

店内では、雲城水の流水をためている水槽にまんじゅうを入れて冷やしています。注文が入るたびに水から引き上げるので、お客さまへは常にできたてをお渡しできているんですよ。

ちなみに、雲城水の温度は一年を通して約15度と一定なので、くみたての水で冷やしています

水と暮らす編集部

どうして常にできたての状態で用意をしているんですか?

上田さん

葛のデンプンは劣化しやすくて、時間がたつと透明から白く濁ってしまううえに、硬くなって食感も悪くなるからです。

葛自体が傷むというわけではないのですが、おいしく食べられる時間はすごく短くて、1時間以内が食べ頃ですね。

くずまんじゅうは、随時作っては水槽に追加しているんです。毎日、数千個から多い時は1万個もの数を、時間差で追加しています。冷凍や冷蔵で保存したり、前の日に作り置きしたりができない繊細なお菓子なので、販売は店頭のみで、発送も行っていません。

水と暮らす編集部

「雲城水で練り上げ、仕上げにたっぷりの雲城水にさらして冷やす。水をぜいたくに使ったお菓子なんですね! ぜひ、できたてを食べたいです!」

上田さん

店内には、イートインスペースを用意しているので、水槽から引き上げてすぐのものをその場で食べられますよ。雲城水も飲めます

ちなみに『くずまんじゅう』の上に雲城水で作ったクラッシュアイスをのせて、白蜜をかけたシンプルなかき氷店内で食べられますよ。

くずまんじゅうのかき氷
くずまんじゅうのかき氷。(写真提供:御菓子処伊勢屋)

雲城水を生かした和菓子作り

丁稚ようかん
丁稚ようかん。(写真提供:御菓子処伊勢屋)
水と暮らす編集部

雲城水はお菓子作りとの相性は良いのでしょうか?

上田さん

そうですね。お菓子作りには、無味無臭な水が良いと思っていて。特に『くずまんじゅう』はシンプルなお菓子なので、水道水を使うと、できあがりもカルキ臭が残ってしまいます。

その点、雲城水は、100年もの年月をかけてろ過されるからか、水質検査をしても菌がほぼ検出されないのでそのまま使えます。また、軟水が素材の味を引き立ててくれるんです。小浜で慣れ親しんだ身近な水ですが、幸運にも、その雲城水がとてもお菓子作りに合っていたんです

水と暮らす編集部

他にはどんな商品があるんでしょうか?

上田さん

雲城水を活かしたお菓子を挙げると、『くずまんじゅう』と並んで伝統銘菓として作り続けている秋冬の名物『丁稚ようかん』があります。いわゆる水ようかんで、練りようかんよりも多くの水を使います。柔らかくて、素朴なあんこの味わいを存分に感じてもらえるお菓子ですよ。

また、小浜市の酒蔵さんが雲城水で造る地酒『百伝ふ(ももつたう)』を使ったゼリーもあります。お酒の風味を生かした甘めのゼリーは、アルコール分を飛ばしているので誰でも楽しめますよ。ちなみに、名前の「百伝うふ」とは、「雲城水が百里ヶ岳から100年かかって伝ってきた水」ということからつけられているそうです。

全体の商品としては、季節によって変わるものを含めて全部で100種類くらいあります。小浜で作られているリコッタチーズを使ったどら焼きは、最近の当店の人気商品ですね。伝統のお菓子だけでなく、新商品の開発も常に考えています。

水と暮らす編集部

今開発している商品があればぜひ教えてください!

上田さん

最近では、『越(こし)のルビー』という福井県で作られている糖度の高いミディトマトをピューレにして、葛と雲城水を使った葛もちの商品を開発しました。店頭ですでに販売中です。これからは、福井県産の大きな完熟梅『黄金の梅』を使った商品の試作を始める予定です。

商品はいろいろありますが、特に人気の『くずまんじゅう』は当店までお越しいただかないと食べられませんので、お菓子をきっかけにたくさんのお客さまがこの地域へ遊びに来てくださるとうれしいです

まとめ

店内の雲城水で冷やされている様子が夏らしくて涼やか。
うっすらあんこが透けるみずみずしい「くずまんじゅう」は、話を聞いただけでも、ひんやりつるんとした舌触りに、やさしいあんこの甘みが口いっぱいに広がるさまを想像しました。
お店に行かないと手に入らないレアなお菓子は、食べに行きたくなりますね。

御菓子処 有限会社 伊勢屋

<公式HPはこちら>